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扉を開けたら  作者: 黒米 紅子
再び自室のドア
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郁は忙しかった。


ほんとに忙しいのだ。


保育園だけではない。


休みの日まで段ボールに囲まれ、

部屋は少しずつ空っぽになっていった。


俺様黒猫が郁のソファでイカ耳でいようと、


郁は忙しいのだ。




あれから、偏屈通りはずいぶんと変わった。


凹凸のある家の小屋根。


通りの真ん中には、花々が囲む小川。


小川に注ぐ泉は三段の流れになっており、


コンコンと水が湧き出ている。


……らしい。


家の外壁には、段違いの棚が取り付けられ、


花はもちろん、猫の遊び場にもなっている。


家の前のプランターには、野菜が育っている。


……らしい。


子猫や子ども達も走り回り


偏屈通りの人達も縁台を出して、隣同士で話をしたり

子ども達の世話をしている。


……らしい。



郁は猫の村にも、猫カフェにも行けてなかった。

俺様黒猫が毎日様子を見に来ているが、


郁は忙しかったのだ。


でもその忙しさも今日で終わ予定。


ただ俺様黒猫には通じて…いや、言ってない。



「ごめん…今日も遅くなるの」


『来れないのか』


「明後日は行ける…と思う。明々後日かも…」


『そっか…』 うーんと伸びをしてトボトボと


扉に向かう俺様黒猫。


『じゃぁな…』


「俺様…ごめん」


扉の隙間から陽炎のように消える俺様黒猫の尻尾を見て、


郁は胸が詰まった。



そして翌日から俺様黒猫が来なくなった…。



郁はまだ安心していた。


3日後には、村へ行ける…そう信じて。




「この黄色い札のは全て廃棄でお願いします。」


「赤い札は、リサイクル業者へ引渡しで…。」


「青の札は、図書館へお願いします」



郁は大きなスーツケースにリュック、


そして手には、ケーキボックスを持ち業者に指示していた。


このマンションはペット厳禁。


俺様黒猫が出入りするのを誰かに見られたら、


それこそ、契約違反だ。


郁は思い切ってペットOKの部屋に引っ越すつもりでいた。


とりあえずはウイークリーマンションを借りて、


俺様とじっくり探すつもりで…。




「…今日は私の誕生日なんだ…


一緒にお祝いしてくれるかな?」



業者が引き払い、


掃除も済ませた空っぽの部屋を見て呟く。


先程、引渡しの不動産屋に鍵も返した。


思い残すことはない。


郁は弾む気持ちで部屋のドアを開けた…。


……暖かな風が吹くはずだった。



キッチンだった。



パタン。


閉める。



深呼吸して、



ガチャ


開ける。



…キッチンだった…何も変わらない…。



どうしよう…


どうしよう…


郁はケーキの箱を抱え直した。



「…俺様ぁ…」






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