283話 ワシの打算と攪乱
ワシ、生まれながらに結構期待されて生きてきた。
コマちゃんと2大天才みたいにされて、裏カジノ時代からワシは望まれて頂点にいた。
かなり若くしてボスぶっ殺して、次のボスになれたのも、カリスマ性ってやつがあるからなんだと。
だけどな、あの王様の尻拭いで人間率いるのなんざ、死んでもごめんだったんだぜ?
「ボス―!みんな怪我ないよ!」
「よくやったクソガキ。王国兵に手当てできるか?コマちゃんに小瓶たくさんもらっただろ、その中の緑のやつだ」
「ぼすー!かくめいぐんのひとたちも、いたいのいたいのとんでけってしたよ!」
「ありがとなお嬢ちゃん。じゃあちぃっと休んどけ、母ちゃんから離れるなよ」
「ボス!先ほど伝書鳩でトモエさんがすぐに援軍に向かうと」
「あぁ?遅いんじゃあいつ。今すぐ買収できそうな王国兵を吸収、徴兵されたやつで従順そうなのは連れてくぞ」
「ミクサ、人数は十分ですのでこのまま一群として王宮へ向かいましょう。威圧と攪乱には十分です」
「わかったよぉコマちゃん!!」
あっちこっち忙しいにもほどがある。
いや、ワシが千人王宮から連れ出したんだ、当然の負債だな。
とにかく、戦争ってのは野蛮だ。
ワシらみたいにまず、陰湿な暴力で何とかしろよな。
革命軍数百人と、ディオメシア王国側の兵士も同じくらい。
この人数を追加で把握するのなんざ、簡単じゃねぇ。
「コマチさん、この人たちは一体」
「王宮内から連れ出してきた、月光国の避難民です。皆薬剤の扱いは頭に入っているので、ご安心を」
「そうじゃない。危ないだろう!」
「それを承知で、皆ミクサについて行くと言ったのです。自分のわがままに付き合ってくれるミクサには、頭が上がりません」
コマちゃんがスラムのデカ男と喋ってるのがちょっと聞こえる。
頭が上がらないなら、それきっかけでお付き合いとか結婚とか……いやいや、やめろワシ。
正面からぶつかってコマちゃんに気付いてもらうって決めただろ!
いかんいかん、これからまた移動なんだ、気を引き締めねぇと。
「コマちゃん、次は他国連合軍のほう行こうか」
「はい。……ですが、少し困ったことになりまして」
「それ、コマちゃんが言ってた、本物の王女サマ?」
ジャックって呼ばれた革命軍の男が抱えてた、王女サマ。
背中に少なくとも3発、銃弾も残ってるし、目も死んでる、こりゃもう死体だ。
このまま置いて行けばいいのに、コマちゃんは何とか担いでいこうとしてるから急いで止めた。
「何してるのコマちゃん。こいつはもう死んでるんだよ見ればわかるだろ」
「ですが、彼女は大丈夫です。条件さえそろえば生き返るらしいので」
「本当に人間かよこの女」
「なので、彼女を担いで自分は王宮へ行きます。ミクサは引き続き王宮を目指しつつ、動ける人員を率いてジャックさんと攪乱を」
嫌だ。
ワシとジャックの理由は見ればわかるし、ひどく面倒に決まってるけどできなくはない。
でも、どんなに頑張ってもそこにコマちゃんがいないのがダメだ。
ましてや、こんな戦いの中にただの月光国民巻き込むのも好きではねぇし……。
「すみません、ミクサを頼りにし過ぎてしまいましたか。すみません、甘えていました」
「くっ!コマちゃんの力になれるなら喜んでぇ!!」
だけど頼ってもらう方が男冥利に尽きるだろ!
こんな男と一緒にってのが最悪だけどな。
どうやって月光国民守りながら移動できるか考えねぇと。
こいつらを焚きつけたのはワシだけど、思ったより好戦的すぎるんだよ。
ちゃんと制御しながらじゃねぇと、飛びついて噛みついて急所蹴ってとんでもないからな。
「ミクサ、こんなことを頼んでおいて今さらですが、断らないんですか」
コマちゃんの申し訳なさそうな顔見たら、細かいこと言えるわけがない。
小さいころから、まだ裏カジノの暴力組織だった大人たちを震えながら見てきたもんな。
王女サマのためって奮起したけど、ワシみたいに感情死んでないんだから辛いだろ。
そこまでしてなんで、あの王女サマがいいかね。
その捧げたい気分はわかるけどな。
「どうして断らないといけないの。コマちゃんがワシを頼ってくれる以上に嬉しいことはないよ」
「今頼んでいることは、あなたに多くの人間の命を背負って戦いを引っ掻き回せと言っているんですよ。ミクサが本来しなくていいことで、ミクサには関係のないことです」
「いいんだよ、それにこれはワシのためだし」
よくわからないって顔をしたコマちゃんもかわいくて、顔が緩んじまう。
確かに、ワシはこんな事絶対やりたくない。
うまく場を引っかきまわしても、最悪ふつーに死ぬ。
でも、これやりきったらさ。
コマちゃんは、もっとワシを頼りにするだろ?
自分の国民はちゃんと守って、危ない橋は全部ワシが渡るさ。
かっこいい男ってのは、辛くても完璧にやり切って、惚れた女の前じゃ涼しい顔するもんだ。
「あ、でも一つだけいい?ワシのお願い叶えてよ」
「自分にできることであれば、終わった後でいくらでも」
「今すぐできるよ。ちょっと上向いて目閉じて」
死体を担ごうとしてたコマちゃんはそれを地面にゆっくり置く。
そんで、立ってるワシの前まで来ると素直に目を閉じた。
普段、みんなコマちゃんを冷たいとか、近寄りがたいとか言う。
バカだな、ちゃんと信頼されれば、素直で優しい顔を向けてくれるんだぜ?
まつげもバサバサで、鼻筋が通って、唇が赤くてみずみずしい。
小さいころから、ワシの全部掴んで離さない、思い通りになってくれないいい女。
唇に触れようとして、やめた。
「死ぬなよ、コマちゃん」
コマちゃんの目をワシの右手で覆う。
手が間に入ったままワシは自分の手の甲に口づけた。
すぐに手離して、二回手を叩く。
これで、おわり。
「もう目開けていいよ。ワシはもうご褒美貰ったから」
「何があったんですか?」
「ん?別に~……おい、こっちみんなよ」
ワシの声に、近くにいたジャックがそっぽ向いた。
誰か見てる場所でファーストキスするわけねぇだろうが。
じゃ、本当に動かねぇと。
あ、その前に一つ問題あったな。
「王宮まで直接行くなら、コマちゃんだけじゃ難しいんじゃない?死んだ人間って重いし、ディオメシア側の軍勢が攻撃してこないとも限らないよ」
「じゃあ、あたしがついて行けばいいな」
聞き覚えのある声がした。
しかもワシの背中から、至近距離で。
コマちゃんの顔が笑顔になっていくのが良く見える。
この七年、チビの癖にワシが一回も素手で倒せなかったやつだろ?
ゆっくり振り向く。
そこには、見覚えありすぎる赤銅色があった。




