289話 俺たちの戦場、俺の仲間
すごく大きな音がした。
ボカン、とかドカンって音はこれまで聞いたことがない。
革命軍のみんなと、ディオメシア派軍のやつらも手を止めて、音の方向を向いていた。
ここは、王宮に一番近い町の中。
だから、よく見えた。
王宮の塀の中で、デカい王宮から黒い煙が上がってる。
だけど、みんなが止まったのはほんの数秒くらい。
はっとした人から、またディオメシア軍の兵士を襲いに行った。
殴りすぎで拳が血まみれでも、足に銃弾を受けていても、自分より立派な武器持ってる兵士たちに怯まず突撃していく。
革命軍のみんなは、とっくに「殺さないで、動きを止めるだけ」なんて指示、忘れたみたいだった。
「王宮がなにかあったぞ!」
「もしかして別動隊のやつらが王様殺したか!?」
「いや別動隊ってなんだよ!革命軍にゃないぞ!」
「どうでもいい!一人でも多くぶったおす!!」
革命軍のみんなは、途中で一緒になった月光国の人たちがもう見えてない。
子供も、大人も、革命軍じゃない人達は味方だ。
なのに、みんなが怪物を見るような顔で革命軍を見てるのに気が付いてない。
さっきから、ずっとそうだ。
ガーネティアが撃たれる前、ほんのちょっと収まったのに、またみんな目が血走ってる。
「みんな、どうして、なんで……」
「あーあ、レオンのやつ本当にやりやがったのか。火薬はあぶねえって何回も言ったのによ」
こんなに状況はおかしいのに、どうでもいいような感じの声が聞こえた。
俺の隣に立ったのは、ミクサ。
さっきまで、月光国民守るために後方にいたはず。
それより今、なにか知ってるみたいだったぞ。
なら、もしかして!
「何か知ってるのか!?なあ、王宮で何かあったってことだよな?もしかして王様が死んだのか!?」
「いや、ワシは知らな」
「じゃあこの進軍はやめてもいいのか!?なぁ決めてくれ!あんた月光国のボスなんだろ!?あんたの言うことならみんな聞くよ。だから!!」
ミクサだけが、この中で一つも驚いていなかった。
じゃあ、なんでも知ってるはずだ。
この戦いがいつ終わるのかも、いつまで攪乱なんかすればいいのかも、どうしたらみんなが言うことを聞いてくれるかも!!
俺じゃできない。
だって俺は頭が悪いんだ。
ミクサの肩に手を置いて、揺さぶる。
荒っぽいのは悪いと思うよ、でも早くみんなを止めてほしくて。
だけど、やっとくれたミクサの反応は、優しくなかった。
自分の長い三つ編みを邪魔そうにはらって、頭ガシガシ掻いて、舌打ちをして。
俺の頭を一瞬のうちに片手で掴んで、ギリギリ音が出そうなほど力を入れ始めた。
身の丈は俺と同じでも、俺より体の線は細い。
なのに痛めつけるみたいに指の一本一本が骨を砕きそうなくらい強い。
すぐに手首を押さえて外させようとするけど、どんなにこっちが強く掴んでも放す気配がない!
