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264話 魔法の打破と俺のギャンブル

まさかまさか、俺も焼きが回りましたかね。

カッコよく単独行動して、できる抵抗はしておこうってやる気を見せたというのに。


これまでの経験も、頭脳も、スパイとしての有能な勘も役に立ちそうにない



「こんなところで躓くとは。さすがの俺でも、魔法使いではないんですがねぇ」



スラムからまた荒野に戻って、訓練場とは別方向へ走った先。

一度だけ入ったことのあるスラム民の聖地ともいえる場所。

ガーネティアが蘇るためにずっと匿われていた、不思議な青い炎の洞窟。


その周辺には十人武装した人間がいた。

顔ぶれから言って革命軍じゃない。あの子の『軍勢』の方だろう。

洞窟に何人か入っていく様子が見える。

ご丁寧に武装までして、ここを守らせるなんて重要な場所だと言っているに等しい。


でもそこはほら、俺にとっては一つだって問題はないんですけど



「純粋な力なんて、俺の前ではほぼ無力なんですけどねぇ?まさかこうなるとは思わないじゃないですか。まるで火に近づく虫の気分を人間の身で味わえるとは思いませんでした!……ほら、誰かお返事してくださいよ」



一瞬で全員昏倒させたんで、応える人間なんか一人もいないんですけどね。


でもしくじりました、一人くらい起こしておけばよかった。

俺という人間は、勘は良くても運はそこまで良くないものですから。

嫌な予感に身を任せ過ぎましたね、反省反省。



「もしあの子を好き勝手に使うなら、使えるのはこの洞窟……っていう読みは合ってるはずなんですけど、まさか入れないとは思わないじゃないですか。鍵もないくせに」



もう一度洞窟に入ろうと手を伸ばす。

その瞬間、バチッ!!と音がして鋭い痛みが腕全体に広がる。


これくらいの痛みなら耐えられなくもないんですが、そのままもう一歩足を進めると……


刃物で、腹を貫かれる。

岩で頭を激しく打つ。

弓矢が喉を割く。


それ以外にもあらゆる攻撃が俺の体を通り過ぎていく。

痛みも、苦しみも、見たこともないはずの古戦場が俺の中に叩き込まれていく。

我慢なんてものじゃない、これに耐え続ければ精神が壊れていく。


足を後退させれば、情景は平穏に戻る。

天気がいい、俺以外に立つ人間のいない洞窟前。

体にはもちろん、手にすら傷一つない。



「……っ!!はぁ……なんですかこれ、俺が入れないって相当ですよ」



これは魔法ってやつでしょうね。

月光国に入るときも、不思議な感覚はありましたし。

この洞窟に入ったあの時も、同じような感じはしましたけど。


さては、中に入れる人間とそうでない人間を選別している?

月光国も月光国民と認められた人間しか入れないようになってたらしいですし。

じゃなかったら、倒れてるこいつらが入れて俺が入れない理由はなんだ?


でもこれでわかりましたね。



「俺たちの力じゃどうにもならない何かがある……これはかなりマズイですね」

「何がまずいんでしょう?」



突然の声に、俺は振り向いた。

見知った声だ、だがこの空気感は違う人間。


そこにいたのは、ボロの服を着た赤銅髪の女。

ディアーナ、じゃない。ガーネティアだった。



「これは一体、何があったんですの!?皆倒れて」

「俺が全部やりました。おやぁ、もしかして怖いですか?」

「当たり前です!ジークさん、この者たちは味方でしょう!!やはり、シー先生の言う通りあなたは危ない人間なのね」

「なんと!俺を危ないと教わっていたなんて、ちゃんとお勉強したことを覚えているんですねぇ。ディセルの『教育』は実に恐ろしい!『いい子さん』を作るのがうますぎる」



倒れてる奴らを見て動揺するその目、偽物王女とは違うな。

彼女は俺がそんなことをしたら、こんなに感情に任せてヒステリーを起こすことはない。

俺が月光国で百人以上を相手に無断で大立ち回りをした後でも、ちゃんと言えと叱っただけで俺を危険だと見なかった。


おかしいですね。

アンナの血を継いでいるのはガーネティアのはずなのに、赤の他人の彼女のほうが安心できるとは。



「で、何しに来たんですか?まさか、俺を捕まえにとか」

「違うわ。ディアーナを探しに来たの、どこにもいなくて」

「シー先生に頼まれましたか?事前につかんでましたけどね、あいつが彼女を利用して」

「何のことかしら?わたくし、本当に知らないのよ」

「……はい?おかしいですね、あなたはディセルに従ってここに来たのでは」



ガーネティアの反応は、想定外ですね。

ここに来るまでにすれ違った人間は、だいたい人形みたいに動いてたんですが。


ともあれ、もしかするとこれは幸運かもしれない。

これは一か八か、ギャンブルを仕掛けるべきでしょう。


彼女がディセルの言いなりになるか、自らの考えに従って行動する王女たるか。


どちらにしろ、このスラムで俺ができることはもうないですから。



「ガーネティア様、俺の言うことをよく聞いてください。こんな愉快犯で運は悪い男ですが、状況判断の正確さは年季が入っているヴィンテージですので」

「あなた、話し方が回りくどくてわからないわ」

「さてさて、早速ですがこの先あなたの行動一つでこの国は滅亡もしますし発展もします。予言しますよ、本物王女の力はまだ健在ですからね」

「いきなり何なの?あなたは人に話をする方法がわからないの?」



話をする方法?わかってますよ。

誰かの印象に、強烈に残る方法もね。

だってほら、あなたはもう俺の言葉に釘付けになっている。


今すぐじゃなくていい、彼女が……俺たちのディアーナ様が使いつぶされてしまう前にあなたが動いてくれればそれでいい。

そうすれば、少なくとも俺たち専属使用人は詰まない。


あの恐ろしいほどの策士の裏をかけるかはわからない。

それでも、俺は、今ここであなたが動くことに賭ける。


生憎、俺はまだやるべきことが多いんでね。



「そんなあなたにとっておきの情報をプレゼント!!実はシー先生はこの騒動の黒幕!彼が巻き起こす戦いで、多くの人民が死んでしまうのです!」

「な……で、でもそれはディオメシアをいい国にするためだって」

「それ、本当に信じてます?あなたはこう思っているはずだ……血を無駄に流すことは、間違っているのではないか?だって、あなたのお母様は本来そういう方でしょう」



ガーネティアの揺れる瞳は、残念なことにディルクレウスの色だ。

でもよかった。

十年経っても、どうやらアンナの姿はガーネティアの記憶にあるらしい。


遠くから足音が聞こえてきた。

数十人規模か、思ったより多いな。

間違っても、俺の味方ではなさそうな話をしてますね。


ここにはもういられない。

なら最後に、ガーネティアに魔法をかけていこう。

現実的な、忘れられない言葉の魔法を。



「ひと月の内に合図をします。そうしたらどうか、ディアーナ様を連れてスラムを脱出してください」

「え?意味がよくわからないのだけれど」

「きっとです。俺は、あなたのお母様に誓って悪いようにはしませんから」



返事は聞かなかった。

もしガーネティアがディセルの言いなりになるならそれも運命。

悲観的な未来も楽しんで攻略しますよ、俺は専属使用人なのでね。


ガーネティアを置いて、荒野方面に走る。


俺は、一人で動くことを選んだ。

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