一
郁は椅子を片付けていた。
今日は保育園の
「子ども映画鑑賞会」の日だった。
年長さん3クラスを引き連れ、
街の小さな映画館へ連れて来たのだ。
映画館といっても、とうに廃業している。
ただ、街の人が活用できるように
街が舞台を広げ、音響を手入れしたお陰で、
こうやって子ども達が楽しめる。
時々、有志の人形劇を見られたり、
音楽を聴く会も開催されたりする。
ただし、会場の後片付けは、
こちらの仕事だ。
使用した椅子を戻し(戻りにくくなっている)
ゴミを拾い、(幸い水筒しか持たせてない)
忘れ物がないかチェックする。
(良かった。今日は忘れ物もなかったわ)
後は施錠して鍵を管理人に渡し
退館届を記入し直帰するだけだ。
「よし終わった!」
「ありがとうございました。」
郁は管理人室を出た。
古い木の廊下を進み、入り口へと向かう。
「あれ?」
映写室へ続く階段のドアが少し開いている。
「管理人さん閉め忘れた?」
郁はドアを閉めようとノブに手をかけ…
…思いっきり開けた。
2匹の猫が、
こちらに背を向けていた。
「怪我するじゃない!!」
尻尾がドアから出ていなければ…
思いっきり閉めていただろう。
『あ、わりぃ』
「気が付かなかったら大怪我よ!」
しょぼくれる黒猫。
ミューゥ
鯖トラが郁の足に頭を擦りつける。
グルグルグル
コテンとお腹を見せて横になり、
つぶらな瞳でじっと見つめる。
…あぁぁ、もうダメ…
「いい子ねぇ~」
思わずしゃがんで撫でる郁だった。
『俺もやれば良いか?』
「…バカね。」
…ちょっと見たいと思ったのは黙っておこう。
「どこへ行くの」
相変わらず花の香りに包まれる村。
走り回る子ども達。
一列に並んで歩く子猫達。
コーヒーの香り。
カランカランとドアベルの鳴る音。
【売家】の看板。
サワサワと頬を撫でる風。
アルムの家を横目に、
鯖トラと黒猫、
木々の間を進む。
葉の匂いが濃くなる。
湿った足元。
日がかげる。
歩くたびに、ざくりと音がする落ち葉。
森を抜けると、
目が痛いほどの日差し。
そして目の前には、
「…すごい!」
花畑が広がっていた。
風が吹く。
一面の花が、波のように揺れる。
『ここが始まりだ。』




