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262話 あたしの異常事態発生

砂と、岩ばっかりの荒野。

草も木もほぼ生えやしないだだっ広い場所で、あたしはジークと二人で待ちぼうけを食らった。


いつも訓練を再開する昼過ぎ。

今日は三百人規模で剣術と体術、銃弾から身を守る訓練だ。


みんな出来がよくねえから、あたしらの昼飯時間をギリギリまで削って稽古してた。

そのせいで時間が無くなって、走って荒野まで戻って来たってのに。


とっくに訓練始まる時間は過ぎてるし、ジークは地面に寝そべりやがるし、今の季節結構寒いし!



「訓練受ける奴らが遅刻って何なんだよっ!!」

「ほらほらあんまり怒らないでくださいよ。一層ブスになりますって」

「知るか!!あたしがブスなのはもういいんだよっ!一人二人ならともかく全員来ねえ!」

「は?俺が対人情報取得訓練まで叩き込んだアテナがブスなはずないでしょう。ついに目が腐りましたか?」

「ブスって言ったのオメーだろうがジーク!」

「あれぇそうでしたっけ~?」



ジークのやつも、いつも律義に訓練つけてるのに怒り一つ見せやしねぇ。

コイツは、いっつも煽るし容赦ないし、頭いいのにガキみたいな喧嘩ばっかりする。


だけど、案外ちゃんとしてる奴だってのは、よくわかってるつもりだ。


一応あたしの師匠だから、王宮時代から数えて10年は近い付き合いをしてる。

あたし以外にもコイツの教え子はそれなりにいた。


だからわかる。

誰相手だろうと、それが初心者でも、宰相夫妻でも、訓練でコイツが手を抜くことはなかった。

それに、訓練生が遅刻してんのにだらけ切って待つことなんか、一回も見たことなかったのに。



「お前も怒れよ。あたしの時は一分遅刻したら一本骨折るって脅したくせに」

「そこはほら、アテナはヴァルカンティア人ですし骨の一本や二本すぐ治るでしょう?」

「ヴァルカンティア人をなんだと思ってんだよ」

「人間を卒業した野生兵器」

「国民のほとんど敵に回してんじゃねーか」

「その非ヴァルカンティア人の俺に勝てないヴァルカンティア人は滑稽ですけどね」

「国民ほとんど勝てねえんだよ」

「俺が優秀過ぎるばかりに……それにしても、おかしいですね。……寝ていいですか?」



いっそ声弾でもかますか?と声帯の準備をしたその時、遠くから声がした。

ざわざわ、ざわざわ。

男たちがはしゃいでるみたいに、笑ってる声だ。


いい度胸だな、指導する人間をこんなに待たせてんのににぎやかにのろのろ来やがって。


ちょっと叱るかと足を踏み出す。

だけど、それは寝っ転がってるだけのジークの手で止められた。


あたしの足首をひっ掴んで、大コケさせる方法で!



「何しやがる!」

「行きますよ。これはマズイ」



さっきまで仰向けで寝てたのに、ジークは一瞬でうつ伏せになって岩に隠れ、荒野を見てた。

訓練生達が来る方角で、あたしが聞いた声の向きに。


一瞬で空気感が変わったのを、感じられないようじゃヴァルカンティアのスパイなんかできない。

あたしもジークと同じ体制になって、身を隠す。



「なんだよ。声聞こえたからか?」

「それは聞こえてないですけどね。……言うなれば、経験者の勘ですよ」

「お前の勘って信じていいのか?いつも二択とか外す癖に」

「俺は運は悪いですけどね。でも、覚えておいた方がいいですよ」

「何を」

「突然行動が変わるときは、大抵が良くない予兆です」



音を立てずに、ジークは立ち上がって荒野を走る。

あたしも後に続いた。

ぐるっと荒野を遠回りして、訓練生達に会わないようにしてるのはわかったけど、ジークが何をしたいのかがわからない。


そうしてるうち、距離的にあたしの地獄耳に訓練生達の話声がちゃんと聞こえてきた。

もちろん、向こうからこっちが見えるようなへまはしないけど。



「は?おい、なんだそれ」

「どうしましたか?さては、ディセルが偽物王女を利用して自分の思い通りに事を進めようとしてます?」

「おう……なんか妙に士気が上がってるし。話の内容、まさか聞こえたのか?」

「聞こえるわけないでしょう?アテナのおバカな頭脳じゃわかりませんかね」

「じゃあなんで」

「……さぁ?いつまでも教えてもらえると思わないでくださいよ。お子様ですねぇ」



くそっ。

こういう時、あたしはまだまだ力不足なんだってわかる。


たくさん訓練して、考えるのが遅れても身体能力でどうにかなるように鍛えてきた。

でも、どんなに鍛えたってジークの考えてることが全然わかんねぇ。


よくわかんないけど、訓練生達の話からしてディアーナがまずい状況かもってのは理解できた。

それなら……!



「あたし、このままスラムに戻る」

「ほう、それはなぜ」

「メリーとコマチに合流する。ディアーナはスラムにいるはずだから」

「さすが安直」

「あんだと!?」

「でも悪くないですよ。ではそちらはお任せしましょう、俺はちょっと調べる場所があるので」

「どこに」

「秘密です」



無駄にもったいぶる癖、こんな状況なのによくやってられるな。

あと、自分は行動把握したがるくせに変に秘密主義発揮しやがって。


信じてるから、いいけどよ。

愉快犯なやつだけど、仲間だし。


スラムの街並みが見えてきたあたりで足を止める。

ここからは別行動だな。



「ではここで。メリーとコマチによろしくお願いします」

「いつ合流する?」

「さぁ?いつでしょうかねぇ」

「さっきからなんなんだよ。合流場所と時間の設定はいつも厳しいだろお前」

「あはは、さすがアテナ。俺の一等かわいくて優秀な教え子ですね」



ぞぞーっと鳥肌が立つ。

なんだこいつ、いつもの皮肉と遠回しすぎるジョーク落としてきたのか!?


いきなり褒めるな気持ちわりい!



「お前ジークの偽物か?」

「いいえ本物ですよ。では、後は任せました」

「ちょ、おい!」

「メリーとコマチにも、同じように伝えてくださいね!」



気色悪い言葉を残して、ジークは行っちまった。

変なジーク。おかしなもんでも食ったのか?

あいつはそんなこと、これまで一度だって言ったこと……。



「……あいつ、さっき」



『突然行動が変わるときは、大抵が良くない予兆です』



「……いや、まさか、な」



あたしはそのまま走ってメリーとコマチに合流した。


ディセルの思惑予想と、ディアーナが危ないことを知ったのはこの時。


様子がおかしいジークのことは、すっかり頭から抜けていた。


あんなに、おかしなあいつは初めてだったのに。

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