268話 目覚めと私の衝撃
夢の中で、もうどれだけの年月が流れただろう。
目の前では、私がいない間のスラムの様子が映っていた。
シー先生が、みんなに頼んでガーネティアを世話してるとこ。
ジャックが弓の腕に磨きをかけてるとこ。
ガーネティアが目覚めたときの、スラムの喜びよう。
それと、シー先生が一人で何かを決めたところも。
『やはり、これしかないか。わかったぞ、王家の祝福の消し方を』
『どうする?旗頭として王女を据えたいのに、ガーネティアができるとは思えない』
『……やはり、ある程度ディアーナとしてライラに戦わせるべきだ』
『頃合いを見てライラを殺して、ガーネティアを女王として立たせれば混乱もなく……』
彼がひとりごとを言ったすぐ後、私がスープを持って家を訪ね、昏倒させられて、洞窟に横たえられたまでを見送る。
私が目覚めないように、毎日何か薬を嗅がせて眠り続けるようにする徹底ぶりには驚いた。
でも自分に起こったことなのに、俯瞰で見てるからか何とも思わない。
嘘、普通に悔しい。
だって、このまま目が覚めなかったらどうなるかよくわかるから。
「滅亡の大戦が始まる前に起こしてもらえるのかな……それとも、眠ったまま前線に連れていかされる?一応私の姿があれば、ディアーナ王女が指揮したって感じにならなくもないか」
まさか、謎の回想でシー先生……いや、もう先生なんて親しく呼べないや。
ディセルの思惑を知ることになるなんて。
とんだネタバレじゃない?
こういうのって、登場人物の口から聞かされてとか、その現場を見てって感じで知るのがポピュラーでしょうよ。
ネットで話題作の衝撃的な場面だけの切り取りと考察見た気分。
全部は知らないのに、かいつまんで知った気になるやつ。
「ディオメシアを滅亡させたいのか、王族を潰したいのか、虐殺したいのか、頂点に立ちたいのか……完全にブレブレ過ぎ。魔法の効果?」
なんて独り言に、返してくれる人なんかいないけど。
上を見る。
左右を見る。
どこを見ても過去の情景。
都合よく脱出用扉なんかない。
万事休す?間違いなくそうだ。
試しに頭ぶつけてみても痛くないし、つねっても痛くないし、どこを走ろうが私自身どこにも行けないで記憶だけを見させられる。
「だれかー……たすけて~」
寝転がって、どこに向けるでもなくそうつぶやいた。
その声が届いたのかはわからない。
だけど次の瞬間私は口の中に俯瞰感を覚えた。
さりさりで、草っぽくて、変なにおい。
「え?なにこれ、口の中に何かある?何もない……うぇぇぇ!!」
直後、耐えきれないほどの凄まじい酸っぱさ!!
喉も舌も刺すみたいに酸っぱい!!
涙が、咳が、止まらない!!
苦しい、苦しいくるしい、苦しい!!!!
「っはぁぁ!!!!ぐっ、おえっ」
全身全霊で体を起こす。
そしたら、口の中に何かが詰め込まれてる感覚だけがあった。
何も考えないで起きた勢いのまま吐き出せば、膝の上にべちゃべちゃパサパサ草の塊が飛び出してきた。
口の中に何もなくなってもずっと不快で、酸っぱい越えて苦くてエグ味があって最悪!!
