陸
「俺様!!俺様ぁ~」
郁は、男性に飛びついた。
「…消えちゃったかと思った。
怖かったんだから~」
「お、おっと」
男性は郁を抱き止めた。
グスグスと腕の中で泣いている郁の背中を
トントンと優しく叩く。
…まさか、こう来るとはな。
郁の旋毛を見下ろしながら、呟いた。
グズグズと言う声が、だんだんと小さくなり、
郁の手が、男性の胸を確かめるように押し、
少し身を離して、腕を触り、
背を撫で…
ハッとして飛び退いた。
「俺様じゃない?!」
ソファの前にヘナヘナと座り込む。
「マジ今頃か…」
クククッと笑いながら男性が言う。
「俺様黒猫で合ってるぜ」
そして郁の前に
目を合わせるようにしゃがんだ。
「目を見ろ。」
金眼銀目の中に、郁の情けない顔が映っている。
でもその丸い瞳は、人とは違い、
黒目部分が縦長になっている。
「俺様…なの?」
「あぁ、そうだよ。」
「俺様は人だったの?」
「少し違うな、人でもあり猫でもある…」
…獣人???
郁は俺様黒猫のあたまの触れる。
「耳ないね…」
「…そう言う意味で言ったんじゃねぇ」
呆れたように、俺様黒猫は立ち上がり、
キッチンへ行く。
郁はぼんやりそれを見ていた。
…尻尾もない。
「ほら、ソファに座れ、足が痺れるだろう」
腕を持って引き上げられ、
ポスンと座らされる。
「飲めよ」
カップの中はココアだった。
ご丁寧に郁の置き入りマシュマロは浮いている。
「よく知ってるね…」
「見てたからな」
郁は黙って俺様を見つめる。
「……」
「ち、違うぞ。」
「まだ何も言ってないよ。」
「その顔は絶対変な事考えてる。」
「お前の考えてるような意味じゃない」
猫の村へ連れて行けるような人間か
ランダムで調べていただけだ。」
「私以外も見てたって事?」
…それはそれでモヤっとする。
暖かいココアに息を吹きかけながら郁は思った。
「疲れてる時はバターコーヒー。
気持ちが落ち着かない時はマシュマロココア。
そうやって自分を守って来ただろお前」
…うん、そう。
天涯孤独の自分を前に進ませるには、
ちょっとしたアイテムと
…猫さまだけが癒しだった。
「気付いたら、
放っておけなくなってた。」
「……お前を」




