玖
ドアを開けると、そこは俺様黒猫の
モニター室になっていた。
郁は目が点になる。
『来たのか…』
「ねぇ俺様…このドアを開けると
色々に繋がるのって心臓に悪いんだけど…」
郁は机にタッパーを取り出して置く。
『基本的に俺の居るところに繋がる』
「えーーそれって
トイレとかお風呂だって事もあるじゃん!」
…猫ならいいけど、人では困ると思った郁だった。
『猫でもマズイだろ』
『そもそもだ。』
『俺とお前の周波が合致してない時は
村の入り口になるはずだ。』
…なーんだ。
郁は水筒からアイスティをカップに注いだ。
猫状態の俺様黒猫は恨めしそうに
それを見ていた。
モニターには村の様子が写し出されていた。
偏屈通りの猫は相変わらずだ。
「家から出るきっかけでもあると、いいのかな~」
黒猫にスプーンでスイートポテトを差し出しながら
ぼんやりと郁は言った。
「『なんか面白そうな物ができたぞ』なーんて思えば
家から出る人もいるかも」
『お前なら何を置く?』
「水辺とか、花…はありきたりかな?
水路が流れる道とか…」
ふと、猫の遊び場…猫カフェの
壁一面のキャットウォールを思い浮かべた。
『ほぉ、それも面白い。』
思案顔の俺様であった。
郁は鼻歌を歌いながら、
「お外でお茶しよ俺様。
考えるより、気分転換!」
そそくさと片付けを始めた。
お揃いのカップ。
郁はカップを口にした。
「気持ちいい風~」
『あぁ』
そよぐ風。
揺れる郁の後毛。
俺様黒猫はクッションで丸くなり、
郁はそっとその背を撫でた。
『夕飯…までいるんだろう?』
ピクピクと耳を動かして俺様黒猫が呟く。
「うん、何か作るね。」
尻尾がパタパタと揺れた。
キッチンは、見違えるように整っていた。
何もなかったストックルームには、
瓶詰めや缶詰、根菜が並び
郁がどうしても作りたかった、
フルーツ酒が漬けられている。
棚の一部は、ハーブだろうか、
上から吊るされ、良い香りを放っていた。
……猫缶は置いてないよ。
玉ねぎを吊るしながら郁が言う。
「お前の作る飯だけでいい」
ドアに持たれ腕を組んで郁を眺めていた俺様が言う
…その姿で言われるにのは反則だわ。
その言葉に郁は耳まで真っ赤になる。
俺様はそれを見て破顔した。
照れくさそうに視線を外す俺様。
キッチンの
薄水色のカーテンが風に揺れている。
玄関に脇の庭先には、
庭に並ぶ色違いのタオルが干され、
ウッドデッキには、
肉球のクッションが乗せられたベンチが置かれている。
家の周りは、
ピンクや白のかすみ草に、
白いブバルディア。
ところどころに、
紫色のエキザカムが丸くまとまって咲いている。
「お家が生きてるって感じがするね。」
窓辺のハーブが風に揺れる。
干されたタオルが、ふわりと膨らむ。
小さな花々も、嬉しそうに首を揺らした。
俺様は静かに郁の隣へ立った。
「あぁ、息を吹き返したな。」
…固く丸まっていた自分を思い出す。
郁の手を握る。
「ここにお前が居るだけで…いいんだ。」
手は少しだけ強く握り返された。




