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扉を開けたら  作者: 黒米 紅子
小さな映画館
42/49

『ジャスの店でも寄ってくか?』


いつもより帰るペースが遅いのに気付いたのだろう。


俺様黒猫が郁に提案した。


「うん、そだね!甘いデザートでも食べよう。」


何故だか本当に


このまま帰るのが嫌だった。



カランカラン


「いらっしゃいませぇ~」


ジャスの明るい声に気が抜ける。


「あ!郁さん、いらっしゃい!」


…店内にラップが流れている。


厨房から、白澤も顔出した。


「ども…」


イマイチ、ノリが悪い。


『顔出せるようになったな』


クククと俺様黒猫が笑った。



「郁さん、ご注文は?」


「デザート!!大盛りで!」


『良いのかオイ』


「あと、コーヒーね。普通の」


「はーい」


ジャスは厨房に声をかけた。


「明さん、郁さんにデザートダブルで!」


「了解、ジャス」



…おお、彼氏彼女に会話になってる。


「お待たせしました。」


コーヒーと一緒に出されたのは


山盛りのティラミス。


『胸焼けするぞ』


「わけっこしようね~」


…ちょっと無理のある量だなと思った郁だった。



「そのティラミス、明さんの手作りです。


最近、デザート系は、明さん担当なんですよ」


「腕上げたんだね。」


「はい、もう私も嬉しくって…」



ガラガラドッシャン!!


「だ、大丈夫??明さん!!」



…まだまだ、シャイな白澤だった。



「お腹いっぱい、当分デザートはいいわ。」


『気は治ったか?』


「気にしてくれてたんだ」


『あ、当たり前だろ!』



「ありがとうございました。」


店を出て、ゆっくり歩く。


子ども達も帰宅したのだろう。


家々からはオレンジ色の光が漏れている。


フムフムの家だけ真っ暗だった。




地流しには、もう誰も居ない。


花に混じって


カヤツリグサや


猫じゃらしが、寂しそうに揺れている。



「あのね」


『あぁ』


「さっきユーキさんと神戸さんの話を聞いてて」


『あぁ』


「急に寂しくなったの』


『なんでかな~」


『…なんでだろうな』


トクトクトクと


郁の鼓動が高まる。


「きっとね、私」


『あぁ』



郁は門の向こうを見つめた。


花の香り。


夕餉の匂い。


遠くで笑う子どもの声。


門の上には、

細い月が掛かっていた。


まるで猫の爪のようだ。


くるりと振り返って郁は言う。


「ここが……好きなんだと思う」


俺様黒猫は、


そのオッドアイを細めて郁を見ている。


「じゃぁね。帰るね~」


郁は一歩踏み出した。



『……俺もだ、郁』


その声は、

郁には届かなかった。




















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