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扉を開けたら  作者: 黒米 紅子
小さな映画館
41/49

「それなら、花を植えましょう。」


ユーキが紫色の小さな花束を抱え戻って来た。


話が聞こえていたのだろう。



「神戸さんは、いつも花一論を


バサラと一緒に手向けていたんです。」


郁にそう話すと、


クルクルと紫の花を、丁寧にラッピングして行く。


「ユーキさん…それは。」


視線が花束に向く。


「今日は神戸さんだけじゃなく、


バサラと私の気持ちを込めて花束にしました。」



「ありがとう、ユーキさん」


「いえ…神戸さん、少しお話し聞いてもらえますか?」


「郁さんも、黒猫ちゃんも。」


「はい」


「えぇ…」


コツンと黒猫の頭をこずく。


半目だけ目を開けて俺様黒猫が返事をする。


『わかった。』



「ウチのバサラは、始祖からずっとバサラなんです。」



…猫又?


『そうじゃない』




「歴代、バサラと名付けられ、花畑を守っています。」


「もう何代目がわかりません。」


「そうなんですか。」


神戸の手は、相変わらず優しい。



「私も先代のバサラを見送りました。」


「泣いて泣いて…涙も枯れた頃…」


「このバサラが不意に現れました。」



バサラが顔をあげ、ユーキを見つめる。


小さくミィと鳴いた。



不意に、花の香りが強く入り込んで来る。


香りは三人を巡るように、


そして消えて行った。


「…シィ?」


神戸が辺りを見回し、胸を押さえた。


…そして、そっと俯いた。



「バサラの魂が、歴代から続いているのか、


全く違うのかはわかりません。」


「でも、そこに花がある限り、


ここに猫がいる限り…」


「そこがバサラと私の居場所です。」



ユーキはゆっくりと冷めてしまったお茶を口にした。



「私達が忘れない限り…たとえ忘れても


花はそこに咲くのです。」




「花はそこに咲く…」


神戸は顔を上げた。



「神戸さん、花を植えましょう。


シィちゃんが寂しくないように、


私達が寂しくないように…。」



神戸は頷き、もう一度辺りを見回した。



「…そうですね、そして私が…」


「私達が忘れないように。」



そして、じっとユーキを見つめた。



「また…出会うまで…忘れないように。」


「僕が、この場所が居場所である事を


見失わないように、花を植えます。」




それから二人とバサラは、


花の種を選ぶ事にした。


神戸に笑顔が戻っていた。


ユーキと神戸の手が重なる。


バサラは嬉しそうに尾を振った。



郁は二人に挨拶をし、


俺様黒猫を抱きしめて門へと向かった。



門までの道が遠く感じた。


『おい、大丈夫か?』


「うん、なんかモヤっとするだけ」



郁はギュッと俺様黒猫を抱きしめた。


頬を首筋へ埋める。


黒猫の体温が、

腕の中へゆっくりと伝わってくる。



『どうした?』



…なぜそうしたのか、郁にもわからなかった。







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