三
バサラに先導され、
元来た道を戻る。
「…幻想的な花畑だったね」
『あぁ』
がさり、がさりと落ち葉を踏んで歩く。
濃い緑の匂いを思いっきり吸い込んだ。
「森林浴だね。」
『あぁ』
「花畑が、猫にも人にも癒し…
素敵だよね。…」
『あぁ』
「人の悲しみも、猫の悲しみも癒してくれるように、
先人は心の優しい人だったんだね。」
『あぁ』
「…キャベツは赤くて、バナナは緑だよね」
『あぁ』
郁はトトッと俺様黒猫を追い越し、
サクッと抱き上げ目を合わせた。
「…色盲じゃないよね?」
「ん?なんだ?」
「何だじゃないわよ、人の話を聞いてないでしょ?」
耳を伏せ、ダラリと足を垂らし答える。
『聞いてたぞ』
「どきまで?」
「…幻想的…だったかな?』
…最初やんか。
「どうしちゃったの?」
郁は、俺様黒猫を抱き抱えた。
「疲れちゃった?」
『ちょっとな』
郁は歩きながら、黒猫の背を撫でた。
「そっか…」
バサラが2人が追いつくのを待っていた。
「お店が花畑みたいですね。」
「うふふ、そう見えるなら嬉しい。」
ユーキの家は、花屋だった。
入り口の前には、樹木が鉢で並んでいる。
両端は大きな垂れ柳、うっすら黄色く見える。
その手間に少し背の低い
白い花をつけたアーモンドの木。
更に低くアベリアのピンク、白が並び
甘い香りを漂わせている。
入り口近くには、カルミアの赤い花。
そして中にに入ると
階段上になった棚がぐるりと並び、
ところ狭しと花が並んでいた。
…圧巻だわ。
棚と棚の間に、小さな潜り戸があり、
猫の暖簾がかかっている。
その奥が居住になっているようだ。
「どうぞこちらに。
店内だと花の香りで酔いますから。」
…花の香りで二日酔いにはなりなくない。
『…そんなタマか?』
「…うるさい!」
「どうぞこちらに。」
小さな丸いテーブルの真ん中には
多肉植物が丸い鉢に植えられている。
コトリ。
テーブルに広口にガラスポットと
カップが並べられた。
コポコポとお湯が注がれる。
「わぁ、花が開いた。」
「工芸茶と言います。
今日はジャスミンと百合にしてみました。」
大きな百合の花が、
静かに開いて行く。
『ほう、見事だな』
「どうぞ召し上がれ。」
そっとカップに注がれた薄い琥珀。
「…すごく良い香り。」
スッキリとした飲みご心地。
思ったより苦味もない。
「美味しい」
「よかった」
ミュー!
バサラが耳をピンと立てた。
「あら、お客様だわ。」
「ごめんなさい、ちょっと失礼。」
バサラはユーキより一足先に店へ飛び出して行く。
「バサラも店員さんだね」
ふふっと郁が笑う。
『…それを言うなら看板猫だ。』