ぺっぺっと唾を吐きだしているとき、私はようやく人間の気配に気が付いた。
私が大変な中、何もしないでじっと見つめてる、ドッペルゲンガーを。
「よかった!目が覚めたのね。何をしても起きないから心配してたのよ」
「がーね、てぃあ?ここ、どうして」
「よくわからないわ。でも、あなたを連れて逃げろって言われたの!ほら行くわよ!」
ぐいぐい私の手を引くガーネティアの手に、彼女が現実の存在だとようやく理解できた。
モノクロじゃない、肌の色も、私と同じ赤銅色の髪も、色がちゃんとわかる。
青い炎だけじゃない、別の色と温度に泣きそう。
手を引かれるまま寝台を降りると、足をずっと使ってなかったからそのまま崩れ落ちた。
ガーネティアも巻き添えになったけど、彼女はすぐに私の肩に手を回して立ち上がらせる。
王女様なのに、妙に慣れてるな。
スラムで散々やってきたんでしょ。
「歩けるかしら。もう気つけの草はないのよ、しっかり立ってちょうだい」
「は?気つけの草ですって」
「ええ、あなたの口にぎゅうぎゅうに詰め込んだでしょう?」
「あれ、本当は一枚で十分なのよ」
「多ければいいでしょう?あなたはちゃんと目覚めたもの」
あ、コイツちゃんとわがまま王女なとこ残ってたわ。
適正量とかわかんないで、あるだけぶち込んだな!?
ひどい目覚めだったのに!……今はどうでもいいか。
足を何とか動かす。
感覚がなくなったわけでもないから、ちゃんと動ける。
今、何日だ?
戦争の様子は?もう始まってたりする?
この物語のクライマックスなんだ。
ちゃんとしないと、処刑エンドも何もかも破綻させられるかもしれない!
「ガーネティア、きょうは何月の何日かしら」
「12月の21日の夜よ」
「今年の冬至は、一年で一番太陽が昇らない日は明日?」
「たぶん……そうね」
「スラムのみんなは、戦いに行った?」
「まだよ。まさか、止めるの?」
んなまさか。
止められるわけないでしょ?
嵌められたとはいえ、きっとディセルは原作通り勢力をまとめ上げてるはず。
途中だったけど、あの回想を見たんだから大体はわかる。
今から私が行っても、もし私が集めた仲間だけを引き離そうとしたって無理だ。
もうスラムにいる武力は、スラムの魔法に染まって『打倒ディオメシア』一色だったんだから。
「わたくしは、わたくしらしく、卑怯な手を使っていくまでよ」
「あなたは卑怯じゃないわ。王女として、どれだけ素晴らしかったのかは専属使用人さんたちを見ればわかるもの」
「私……いや、わたくしはそんなものじゃないわ。ただ、あの時は死にたくなかっただけ」
回想はスラムの中と洞窟の中で起きたことしか見せてくれなかった。
だから、みんなが各々スラムから脱出したところまでしか私は知らない。
みんながどう動くのか?
そんなもの、想像できない。
原作を壊せるようにって、原作に関わらなかったモブを選んだんだもの。
だけど、これだけは言える。
みんな、しっぽ巻いて一人で逃げられるような人間なら、私は彼らを選んでない。
「まずは、安全なところまで逃げるわ。手伝ってくれるかしら、ガーネティア」
「侮らないことよ。わたくし、もう守られるだけの王女ではないもの!このまま港まで向かうわ」
「港?」
「ジークさんからの指示なのよ!」
原作では今頃はヴァルカンティア軍が密かに停泊してる。
でも、今回は「絶対に戦いには介入しないで」って結構前にヴァルカンティア宰相夫妻に手紙を送った。
港にはたぶんいないはずなのに。
さてはステラディア?
でもあのルシアンが戦争介入するような原作のフラグは折ってる。
エラとあんまり関わらなかった彼が、明日の大戦に何かする?
ええい!!ままよ!!
今はジークを信じるか!
「行くわよ。これから、わたくしたち二人とも無事に逃げるんだから」
「今夜はみんな明日に備えて早く休んでるもの。バレないわ」
「ちょうど良すぎるわね!」
同じ顔の女が2人、洞窟から出ていくなんて変な感じ。
でも、久しぶりにドキドキする。
私とガーネティアは、洞窟を出て森の中を歩いた。
ひたすら、誰にも見つからないようにって願いながら。




