296話 わたしを守ってくれた人
わたしは、許されないことをした。
無茶な作戦で、レオン様のマントをはぎ取って、血染めにすればいいなんて。
他のみんなにも血を流すことを強いた。
それで、狙われることなんて考えが及ばなくて。
『エラ!!』と、わたしを呼ぶ声が、耳から消えない。
爆発が起こったとき、マントに血を吸わせるとき、そして今も。
怖かったはずのレオン様は、わたしをとっても守ってくれていた。
なのに、わたしは、動けずにいる。
「レオン、レオン目を閉じるな!」
「当たったのは右肩に2発。止血します、押さえてくださいルシアン王」
「わかった!弾は抜けますかコマチさん」
「今は難しいです。血を失いすぎていますから」
わたしの上からレオン様をどかしたコマチさんは、流れるように手当てをしていく。
ルシアン様も、体重をかけてレオン様の血を必死で止めようとしてる。
わたしたち4人は全員ボロボロだ。
煙に包まれた中で、アテナさんが持ってた刃物とかも全部借りて、自分の体を傷つけて、血を流したんだから。
なのに、それなのに。
銃口がわたしたちを向いたとき、レオン様は真っ先にわたしを守ってくれた。
『すまない、エラ』
それは、爆発の時も聞いた言葉。
わたしの火打石と、ルシアン様の剣が接触して起こった爆発で、わたしだけが無事だったのは彼が庇ってくれたから。
ルシアン様もレオン様も、火傷動きづらいはずなのに、アテナさんに運ばれないとあの場を抜け出せなかったほどなのに。
「どうして……なんでわたしを二度も守ったの」
覆いかぶさられたとき、昔の記憶がよみがえって、怖くて。
今も、まだ震えが止まらない。
声だって、あんまり出ない。
なのに、レオン様は閉じそうな目を見開いて、わたしだけを見ている。
体もつらいはずなのに、満足そうに微笑んだ。
「君のために、動けるんだ。幸福、だろう」
「しゃべるなレオン!ボクに負けたままで、ボクにソルディアを思い通りにされて悔しいだろう!?生きるんだ君は!」
「だま、れ。ルシ、アン……」
たくさん血が流れてる。
右肩から流れた血は、小さく水たまりを作っていて。
だから、レオン様は左手をわたしに伸ばす。
かさついて、血を流すために切り付けてた手のひらから出た血が、私の頬に当たって濡れる。
思わず、その手をとっていた。
「わたし、あなたのこと嫌いです。七年前、怖い思いしたこと、忘れていないから」
「エラ、君は、綺麗になった。美しくて、何年たっても、愛しい」
「話聞いてください。……なんで庇ったんですか、なんで愛しいとかいうんですか、なんで……わたし、あなたに何もしてないのに」
アテナさんと、ガーネティアさんが来るのが見える。
レオン様を見て、ルシアン様を見て、驚いたみたいに「おい、もうやめろよ」って言ってるのが聞こえた。
コマチさんも首を振っていて、わたしたちをじっと見てる。
手の施しようがない、のかな。
コマチさん、月光国の薬はここに来るまでで全部使い切ったって言ってた。
弱弱しいレオン様は、いつかわたしに迫ったみたいな迫力も、狂気もない。
なんだか、初めて会ったときみたいに、優しい顔。
「君が、俺を見てくれた。それだけだ」
「覚えてないです」
「俺が、覚えて、いるからな。かまわない……頼みが、あるんだ」
レオン様の指が、わたしの唇をなぞる。
その目が、なんだかとろけそうなくらいだった。
誰も何も言わないから。
だから、わたしがしゃべるしかない。
この人がちゃんと話を聞くのは、きっとわたしだけだろうから。
「俺のものに、なってほしい。俺の、妻に」
真剣な顔で、わたしだけしか目に入っていない人。
この状況で、死ぬかもしれないのにプロポーズなんて。
わたしを爆発から、銃弾から守った。
自分がどうなるかわかっていながら、わたしのために。
それなら、わたしの返事は一つだけ。
「嫌です。わたし、死人の妻になんかなりたくない」
「えっ、あの、エラ嬢それは」
「わたしはもう七年前の守られてばかりのエラ嬢じゃない。強い海の商人ライラです」
ルシアン様の声なんか聞こえない。
わたしは、わたしの人生を生きるんだもの。
手を振り上げる。
そのまま、レオン様の頬を張った。
パチン!といい音がして、レオン様の目がまん丸くなる。
知らないでしょう?わたしは、もう流される女じゃない。
「生きて、この戦いを終えられたらまた考えます。だから、死んだら許さない」
「それ、は、考えてくれる、のか」
「知りたかったら、生きて戻りましょう。わたしがちゃんと感謝するまでは、死なないで」
レオン様の目から涙が流れていく。
小さな声で「ありがとう」って、そうして手で顔を覆った。
もう一つ泣き声がすると思ったら、ルシアン様も泣いていた。
止血していた手はちょっと緩んでいて、片手でこちらも顔を隠して「よかった、よかったですねレオン」と。
男の人も、案外泣き虫なんだ。
「すみません、わたくし状況が飲み込めないのだけれど。誰かお聞かせ願えるかしら」
「ガーネティア様は、レオン様に会うのは初めてでしたね。簡単に申しますと、レオン様は昔エラに迫ってディアーナ様から撃退され、エラが死亡したと聞かされたのに執念深く愛情をこじらせている人物です」
「コマチ、もうちょっと言い方考えろよな……」
わたしたちをよそに、ガーネティアさんの発言を拾ったコマチさんとアテナさんがおしゃべりしてるのが聞こえる
男の人が2人、泣いてるのにいつも通りな二人は、やっぱり度胸があるなぁ。
「んじゃ、脱出しようぜ。ディセルもこのまま連れ出して、法で裁くのが一番だろ」
「賛成です。皆怪我だらけですし、すぐに処置しなければ」
「ま、待ちなさい!今ってレオンが死んでしまうかもしれなくて、危ない状態なんじゃ」
「死にませんよ?」
コマチさんの軽い一言に、わたしも、ルシアン様も「えっ」と動きが止まる。
わたしたちの声に逆に驚いたらしいコマチさんも、首をかしげて驚いたような顔をしてた。
だって、レオン様は怪我して、銃弾も受けて、さっきコマチさん首振ってたのに?
手の施しようがないってことじゃ、なかったの。
焦ったわたしは、レオン様の顔を見た。
レオン様は、なにかバツが悪そうに目を逸らす。
「もしかして、演技ですか」
自分でも驚いた。
こんなに、低い声が出るなんて。
「レオン様。わたし、あなたのこと嫌いです」