「い、いだだだ!なにするんだよ!」
「なにするじゃねーわ!!なにボーっとしてやがる!」
「何が何やら俺にだってわからないんだ!お、お前なんか知ってそうじゃないか!」
「ワシだって詳細知らんわ!!というか何でワシに頼むんだ!!」
「お前が偉いやつだから!!だから革命軍のみんなを早く」
止めてくれ。
そう言う前に、俺の右頬にとんでもない硬いものがぶつかってきた。
一気に口の中が歯で切れる。
血の味がして、知ってる痛い感じ。
拳で殴られたんだ。
そうわかったときには、俺の左手もミクサの右頬にぶち込まれてた。
ミクサは、俺に殴られたのに声も上げない。
さっきまで俺と同じくらい叫んでたのに、殴られたまま首が曲がって、ただ睨んでいた。
鼻から血が出てて、目が『殺す』って言ってる。
「あ、だ、だって先に手出したのはお前だろ!殴るから、つい」
「……向こうよく見ろ」
「悪かった、後で俺にできることなんでもするから!今は」
言い訳しようとしたら、頭掴んだ手で強引に横向かせられた。
そこにいるのは、革命軍のみんな。
人間がしていい顔じゃない。
恐ろしいみんなの姿。
目をそらしたいのに、ミクサはもっと力を入れて逃がさないようにしてきた。
「何のためにお前ここいる。大将じゃないのか」
「ちがう、ちがうんだ。本当はシー先生がいないと、なのにいないから、みんな」
「でもあいつら『ジャックがいるなら、ディアーナがいるなら』って言ったよな?ここにいる指揮官は誰だ」
「み、ミクサ」
「お前だ、いくじなし」
ミクサは手を離して、革命軍のみんなを指差した。
俺とは、まるで違う奴。
俺より人を動かせて、細いのにきっと強くて、頭も良くて。
だけど、なのに、コイツは今、俺に言ったんだ。
「あいつら動かすのはお前の役目。月光国民守るのがワシの役目。攪乱してこの戦いの被害抑えるのがワシらの役目だ」
「でも」
「下僕が選んだ奴が『王』だ。王なら下僕に言うこと聞かせるくらいの度胸見せろ」
「でも度胸だけじゃできな」
「『やる』以外の返事は王には不要。次でもって言ってみろ。お前のもいで女にする」
俺に何も言わせないように、言いたいことだけ言ったミクサはさっさと後方に戻っていった。
戦いの声に混ざって「ワシについて来い!!薬瓶出し惜しむな、王宮まで走れ!」とミクサの声が聞こえる。
あいつは、すごいやつだ。
俺とそこまで歳変わらないだろうに、強くて。
俺とあいつは違う。
でも、王様って何かわかんないけど、それでもみんな俺を信じてくれるなら、やらなきゃいけない。
大きく息を吸う。
シー先生みたいにはいかないと思うし、ミクサみたいにもできない。
それでも、暴走したみんなをそのままにするよりマシだろ!
「やりすぎるな!!動きとめるだけ!!そこ!!殺すな!」
「でもジャック!こいつらは敵だ!」
「このまま王宮までみんなぶっ殺して」
「黙れ!!指示に従えないなら、俺が今すぐ膝ぶち抜くぞ!!」
俺の言葉に、革命軍のみんなも、敵方のディオメシアの兵たちもこっちを見る。
注目されて、居心地が悪い。
昔を思い出すと、足が震える。
でも、覚悟決める。
ここに先生はいない。
俺しか、俺が、みんなの『王』にならないと。
「総員武器を置け!!敵味方関係なく、戦いをやめろ!!」
「なんだ貴様!」
「スラムのネズミ風情が何を」
「王宮の爆破は俺の仲間がやった!!反発してみろ、王の命はないぞ!!」
嘘だ。
嘘だけど、でも、確信がある。
何もわからないし、コマチさんも詳しくは教えてくれなかった。
きっと、ライラが、みんなが、動いてる。
みんなのために、だから、それを信じてる。
「これより皆で王宮へ向かう!!すべての敵味方関係なく、武器を取ったものは、俺の矢が貫くから覚悟しろ!!」
この戦いを止める。
シー先生は必要だって言ってたけど、俺はいらないと思うから。
嘘つき、俺は嘘つきだ。
だけど、この戦いが終わるまで、どうか立たせてください。
後方を見ると、ミクサがこっちを見てた。
俺が拳を空に突き上げると、あいつはべぇっと舌を出す。
俺たちの役目を果たすんだ。
この戦いの終わりの王宮に。
もう一度王宮を見る。
そこには、赤い炎が上がっていた。




