六
『ジャスの店でも寄ってくか?』
いつもより帰るペースが遅いのに気付いたのだろう。
俺様黒猫が郁に提案した。
「うん、そだね!甘いデザートでも食べよう。」
何故だか本当に
このまま帰るのが嫌だった。
カランカラン
「いらっしゃいませぇ~」
ジャスの明るい声に気が抜ける。
「あ!郁さん、いらっしゃい!」
…店内にラップが流れている。
厨房から、白澤も顔出した。
「ども…」
イマイチ、ノリが悪い。
『顔出せるようになったな』
クククと俺様黒猫が笑った。
「郁さん、ご注文は?」
「デザート!!大盛りで!」
『良いのかオイ』
「あと、コーヒーね。普通の」
「はーい」
ジャスは厨房に声をかけた。
「明さん、郁さんにデザートダブルで!」
「了解、ジャス」
…おお、彼氏彼女に会話になってる。
「お待たせしました。」
コーヒーと一緒に出されたのは
山盛りのティラミス。
『胸焼けするぞ』
「わけっこしようね~」
…ちょっと無理のある量だなと思った郁だった。
「そのティラミス、明さんの手作りです。
最近、デザート系は、明さん担当なんですよ」
「腕上げたんだね。」
「はい、もう私も嬉しくって…」
ガラガラドッシャン!!
「だ、大丈夫??明さん!!」
…まだまだ、シャイな白澤だった。
「お腹いっぱい、当分デザートはいいわ。」
『気は治ったか?』
「気にしてくれてたんだ」
『あ、当たり前だろ!』
「ありがとうございました。」
店を出て、ゆっくり歩く。
子ども達も帰宅したのだろう。
家々からはオレンジ色の光が漏れている。
フムフムの家だけ真っ暗だった。
地流しには、もう誰も居ない。
花に混じって
カヤツリグサや
猫じゃらしが、寂しそうに揺れている。
「あのね」
『あぁ』
「さっきユーキさんと神戸さんの話を聞いてて」
『あぁ』
「急に寂しくなったの』
『なんでかな~」
『…なんでだろうな』
トクトクトクと
郁の鼓動が高まる。
「きっとね、私」
『あぁ』
郁は門の向こうを見つめた。
花の香り。
夕餉の匂い。
遠くで笑う子どもの声。
門の上には、
細い月が掛かっていた。
まるで猫の爪のようだ。
くるりと振り返って郁は言う。
「ここが……好きなんだと思う」
俺様黒猫は、
そのオッドアイを細めて郁を見ている。
「じゃぁね。帰るね~」
郁は一歩踏み出した。
『……俺もだ、郁』
その声は、
郁には届かなかった。




