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285話 俺の手と体は燃えている

エラは俺自身を見てくれた。

エラは、俺の手を握ってくれた。

エラの言葉は輝いて、王子ではなくただの男の俺に向けての贈り物。


今でもそれは変わらず、思いは零れるばかりで、彼女の残骸と共に暮らすことしか慰められなかった。

死んだ彼女のもとに行きたくとも、復讐心がそれを許さなかった。


なのに、どうして貴様がそばにいる。



「答えろ、なぜ貴様なんだ」

「くっ……なんの、ことだ」

「わからぬならそのまま死ね!!」



渾身の力を加え、剣を振りぬくがそれをいなされて剣先がこちらに向く。

立ち上がったルシアンが、俺に切りかかる。


その剣先の軌道をずらし、一歩深く入りこめばそこには無防備な奴の腹。

剣を逆の手に持ち換え、そのまま刺そうと垂直に剣を入れる。

だがその一瞬、ルシアンは大きくしゃがみ込み、地面を滑るように動いた。


動いた先、そこにいたのは、エラ。

彼女を守るように立ちはだかるルシアンの顔は、笑っていた。



「そこをどけ。お前が邪魔だ」

「剣を納めてくれ。そうしたら退く」

「だめだ。お前が納めろ、俺はディオメシアの頭脳だぞ」

「『ソルディアの王子』とはもう名乗らないのか?」

「誰のせいで名乗れなくなったと思っている!!お前が2国の同時統治を蹴っていれば!」

「一人の女性にそこまで狂う男を、王にするわけにはいかないだろう」

「ほざくな!!」



ルシアンに追撃を入れようとしてしゃがんだ。

だが、動けない。


膝を曲げて、奴に切りかかるのに必要な足が、動かない。

地面すれすれまで曲げた足は、そのまま力が抜けて座り込もうとする。


思わず手をつけば、手が濡れた。

誰だ、ここに水をぶちまけたのは!


部屋が暗くて見えにくい。

戦いでは、一瞬の隙で決着がつく。

目が霞む、まさか毒!?


クソっ、まさか罠を仕掛けたな!?

この一瞬で、どうやって!



「ぐっ……貴様、なにを、した」

「レオン、まさかわかっていないのか?」

「うるさい、お前ごとき、すぐに倒して、エラと、エラは俺の」

「頼む、剣を納めてくれ。ちゃんと話をしよう、知ってることはすべて話す。だから」

「そのような嘘が通じるか!!」



目を閉じて、すべての力を足に。

水浸しで足元は悪いが、俺にかかればどうということはない!


そうだ、何を聞こう。

エラが、どうして生きている?

エラは、身なりはみすぼらしいが本当に美しくなった。

エラは、なぜ王宮に居るんだ。


前はすまなかった、今度はちゃんと君を愛せるから。


足がひどく重い。

それでもオレの右腕は伸びた。

目指すはレオンの首。

お前がいなければ、俺は!!



「死ねぇ!!」

「レオン様目を開けて!!」



目が開く。

愛しい、君の声だ。

七年経っても変わらない、かわいらしくて凛とした。


(エラ、君が)


目の前にいる。

黒髪が、ぼやけている目でもはっきりわかるほどに近く。

美しくて、息がつまって、さらに輝く女性になった。


強く、こちらを見ているなんて、どうして喜ばずにいられるだろう。


……その君の首に伸びる剣は、誰が握っているのだろう。

……見慣れたその刀身は、誰のものか。


あ、ああ、いやだ、どうして、君が、ルシアンの前に立ち塞がって居る。


俺の腕、止まれ、止まってくれ!!

止まれない、力がうまく入らない!

頼む止めてくれ、このままでは彼女が死んでしまう!!


うそ、嘘だ。

今、彼女の黒髪が、切れて。



ドカッ!!



体が、一瞬で吹き飛ばされた。

見えたのは、俺に体当たりする白銀の髪。


床に、背中から叩きつけられた。

喉から何かがせりあがってくる。


たまらず吐き出したら、手が、赤く染まった。



「レオン、誰にやられたんですか。あなた今血まみれなんですよ!?」

「……あ?」

「背中、腹!あと太腿も一か所刺し傷。どうしてそんな怪我をしてまでここへ」



刺し傷。いったいどこで……?

そうだ、さっき。

エラの部屋で、ディルクレウスに誘い込まれて、あの時刺した奴の声は。

……そうだ、ミクサだ。


あいつ、裏切りやがったな。

クソ、思い出したら傷が痛む。


やめろ、寝るな。

まだ、果たせていないだろ。


恨みがあれば、体は動く。

霞む目をこすれば、俺を見下ろすルシアンがいた。

そして、奴を守るように両腕を広げる女神も。



「俺を、見下ろすな」



深く息を吐く。

剣を床に突き立てて立ち上がれば、息をのむ声が聞こえる。

体は、血を失っているのに熱い。


これは、俺の怒りの大きさだ。



「やるんだ。俺は、復讐する」

「やめてくれレオン!このままでは死んでしまう!」

「どうしてここに来たんだ。俺を、笑いにだろう」

「そんなわけない!ボクは戦いを止めたくて、ディアーナ様達と一緒に、レオンだって救いたくて」

「全部持っているお前に、俺の何がわかる」



書面でも思っていた。

お前の言葉は、どうして汚くならないのだろう。


国、民、王位、自分の愛する人間のために動けること。

信頼、愛、温もり、正しさ、綺麗事、そして望んでいなかったのに俺の欲しいものをすべて持ってる。


エラも、どうしてこっちに来てくれない。

君だけが俺を俺にしてくれたのに。


俺の言葉は、もう何を発しても汚いものでまみれてしまっているからか?


ディオメシアが憎い。

エラ以外のすべてが憎い。

俺のそばに来ないのならエラだって憎い。


剣は重い、体も重いはずだ。

それなのに、頭が冷えると体は不思議と軽くなっていく。


戦える。



「知っているぞ、ルシアンお前、あの頃ディアーナを思っていただろう」

「だったら、なんなんだ」

「笑わせる……女のために、というなら貴様も王にはなれまい。貴様だって、好いた女を閉じ込めたくせに」



あからさまに強張るルシアンの顔は、気分がいい。


コイツが、城の一部を改装してまで数日ディアーナを軟禁していた情報は聞いている。

それに、どれだけ俺が共感したか、知らないだろう。


さっきの斬りあいでの奴の顔。

戦いで高揚したときの顔は、昔と変わらない。

好きなものを独占したい性格も、変わらない。

それを必死に隠そうとしている顔も、変わっていない。



「お前と俺はそっくりだよ。よく言われたな、まるで兄弟って」

「そんなことない。ボクは変わったし、もうレオンに似てなんかない」

「もっとそっくりだ。俺は気づいているぞ?お前も同じで、王にはなれないはずだろ」



さっき、お前が言ったんだ。

一人の女に狂う男なら、お前も同じだろう。


なら、同じ俺は、お前が死ねば全部手に入るんじゃないか?

そうだ、きっとそうに違いない。


『ここ』まで来てもらったんだ、最期になったって構うか。



「エラ。そこをどけ、邪魔をするな」

「レオン様……」

「ルシアン、剣をとれよ。勝負しよう、女に守られて、それが王か?」



命も何も、興味がない。

ここで勝てば、すべて大逆転できる。


だから、取り繕うなよ?

見せろよ、お前の、腹の底。

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