282話 俺の受け止めた赤
走りながら、俺はガーネティアを守っていた。
どんどん次なる敵の陣が見えてきて、みんなも足が速くなる。
なのに、デカい旗を掲げて進もうとするなんて、無茶だ!
「なにしてる!お前に前線指揮なんかできるわけ」
「でもやるの。『ディアーナ』なら、そうしたでしょう?」
「じゃあせめて旗下ろすんだ!狙われるぞ」
「わたくし、武器扱えないもの。それに、祝福は健在でしてよ」
なんだよ、ライラといいガーネティアといい、女はみんな頑固者だ!!
もう目の前に敵はいるんだ。
ここで敵の目に前に入る俺とガーネティアが逃げるそぶりでも見せたら、一瞬で隙をつかれる!
今さら後衛に下がらる時間もない。
なら、俺も覚悟決めねぇと。
先生の話じゃ、ガーネティアはまだ不死のはずだし。
ここまで来たんだ、守られるだけなんかしないだろ。
「旗、離すなよ。みんなの士気が落ちる」
「ええ。この腕がちぎれても」
「そりゃ頼もしいや!」
一度に弓を3本つがえて、一気に放つ。
それぞれ弓は、狙い通り兵士たちの膝を貫いた。
敵に走った動揺を、俺達は見逃さない。
力の限り、弓が得意なものは足を狙って矢を放つ。
何人も倒れていく中、敵は銃を担いでこっちに向けていた。
「くそっ!弓なんて原始的な」
「かまわん!銃撃隊、撃てーい!!」
「白兵隊!!『盾』だ!」
「おう!!背中から出るなよ!?」
掛け声を聞いて、すぐに白兵隊を前に出す。
俺達は、みんながみんな強くはない。
だから、少しでも生き残れるように考えてきた。
銃が、パンパンと音を立ててこっちに弾が来る。
だけど、俺達は白兵隊の陰に隠れるようにしゃがむ。
白兵隊は、俺ら弓隊よりも防具が分厚い。
さっきの進軍でも、何度も打たれたけどみんな大きな怪我しないくらいだ!
「くそっ、固い!」
「なぜだ!?ただの貧民の集まりだろう」
「はっはー!!びびったか!?」
「みんな、いこうぜー!」
勝手に白兵戦のやつらが前に出ていく。
手には斧、鎌、ナイフに、大鍋を持ってきたやつもいる。
そいつらは、どんなに敵より貧相な見た目でも、ちゃんと強い。
敵さん、弾を込める間にやられたい放題だ!
突撃の最中、よく通る女の声が耳に入る。
旗を必死で振り、偽善ばっかり語る口で。
「みんな!!できるだけ殺さないで!気絶だけよ!」
「おい!お前勝手なことするな!ガーネティ」
「わたくしは今『ディアーナ』!!彼女なら、間違いなく大量に人が死ぬなんて認めませんわ!違う!?」
「戦いの最中に手加減しろってか!」
「とどめを刺すなということよ!」
「そんなん気にしてたらみんな死ぬ!」
「じゃあどうしてさっきから足ばかり狙うのよ!!」
「足止めのためだ!」
「あなたわたくしの頭射抜いたじゃない!」
「昔のことだ、バカ言うな!」
「敵を殺したくないのはあなたでしょう!?」
ガーネティアの言葉に、息が止まった。
あの時の感覚は、すぐにも消したいのに。
ずっと残って、気持ち悪くて。
この戦場に来てから、俺は一回も急所を狙えなかった。
誰にも、戦いの中で皆にばれてなかったのに。
言われちまうと、指の震えが戻ってくる。
ずっとずっと冷たくて、指が自分の思い通りに動かなくても弓を引いてきたのに。
次の矢が、準備できなくなった。
「やめろ、言うな」
「やめるものですか!わたくしは戦いを止めるためには知ってきたのよ!?」
「止まらないんだよ!!この状況見ろ!!」
「でも、ちゃんとみんな急所を外し始めたじゃない!」
ガーネティアが指さす先、そこにはライラが集めた『軍勢』側の戦闘員がいた。
みんな、さっきの戦いでは容赦なかったはず。
なのに今は、動けない怪我を与えたら次へ次へ、また攻撃をし続けてた。
ガーネティア……奴らにとっての『ディアーナ』の言うこと、ちゃんと聞いてるのかよ。
「おい!!加勢に来たぞー!」
自分たちの背後から声がして、俺とガーネティアは一緒に振り向いた。
そこには、スラムのみんなが、後衛にいたはずのやつらが勢ぞろいしてる。
俺達への言葉もそこそこに、勝手に突撃して、勝手に飛び道具を使って敵を削り始めた味方たち。
その背中に「殺さないで!!足止めしてーー!!」と声をかけるガーネティア。
不思議なことに、さっき殺しても構わないとしてた時よりも進みが早い。
みんなが、ガーネティアを見て「ディアーナ」と呼ぶたびに、強くなっていってる気がして。
こんなの、想定外ってやつじゃないか。
みんな先生の言うとおりに、あんなに殺したがってたのに。
「……お、おい!!なんで後衛が前線に来た!先生と一緒に動くんじゃ」
「先生?どっか行っちまったよ!」
「逃げたんだよ!!戦いが始まってからどこにもいない」
「だからおれたちはジャックに合流しに来たんだ!お前と、ディアーナちゃんもいるなら、いくらでも力を貸すさ!」
せんせいが、いない?
後衛のみんなの言うことが、よくわからない。
どうして、だって一緒に戦うって言っただろ。
何だこの気持ちは。
もやもやして気持ち悪いのに、全部がすっきりするみたいな。
せんせいがにげたなら、戦う理由は何だ?
みんなが戦う理由は、誰になった?
俺は、何のためにこんなことを……!!
目の前が真っ赤になっていく。
女の「ジャック!!」と叫ぶ声に、すぐに反応できなかった。
タタタァン!!
連続する銃の音。
俺に抱き着く誰かの体温。
顔にかかったのは、誰の血だ。
ゆっくり、下を向く。
温かくて、赤いそれは、髪がきれいな赤で、体も、真っ赤に染まって……。
俺を、庇って、盾になったのは、ライラと同じで、全然違う、女。
「ガーネティア……?」
「よそ、み、しないで……」
崩れ落ちる彼女を、抱き留める。
力が入ってない、だんだんと冷たくなっていく柔らかいからだ。
十年前と、同じだ。
まさか、俺はまた殺したのか。
ガーネティアを。
俺のせいで。
「ジャック!!前方から何か来るぞ!」
「敵が、きれいに道を開けやがる!?」
「あれは何人だ、数百はいるぞ!」
仲間の声がする。
ハッとして敵のほうを見れば、攻撃はなんでか止んでいた。
その代わりに、敵は自分たちの後ろを見て「ひい」だの「うわあ」だの驚いて道を開ける。
何が何だかわからない。
だけど、その大群は俺達の前で止まった。
……とんでもないにおいと、煙をまき散らしながら。
「はぁ、はぁ……ま、間に合いましたか」
「うん……総員、敵味方関わらずなおれぇ!!!ワシの許可なく動いたらぶっ殺す!!」
黒髪の、髪の長い二人。
そのうち一人は、よく知ってる顔だった。
「こ、コマチ……さん」
「遅くなってしまい、申し訳ございません。不肖コマチ、ディアーナ様の命により『この戦いを混乱』させるために参じました」
砂埃にまみれても、着てる服がそこかしこ傷ついてても。
コマチさんも、ガーネティアも、息をのむほどきれいだった。




