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270話 海中と桟橋で下した私の判断

「皆、銃を置け!ディアーナ様、すぐに助けますから」

「おい待てルシアン。おまえは何もすんな余計な邪魔だから」

「そんな。ボクが、ですか?」

「そーだよ。……おい、ディアーナ上がって来いよ。おーいメリー!湯沸かしてくれー!あとあったかい服も!」

「もうコマチちゃんが用意してそっち降りるよー!」

「早すぎだろコマチのやつ」



ルシアンが兵を制止させてから、海に飛び込もうとした。

重たそうなコートを脱いで飛び込む寸前、アテナに腕掴まれて止められてるけど。


アテナの大声で、船の上でどたどた動いている足音がし始めた。

たぶん、みんなが私たちのために準備してくれてるんだろうな。

はしごが下ろされてるのが見えるから、コマチがもうすぐ来るのかも。


私は唇が震えているガーネティアの腕を自分の肩に回して固定する。

ただでさえ厳しい状態なのに、足怪我しててパニックにならないのは相当消耗してるはず。



「ガーネティア、泳げるかしら」

「……わたくし、泳げないの」

「じゃあこのまま掴まっていなさいな。離すんじゃないわよ」



手も体も痛いくらい冷たいけど、なんとかガーネティアを抱えたまま桟橋に上がる。

海の中は刺すみたいに冷たかった。でも上がったら上がったで、風が冷たい。


辛そうなガーネティアの背中を撫でるけど、私もびしょ濡れだからあんまり意味ないかも。

そのとき、コマチがはしごから滑るように降りてきて、私とガーネティアに毛布を掛けてくれた。


さすがシゴデキ、もしかして私たちが海に入ったすぐ後には準備してた?



「ディアーナ様、ご無事ですか」

「ありがとうコマチ。でも先にガーネティアをメリーに診せてくれるかしら。足を弾が掠ったのよ」

「では、自分が抱えて船に乗せます。ディアーナ様もお乗りください、そのためにここに居るのですから」

「ま、待ってくれませんか」



コマチの言葉に待ったをかけたのはルシアンだった。

アテナが止めるのも聞かないで、私に着ていたあったかそうなコートを差し出してくる。


ふわふわのファーに、裏起毛っぽいもふもふ。

この世界じゃ間違いなく値が張る代物なんだけど?

海水吸わせていいようなもんじゃないのに、ためらいがないから呆れた。


なんか好きバレしてる分、断りづらいし。

というか、ルシアンって私が偽物王女なの知らないはずだよね?


どうしよ、あんまり私たちの姿を一緒に見られるのはよろしくない。

専属使用人たちとスラムのみんなはもうしょうがない。

だけど、国のトップにこの事実バレたら弱みでしかないんだよな……


もう遅いかもしれないけど、私はガーネティアの姿が見えないようにちょっと座る位置を変える。

その間もずっと、ルシアンは私から目を離さなかった。



「ルシアン、結構よ。今回は姿が見えない中でのことだもの、だから早く撤退してくれないかしら」

「いいえ、お詫びをさせてください。ボクたちの陣営に来ませんか?ちゃんとお守りしますし、医者もいます。温かいものもご用意できますし」

「それはこの船の人たちがやってくれるでしょうし、必要ないわ」

「ですがこれからディオメシアは危険なのに」

「なら余計に早く消えてちょうだい。ここにあなたがいることはちっとも安心にはならないのよ」



明日、原作通りにきっと戦いは勃発する。

一日限りのその戦いは、反ディオメシア勢が王宮を強襲して、それにディオメシア軍とその味方たちが応戦していくうちに大規模な殺し合いになっていくんだ。


原作のステラディア参戦フラグのエラとの関係性がゼロになったから、ルシアンはここにはいないと思ってたのに。

修正力って怖すぎる、戦うため以外に武装してディオメシアにいる意味って何よ。


しかも、敵か味方かもわからない。

原作ではエラ救出のために反ディオメシア側だったけど、もういろんな要素ごちゃごちゃでワンチャン敵側かもって可能性もある。


傷ついたような顔をしているルシアンには悪いけど、明日は私が生きるか死ぬか運命の日なんだ。

ここで余計な死亡フラグ建てられるかって!



「わかったなら消えてちょうだい。あなたに構っている暇は」

「なんて冷たいんですかねぇ人の心がないんですか?それとも、恋心を弄んでらっしゃる?十年越しにあなたがそんな悪女だったことを知るなんて俺おかしすぎて泣いてしまいそうです」



桟橋に、もう一人の声がした。

そして、瞬時にアテナが体勢を低くして何もない場所にナイフを振りかぶる。


ガキン!!


と金属がすごい勢いでぶつかった音と共に、その人物の姿が見えた。

顔に走る火傷の跡、ずっと消えないにやけ面、何より相手の反応を楽しむ愉快犯っぷり。

アテナの刃を、同じくナイフで受けているほどの身体能力の高さ。



「ジークテメエどこ行ってやがった」

「ちょっと野暮用でして。今に始まったことではないでしょう?仲良しこよしより、個人で適切に動くのがヴァルカンティア式ですし。ねぇアテナ」

「せめて報告とか連絡くらいしろや!!何だ今更」

「だって、今がいい登場の仕方じゃないですか?なんだかんだ、ずっと見てたんですよ」



どちらともなく戦闘態勢を解いて、二人は立ち上がる。

いきなり現れたジークは、やっぱりいつも通りのひょうひょうっぷり。


ルシアンも状況わかんなくて置き去りにされてるし。

私もわかんないけどさ。

でも、この感じからして、ジークだけずっと個人行動してたんだろうな。



「まぁまぁ。積もる話もあるんですが船に乗せてくれませんか?ルシアン王も一緒に」

「はぁ?なんでだよ」

「彼は『悪いやつ』じゃない。さっきの狙撃だって、事故みたいなもんですよ。俺が保証します、彼は敵じゃない」



ジークは妙に確信めいて言い切った。

ルシアンはそれにたじろいでるけど、ジークが無理やり彼の肩に腕を回して「ほら仲良しですし」と訳の分からないアピールをしてくる。


ジークが言うなら、いいのか?

でもなぁ心配なんだけど。

もし敵だったら?でも敵だったとして、ルシアンから得られる情報とか考えたら実は悪くないんじゃ……?


寒くてまともに考えられないけど、安全性だけは担保しないとまずい。

これからどうなるにしろ、何事も賭けだ。

日付が変わるまであと数時間、王宮強襲が起こるのは午前10時ごろ。

それまでに、できることはまだあるはずだから。


私は震える口で答えを出した。

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