四
「ごめんんさい、少しご一緒させて頂いて良いかしら。」
ユーキが、一人の男性を伴って入って来た。
ペコリと頭を下げる男性。
顔は日に焼け、
普段は手袋をしているのだろう。
半袖の腕から手首までは日焼けしているが、
手先だけは白い。
「あ、どうぞ。」
郁は、席を開けるため、
俺様黒猫を抱き上げようとした。
「郁さん、猫ちゃんはそのままでいいわ。
私ちょっと花を摘んでくるので、
神戸さんはこちらに座ってて。」
ユーキは自分が座っていた椅子を勧めた。
「お邪魔してすみません、神戸と言います。」
帽子を脱ぎ、背筋を伸ばしてキチンと座る。
「じゃ、行って来ますね。バサラもお願いね」
「すみませんユーキさん。ご無理言います。」
ユーキはヒラヒラと手を振って出て行った。
ちゃんと神戸の前に工芸茶を入れて。
…出来る女は違うね~。
『…コメントは避けるわ』
…なによソレ。
「神戸さんは、お花が好きなんですね。」
ゆっくりと工芸茶を飲む彼に声をかける。
「いや、自分ではなく…」
「シィという愛猫が好きだったんです。」
「好きだった…って」
「はい、一年前に亡くなりました。」
「花が好きで、よく花畑で戯れてました。」
「…そうだったんですね。」
「すみません、失礼な事お聞きして。」
カチャンとカップがソーサーに置く音がした。
「いいえ、むしろ聞いて頂くのが嬉しいですね。」
「え?」
「話す事で、ここに…」
神戸は胸に手を当てる。
「まだしっかり、シィが居ると感じるので。」
バサラがトンと、
神戸の膝に乗った。
「バサラも仲良しだったもんな。」
郁は、花畑でのバサラの様子を思い起こした。
…そっか、昨年までは2匹で居たんだ…。
「今までは毎月、バサラと花を手向けていたんですが、
来月からは、また行商に出るので…。」
バサラの背を撫でる手が止まる。
「どうしても【シオン】の花を手向けてたくて。」
「シオン?」
「…花言葉が、追憶…」
「遠くにある人を想うという意味なんです。」
手が優しくバサラの背を撫で始める。
ユーキの言葉が蘇る。
[花はただそこに咲いて癒すだけ]
…猫のシィも、神戸も癒されるだけ。
「どうしても、人より先に猫が逝ってしまうので…。」
ズキン…郁の胸の奥が痛んだ。
…そっと黒猫を見る。
隣の席で、ピクッと耳が動いた。
それでも目は開けない。
俺様黒猫は、寝たふりをしていた。




