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261話 私とスラムのみんなの異変

「メリーちゃん、きょうはなぁに?」

「今日はね、甘い飲み物を作ろうかな。商人のおじさんにはちみつをもらったからね」

「やったー!俺一番に飲む!」

「戦う人が先!だよ!」

「みんなの分もあるからね。手伝ってくれるかな?」



訓練を頑張る人のために、それに軍備を整えようと手伝ってくれる子供たちに。

私は、限られた材料で甘いものを作っていた。


このスラムにお世話になるようになってもう一ヵ月。

アテナとジークさんは忙しそうに訓練に付き合ったり、コマチちゃんは軍備を整えようとする人たちに助言してたり。


私と言えば、できることはスラムの人達と関わることしかしていない。

戦いとは直接関係ない、生活のことが多い。


訓練する人や、今日のご飯がない人達のために大鍋で温かいものを作ったり。

子供の世話に疲れた人の代わりに子守をしたり。

怪我人の手当ては、ちょっと自信があったから役に立ててると思う。


今も、手に入れられた食糧で、ちょっとでもみんなが安心できたらって子供たちと大鍋がある広場に向かっていた。


昔の私だったら、役に立ててないって泣いてたかもしれない。

だけど、できることを小さくても積み重ねることがどんなに大切か。

それを、ルシアン王のそばでよく勉強させてもらったから。



「あたしお手伝いする!メリーちゃんの魔法みたいなお料理!」

「魔法じゃないよ。お母さんから教わっただけで」

「あれ?みんな集まってるよ?」

「おじさんたち何してんだ?」

「わたしのお父さんもお母さんもいる」



子供たちが何かに気づいたみたいで、私もそっちに目を向けた。

確かに、今向かおうとしてる広場に大人たちが集まってる。


なんだか興奮気味で、大きな声でしゃべってる。

今日何かあったなんて聞いてないけどな……


近づけば、話の話題が聞こえてきた。


信じられないような、言葉が。



「ついに決戦の日が決まったってよ!」

「それにしてもなんでこの日なんだ?」

「そんなのきまってるだろ。ディアーナ王女の復権だよ!!」

「シー先生も言ってたでしょ!あの王様引きずり降ろして、国を終わらせるんだよ!」

「そうだ!12月22日に!!」

「ディアーナ様の誕生日に!」

「俺たちの旗頭に!」



その話、嘘だよね?

だって、おとといディアーナ様達とディセルさんたちで話し合ったときは12月の中頃がちょうどいいって言ってたのに。


確かにディセルさんは納得いってないみたいだったけど、ディアーナ様が絶対に遅らせたくないって段取りだって組んでた。


完璧だって、ディアーナ様いっぱい悩んで計画立ててた。


どうしよう、足が、進まない。



「なんだろ、なんであんなにみんなうれしそうなの?」

「おまえしらねーの?『ディアーナ様』が王様になったら、おれたちもっといい暮らしできるんだぜ!」

「ディアーナ様って、ガーネティアのお姉ちゃんのこと?」

「しらなーい。でもシー先生がディアーナ様って」

「でもさー。ガーネティアの姉ちゃんて戦えんの?ライラのねえちゃんと見た目一緒なのに、すっげーどんくさいぜ」

「またライラねえちゃんが王女様になるのかな!?じゃあ、女王様かな!」



子供たちの言葉に、ぞわっと嫌な予感がした。

その場に荷物を全部おいて、元来た道を引き返す。


「メリーちゃん!」「どこいくんだよー!」って私を呼ぶ声が聞こえても振り返れない。

そんなの気にしていられないくらい、ゾクゾクが止まらない。


必死に走って、ガーネティアちゃんの家に飛び込む。

だけど、そこには誰もいない。

いつも通りなら、この時間はディアーナ様がいるはずなのに!!



「そんな、ディアーナ様!」



宛てもなくスラムを走っていると、角で誰かにぶつかった。

尻もちついたけどそんなの気にしない。

見上げれば、コマチちゃんが申し訳なさそうな顔で私に手を差し伸べてくれる。


いつものおすまし顔だけど、すぐにわかった。

汗かいてる、息も上がってる、何か焦ってる。

こんな時ばっかり、私の勘は良く冴える。


コマチちゃんも、私とおんなじだ。

きっと、スラムの人達の変な盛り上がりようを見たんだ!



「メリー、ディアーナ様は」

「いないの!ガーネティアちゃんの家にはいなくて」

「周囲は見ました、どこにもいません」

「スラムの人達、様子がおかしいの。私達が相談されてないことで盛り上がってて」

「自分も聞きました。それに、彼らが指しているのは『ディアーナ王女』。もし……いや、なんでもありません」



コマチちゃんが言葉を飲み込むのは、言いにくいことがあったとき。

それを聞いた誰かが、悲しむって思ったら止めるのが、優しいコマチちゃんの癖。


何かをごかますのは得意なのに、親しい人に嘘がつけない。

いつもなら、私は絶対に無理やり聞こうなんてしない。


だけど、それを止めちゃだめって思ったその時には、コマチちゃんの腕を強く握っていた。



「コマチちゃん、言って?お願い止めないで」

「ですが、あくまで推測で」

「ここでちゃんとわからないと、後悔するの。絶対に!」



これは勘。

だけど、私はこの勘に何度も助けられてきた!


ディアーナ様の専属使用人になるって決めた時も、たくさん王宮で危ない目に遭ってきた時も。

みんなと別れてしまっても、またこうして一緒にいられていることも。


頭がいいなんて、思ったことない。

だけど、直感に従わないで大切な人たちと離れ離れになるのはもう嫌!



「……それは、勘ですか」

「勘!」

「メリーの勘は、怖いほど当たりますから……説明してる時間はありませんから、一度で聞いてください」



コマチちゃんは私の肩に手を置いて、距離を詰める。

私の耳元で、他の誰にも聞こえないように小さな声で囁いた。


コマチちゃんの汗のにおいが、とんでもないことになったんじゃないかって予感を確実にしていくみたい。



「ディセルは、私達のディアーナ様を先頭に立たせ、戦わせて……どさくさに紛れて、あの方を亡き者にして、ガーネティア様を擁立するつもりでは、と」

「え……それって、だってディアーナ様は後ろで指揮を執るはずじゃ」

「だから、おかしいほどにディセルに都合よく話が進んでいるんです!自分たちは、嵌められたのかもしれません」



耳元で、心臓がドクドク鳴ってる。

走ったからなのか、怖いからなのか、私にはわからない。

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