泗
風が凪いでいる。
まるで通りが眠っているようだった。
「この通りって」
『偏屈通り…何かに取り憑かれた人が多い』
「取り憑かれた?」
通りは薄暗くシンと音も無かった。
ただ静かに花が揺れているだけ。
子猫達も走り回っていない。
ただ、大人の猫達が、
通りに出された木箱の上や、
荷車の上、小屋根の上で
まどろんでいる。
彼らは胡散臭そうな目でこちらを見ている。
窓はほとんどしまっており、
中の様子は伺えない。
まるで無人のようだ。
「住んでないみたい」
『住んでてもある日突然居なくなったりする』
「なんで!?」
『何処にも属せなくなるからだ』
『人の世でも、猫の村でも…
何処にも居場所が見つからない…』
「そんな…」
『気づくと消えてるんだ…。』
道の一番外れには、
それまでと違って、
道に直接面しておらず、
奥まった家があった。
『ここだ』
小道を登ると
白い柵のある花壇に囲まれて、
背を大きなオリーブの木が覆っている。
褪せたグリーンの屋根。
墨色のような外壁。
重厚なウッドのドア。
ウッドデッキには
何も植えられていない鉢が転がっている。
『開けてくれ』
「う、うん」
重いドアを開けると、玄関の間があり、
右手にリビングだろう。
ソファとテーブル
飾り棚がある。
向かいにもドアがある。
『座っててくれ』
リビングのソファに座ると、
俺様黒猫が奥へと消えた。
向かった先はキッチンだろうか。
カチカチとどこから時計を刻む音がする。
……「俺様??」
あまりにも時間が経ちすぎていた。
「俺様!」
胸の奥がざわついた。
もしかして居なくなるんじゃないか。
もう会えなくなるんじゃないか。
そんな嫌な考えだけが、
頭の中を埋め尽くしていく。
郁は立ち上がり
様子を伺いながら、
奥の部屋をのぞいた。
やはりそこはダイニングキッチン。
しかし少し埃っぽい。
キッチンの窓からは、
鬱蒼とした森が見える。
使用感のない食器棚。
埃の被った鍋やフライパンが
かけられている。
右手のドアを開けるとストックルーム。
ヒヤッとした空気が流れ込んで来た。
「俺様?」
三方の棚には何も置いてない。
もちろん、俺様黒猫も居ない…
…トイレかな。
でもトイレは玄関脇だった。
郁が座っていた時は奥へ行ったはず…。
…それに猫は人のトイレ使わないわよね。
「俺様…どこ?」




