306話 私が生きた世界へ。
ディアーナ王女というキャラクターは、安易な発想で生まれた。
主人公のエラを中心としたドロドロ劇に、スパイスを加えるためだけに。
高飛車で、傲慢で、威張ることと着飾る事だけが得意な、王女様。
エラが気に食わなくて、意地悪をしたらレオン王子とルシアン王子から目の敵にされた愚かな女。
後継者なのに、そのお株すら奪われて、後妻のエラとの間に生まれた男児に注目を持っていかれて。
影響力が強かったエラは、レオンやルシアンに守られて生き残り。
影響力は薄くなっていたのに、王族を根絶やしにすると旗揚げした人たちの判断で処刑された。
それがどれほど理不尽か。
どんなに恨んだか。
どれだけ悔しかったか。
すべて原作者の私の采配。
性格も行動も、周りの悪感情をすべて引き受けたディアーナは、辛いなんてものじゃなかっただろう。
私が、お腹を刺された痛み以上のものが、彼女をずっと苦しめていたとしたら。
「やめろぉぉぉぉお!!」
ぼうっとしていたら、頭を掴んで倒された。
床にべちゃっと音を立てて倒れ込むと、その途端にうるさい音が耳につく。
いつの間に、戻ってきたんだろう。
刺された傷も、熱さも、頭を絞られる痛みも、ここにある。
火の燃える音、瓦礫が落ちる音、かすかに聞こえる歓声も。
息を荒くして、目を真っ赤にして、私を睨みつけるディアーナも。
「だ、れで、す?」
「ディアーナ様……?ディアーナ様ぁぁぁあ!?」
ジークの声と、メリーの悲鳴。
私たち以外の時間が、動き出していた。
魔法が解けたんだ。
だけど、まずいなぁ。
何も、手立てがない。
そもそも、倒せるの?
それ以前に、私これ致命傷じゃない?
笑っちゃうくらい出血してるんだけど。
「殺す……殺してやる!!痛くしてっ、みじめにっ!!」
もし、般若の面がここにあったなら、きっと今のディアーナにそっくりなんだろうな。
だけど、その元凶は私だ。
私は、何もわかってなかった。
自分の罪を考えるのに必死で、勝手に周りを好きになった。
守りたいものができた。
そんなの、ディアーナからしたら……。
ムカつくよなあ、いやだよなぁ。
1周目から、2周目も苦悩して。
大切なものも、自分の信念に従って手をかけた。
チートな能力を持ってても、またうまくいかないんだもん。
だからって、私に固執して、自分をこんなになるまで削るなんて。
「ほんと……共感できない女。バカじゃないの」
「うるさい!!」
「自分の本当に欲しいものも、わかんない?」
「だまれ!」
振り下ろされた剣を、私は瞬きしないで見つめてた。
だって、わかってたから。
私はね、他人任せなの。
ガキンと音がする。
ボスっと何かが突進する音も。
「避けるくらいしてくださいよっ……」
「ディアーナ様は、殺させないっ……!」
ボロボロのジークが力を振り絞って、剣をはじく。
メリーが危ないことを承知でディアーナに抱き着いて止める。
もう失血しすぎてフラフラなのに、耳がこちらに向かう足音を拾った。
扉の前に立つのは、二人。
王宮内は火が回ってるのに、ディアーナの名前を叫びながら来るなんて、彼女たちだけ。
「ディアーナ様……!?なにがあったんですか!」
「チッ、火が回ってやがる。おい!!逃げるぞ!」
コマチも、アテナも、来てくれた。
それを見たディアーナは、泣きそうな顔をしてる。
そうだね、ここからまた私の快進撃始まると思った?
そうだったら、よかったのにね。
床に倒れたまま、起き上がれない。
力が入らない。
さっきの憎まれ口で、使い切ったかも。
「何がわかるのよ……わかったような口を利かないで」
ディアーナの目から、涙がこぼれてる。
涙じゃなくて、血だ。
痛々しいなぁ、この子は。
だけど、もう私死にそう。
ディアーナも、この人も幸せになれればよかったのに。
私が原作者なのに、この人の望み一つ叶えてやらないで。
「物語の、責任かぁ」
これはエゴだ。
私が勝手に思ってるだけで、それすらディアーナには邪魔なもの。
だけど、私は彼女のおかげでこの世界に入れた。
私はただの登場人物だ。
だから、これくらい通させてほしい。
私は、私の物語の責任を取らなくちゃいけない。
それが、どんなに人任せでも。
「ディアーナ様、ディアーナ様っ!!血が、早く止血を」
「コマチ、静かに。わかってんだろ、ディアーナはもう」
「は。死ぬんですか?……ディアーナ様」
「やだ、諦めちゃいやですディアーナ様」
いつの間にか私の周りに4人がいた。
倒れる私を仰向けにして、神妙な顔。
視界の端に、ディアーナが項垂れてる。
もう、目を動かすのもきつい。
だけど、これだけは言わないと。
私の最期のエゴを、望みを、彼女が次の半年を生きるためにも。
「一生の、おねがい。ディアーナを、忘れ、ないで」
手を伸ばす。
どこに向けたわけでもないその手は、4本の手に支えられた。
私は、どうしようもなく恵まれている。
こんなにいい仲間を、自分で得られたんだから。
「また、夏至に、ね。ディアーナ」
急激に力が抜ける。
寝落ちする瞬間に少し似て、だけどそれ以上に深い。
結局、私は死ぬんだ。
でも、処刑エンドじゃなかったね。
不満足はたくさんあるけど、死ぬ人はみんな同じなんだろうな。
あとは、任せた。
さよなら。
私。




