271話 温かな船の中で私たちの会議が始まる
船の中は案外快適だった。
そもそも、もうオールシー船団は世界一の輸送会社なんだから当たり前か?
ガーネティアの救護道具もちゃんとしてるし、船内はあったかいし、食事っぽいいいにおいが漂ってくる。
この船は、人が生活できるように整えられてるんだな。
空いている船室でコマチに用意してもらった服に着替えてドアを開ければ、コマチがドアのすぐそばに立っていた。
「服の大きさは問題ないでしょうか。ディアーナ様」
「ええ、快適よ。無理を言ったわね」
「とんでもございません。この船は、あなた様をお助けするために手配したものですから……不安要素も乗ってしまいましたが」
「悪いわね、わたくしも焼きが回ったかしら」
「ディアーナ様のされることに間違ったものはございません。勝手を申しました」
かなりの発言が聞こえた気がするけどあえてスルーだ。
年々コマチの忠犬っぷりと暴走具合が増してるのは知ってるし。
コマチの後について船の中を歩く。
かなり大きいし、百人単位で乗れるんじゃない?
なのに、人が少ないのか誰ともすれ違わない。
「それにしてもこんな立派な船、よく手配できたわね。知っているわ、あなたたちスラムからほとんど着の身着のまま逃げたでしょう?」
「はい。港へ逃げ、オールシー船団の船を占拠してエラに連絡を取り、今日この日に船を一隻自由に使えるよう交渉しました」
「……かなり最初に問題がある言葉が聞こえたのだけれど」
「ご安心を。アテナが全員武力で気絶させただけですから」
「安心要素はどこにあるのかしら?」
「本来であれば武力と数十隻船を用意したかったのですが、エラ同乗の上での一隻しか手配できず申し訳ございません」
「ここに来てくれただけで合格よ。……これからどうするか、話し合わないとね」
コマチは歩きながら振り向いて頭を下げる。
別にいいのに。ここまで無事に来てくれただけで御の字だよ。
ぶっちゃけ、頼れるところなんてほぼなかったんだから。
まさかの事態だよ。
入念に準備してきたのに、まさかの数週間でパーだ。
私の味方たちもディセルに吸収されてるだろうし、頼れるのは専属使用人の4人だけって見たほうがいい。
コマチが案内してくれたのは、いくつも長机が配置された広い空間。
いいにおいがするし、端の方にキッチンらしきものがあるから食堂なのかも。
中にはすでに何人も座っていて、みんなスープのお椀片手に集まっていた。
メリーは私を見てすぐにスープを持ってきてくれたし、毛布にくるまったガーネティアは手当てを受けたのか足に包帯を巻いて座ってる。
それで、ジークとルシアンが何やら二人で喋ってた。
エラは……私を見るなり駆け寄ってきて手を取る。
なになに、なんだよ。
「ディアーナ様!!大丈夫ですか。あの、わたしさっきアテナさんに全部聞いて……あの、でもわたしはガーネティアさんじゃなくてディアーナ様の力になりたくて!」
「悪い、しつこく聞かれちまって喋った。エラのおかげで船も調達できたし、いいだろ」
アテナがバツが悪そうに目を逸らした。
なるほどね、私が偽物王女なこととか、ガーネティアが本物の王女だとか全部話しちゃったわけだ。
と、なると……今まさに私を指さして喋ってるジークも、ルシアンに同じことを喋ってるかもだね。
う~ん、一応ディオメシアの大スキャンダルなんだけどなんてカジュアルに喋っちゃうんだ……。
4人とも頭の良し悪しはあるけど思慮深い方だと思うし、ちゃんと味方だって確信を得てるから喋ってるんだろうけどさ。
「はぁ……もういいわ。時間が惜しいの、ここでの話は他言無用よ。もし喋ったらただじゃおかないんだから」
「もっと苛烈にいかないんですかぁ?バラしたやつは四肢をもぐとか」
「ジークさんっ、あんまりディアーナ様を困らせないでください!スープおかわりあげませんよ」
「それは困りましたね、メリーの料理は絶品ですから。どこかの誰かと違って」
「言われていますよアテナ」
「どう考えてもコマチだろ。あたしは料理で毒物作らねーもん」
「じゃあコマチの料理をふるまうでいいわ。とにかく、今から作戦会議を始めるわよ」
私の言葉に、みんながしゃべるのをやめてこっちを見た。
スイッチが入るのが早くて助かるよ。
約一名くらい、そのスイッチ入れていいのかわからない人がいるけどね。
「ルシアン、あなたはここにいていいのかしら?わたくしたちは今から、本当に重要な会議をするのよ」
「存じています。ボクは、愛するあなたのために力を使うつもりですから。ぜひ協力させてください」
真剣な顔に、なんだか絆されてる気がする。
七年間、離れてた間のルシアンを私はよく知らない。
原作の彼が抱えてた、煮え切らない態度もないからもはや別人だし。
私がルシアンだけで来るなら乗っていいって言ったんだけど、まさか本当に一人で乗ってくるなんて。
「呆れた。ちょっと見ないうちに随分と人を口説くのがうまくなったの?わたくしには通じないけれどね」
「おやぁ?いいんですかそんなこと言って。ソルディア・ステラディア統治王の軍勢なんて、今ディオメシアに配備しているだけで数千人規模ですよぉ?」
「なんで知っているのかしら、ジーク」
「スパイって優秀、俺はとっても優秀。それだけですよ」
じゃあ、今ディオメシアには結構な人数が配備されてることになる。
おそらく味方……と仮定しても、なんで今?って感じだ。
えぇ~信用ならない……。
12月22日の一日限りの滅亡戦におあつらえ向きすぎるんだけど。
だって、原作じゃ革命軍の奇襲から始まるから、ステラディアはそんなに多くの兵で戦えなかったはずなのに。
「どうして、ディオメシアに配備させているの?今の情勢が危ないから、というにはできすぎなのだけれど」
「あぁ。明日、スラムの革命軍が攻めてくるって宣戦布告があったんですよ。もちろん差出人は死んだはずのディセル、ご丁寧に自分の王族宝石付きでね」
ジークがスープを味わいながら軽く放った一言で、食堂は一気に殺伐とした。
だって、それがどれだけ馬鹿げてることか。
スラムにしばらく滞在した私たちなら、わからないはずなかった。




