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扉を開けたら  作者: 黒米 紅子
再び自室のドア
50/55

「…俺様…も??」


「あぁ」



郁はスッと立ち上がり、


自室へ向かう。



「おい、郁!!」


黒猫は初めて名を呼んだのも気づかず後を追う。



「おい、どうした。」



郁はリュックからスマホを取り出した。



「俺様…見て。」


郁はスマホを差し出した。


そこには猫の村で撮った写真が並んでいた。




「…俺様…いつも笑ってるよ。ほら」


ソファの隣の席をポンポンと叩いて、


座るように伝える。



輪になっている猫の横で、卵焼きを頬張る黒猫。


カップに残ったプリンを舐める黒猫。


放り投げた洗濯物から顔出す黒猫。


オムライスの前で首を傾げる黒猫。


絵を眺めて尻尾を揺らす黒猫。


子猫によじ登られる黒猫。


…そして花畑の中から顔出す黒猫。




一枚。


また一枚。


画面をめくるたび、


俺様の表情が少しずつ柔らかくなっていく。





「お前…こんなに撮ってたのか…。」


「目が離せなかった…。あまりにも人間臭くて。」


クスクスと郁は笑った。


「だからね。」


「俺様、ちゃんと笑ってる。」


「こんなに笑ってる人が、惰性で生きてるなんて思えないよ。」




「だから、消えない。」





「消えるもんか。」


俺様は郁の手を包み込んだ。


「郁。」


「お前がいる限り。」


「俺は消えない。」


「ありがとう。」



二人は黙って肩を寄せ合っていた。



窓の外では、


夕日がゆっくり窓を赤く染めていく。


その日から。


郁の日常は少しだけ変わった。




…………



郁は時間に追われていた。


今までの保育園から、


近くの大型店舗内の保育園に移動したのだ。


3歳までの子どもを預かっている保育園。


人数は少ないが、


そのショッピングモールで


働く人のお子さんのため保育園。


朝は比較的ゆっくりだが、


登園がまちまちになる。


「先生は大変だわ」


さつまいもをマッシュしながら、郁は思った。


…給食もおやつの数も、


登園人数によって量が変わる。


土日が一番子どもの数が多いのだ。


そして今日は土曜日。


365日休みのないショッピングモール。


大人も、子どもも大変なのだった。




「ただいま~」


誰も居ない部屋に戻る。


水筒を洗い、シャワーし洗濯機を回す。




今の保育園のいいところは、


余ったおやつや惣菜を持ち帰れるところ。


実のところ、先生達も食べてる暇がないのだ。


バラバラの登園。


バラバラに帰宅。



今日は素朴なスイーツポテトもどきを


タッパ~に詰めて貰った。


リュックにそれを入れ、



郁は、一度閉めた部屋の戸を見つめた。


小さく笑う。


ドアノブにもう一度手を掛けた。


ガチャ。


「ただいま~」










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