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花畑の中に、
鯖トラの尻尾が揺れる。
ツンツンと揺れる尻尾。
時々、花の間から顔出し
ミュっと鳴く姿に郁は悶えた。
…ファンタジーの世界だ。
「あら、珍しい。」
後ろから声がかかった。
腕に籠をかけ、小さな麦わら帽子を被った女性だった。
人差し指で顎の下を押さえ、小首を傾げる。
薄紫のワンピースの裾が風を受ける。
緩く巻かれたシルバーブロンドの髪。
白いボレロ。
…羽があったら、花の妖精と間違えちゃうかも。
「あ、こんにちは。私は郁と言います。」
ニャニャナーオ
鯖トラが走り込んで来た。
「…バサラが案内したのね。ふふふ、珍しいわね。」
「私はユーキと言います。」
「ようこそ始祖の花畑へ」
「始祖の花畑?」
「ええ、」
ユーキは、花畑をぐるりと見回して言った。
「人と猫が初めて村を作った時、
この花畑も作ったんです。」
「人も猫も癒されるよう…
そして、悲しまないように」
「…悲しむ?」
…ざくりと歩きながら花畑へ向かう。
「花も、木も手をかけるだけ返してくれます。」
「人だけは…違う」
ユーキは、しゃがんで白い花を摘み出した。
「この花は、アネモネ。花言葉は希望です」
手早く花摘み、纏めてくくる。
「人だけが裏切り、裏切られたと感じる。」
鯖トラの尻尾が揺れる。
ミィと小さく鳴いた。
それからユーキは、アネモネの先にある、
紫の花をまとめ出す。
「この花はアリウム…深い悲しみという花言葉。」
「花言葉は数ありますが、
花は何も知りません。ただそこに咲いて癒すだけ」
「人だけが、悲しみに名をつける。」
…そっと鯖トラの背を撫でた。
「猫は癒し…でも…」
「きっと始祖は、人だけじゃなく
猫も癒されるべきと思ったんでしょうね。」
「相棒だから…」
鯖トラがユーキにすり寄る。
「相棒…」
郁は俺様黒猫を見る。
黒猫も郁をじっと見つめていた。
「あらやだ、しんみりと話し込んでしまったわ。」
「ごめんなさいね。」
「いえ、勉強になりました。」
「そんなつもりじゃなかったのよ…」
パンパンとワンピースの土を払い、
首を傾け、
「お詫びにお茶でもいかが?」
…妖精からのお誘いは断れない。
「嬉しいわ!先に戻ってるから
バサラ、連れて来てね。約束よ」
ミャァ。
『俺の誘いも断るなよ。』
…だからここに居るんだが?




