Ⅱ
右腕で抱えるケーキの箱が、
妙に重く感じた。
スーツケースがゴトゴトと跳ねる。
段差のたびに持ち上げる腕にも、
もう力が入らない。
行き先はウィークリーマンション。
今夜だけでも眠れれば、それでいい。
「……少し、期待しすぎちゃってたな。」
『ここに居ればいいじゃないか』
もし俺様なら、
そんなふうに笑って言ってくれたかもしれない。
ううん。
きっと、そう言ってくれるって、
勝手に思っていた。
胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。
ウィークリーマンションの受付へ向かう。
ふと、右手に非常口の扉が見えた。
あの扉を開けたら──。
郁は首を横に振る。
「……周波が繋がってなきゃ、無理だ。」
猫の村へ行けないことよりも。
俺様と、周波が繋がっていない。
その事実の方が、
ずっと苦しかった。
「繋がっていたら……会えるはずなのに。」
その時、不意に気付く。
「……そういえば。」
「俺様……来てなかった。」
…私は一人だ。
息をゴクリと飲み込んだ。
…これからも一人なのかもしれない。
カードキーを受け取り、
よろよろと無機質な部屋に入る。
簡易キッチンの冷蔵庫にケーキの箱を入れ、
その場にスーツケースもリュックも放り出したまま
郁はベッドに腰を落とした。
両手で顔を覆う。
指の間から雫がこぼれ落ちる。
「ごめんね俺様…」
「会えなくなっちゃった、ごめん…俺様」
…会いたい。
その言葉は声になる事はなく、
郁の胸に飲み込まれて行った。
泣きつかれて少し眠ったのだろうか、
窓の外は逢魔時…薄紫に染まっていた。
身体中が冷えていた。
でもそれよりもっと胸の奥が凍っていた。
…やっぱり一人。
思い切って熱いシャワーを浴びる。
…泣いた。声を出して泣いた。
ザアザアと降る湯音に、
泣き声は簡単に飲み込まれてしまった。
髪も乾かさないまま、
ぼんやり窓の外を眺めていた。
ポタリと落ちるのは、髪からなのか
…瞳からなのか。
どうでもよかった。
コンコンコン
ドアが鳴った。
「お届け物です。」
「はい」
リサイクル業者が、明細を届けるって言ってたなぁ。
なんだか面倒くさい。
それでも顔を拭き
郁はドアを開けた。
目に飛び込んできたのは
花束だった。
甘く、懐かしい花の香りがした。




