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258話 私は先生とスープを飲む

ひと月が経った。

スラムでの時間は本当に一瞬で、私は文字通りてんやわんやの日常をおくっている。

いうまでもなく、既定の未来を変えるための戦争準備だけど。


ガーネティアの家から出て、シー先生の家に向かう間に子供が集まる広場をチラ見。

年端もいかない子供が、男女関係なく木の枝を刃物で削って弓矢を作っている。

楽しそうに喋りながら、真剣に鋭い矢を作る子供。

なんだか、胸が押しつぶされそう。

戦争に加担させてるじゃん、こんなの。



「あっ、ライラのおねえちゃんだ!」

「ちがうよ。ディアーナ様って呼ばなきゃ」

「あれはガーネティアのお姉ちゃんじゃないの?」

「手に黄色の布巻いてないだろ。あれはライラねえちゃんだよ」

「ディアーナ様って呼ばなきゃいけないんだよ?シー先生がそう言ってたもん」



王女時代も、世界中を仲間集めに奔走した時代も、そして今も。

子供の姿って貧富の差はあれど大きくは変わらない。


与えられた役目とか、みんなでやるから楽しいことに夢中になる。

たとえそれが、戦いのときに使う武器だとしても。


まるで戦時下……実際、そうなんだけどさ。

割と平和な時代を生きてきた日本国民としては、心が痛むわ。

子供も重要な労働力として見なきゃいけないなんて。


だけど、そんなことを考えても何にもならないから。

だから、せめて明るく「みんなのお姉ちゃん」として振舞わなきゃ。



「みんな!作業は進んでいるかしら」

「うん!!見て見て、これすっごく鋭く削れたのー!」

「ライラー!この弓矢どこにもっていくのー?」

「荒野の隠し穴よ。あと、わたくしのことはディアーナと呼びなさい」

「なんでー?」

「なんでもよ。ほら、早く出来上がった弓矢を運んでちょうだい!ご褒美にメリーが甘いものを用意しているはずよ」

「ほんとー!?おれいちばーん!」

「あー!!ずるい!みんなはやくいこっ」

「ディアーナ様もいこうよー!」

「わたくしはシー先生とお話があるの。転ばないように気をつけなさい!」

「はーい!!」



元気だなぁ。

大人たちは私の仲間含め、これから先に待つ戦いに向けて少しずつ殺気立ってるのに。


子供たちが向かった荒野方面には、私が集めた軍勢の仲間と革命軍の兵たちが合同訓練で筋トレをしてる。

ジャックを筆頭に、仲間たちは白兵戦の訓練や、突撃の練習をしてる。

数百メートル離れてるはずなのに、住処が密集するここまで号令の音が聞こえるんだから充分気合入りすぎてるでしょ。


シー先生の家に向かう最中、名前を呼ぶ声に足を止めると50代くらいのおばちゃんが私に手招きしてたから駆け寄った。

私が生まれた頃からスラムにいる人だ。

小さな鍋ほどの器を手にして、ニコニコで私を見ている。



「ライラちゃ……じゃなかったわね。ディアーナちゃん、ごはんたべたかい?これ、よかったらたべなさい。シー先生と一緒にね」

「おばちゃん、いいの?これって訓練してる人達用でしょう」

「いいのよ!シー先生とこの国を変える人だもの。ちゃんと食べて、力つけておくれ」

「えっと、でも貴重な食糧でしょう」

「ディアーナちゃんのお仲間さんたちが、食べ物をいっぱい持ってきてくれたおかげでもあるのよ。それに、このスープ好きでしょう?」



器の中に入っているのは、草が浮いたお湯に小麦粉で練った団子もどき。

本当は可もなく不可もない、なんなら微妙なんだけどそんなの言えるわけない。


笑顔で受け取って、居住エリアを駆け抜けた。


通り過ぎる間に、老人や子供が防具を細々作ったり、そこらじゅうで煮炊きの音がする。

平和だった時の空気の中に、隠せない戦いの前の気配が居心地悪い。


もう11月だ。

私達がいきなりスラムに来たのに、こころよく迎え入れてくれただけでもありがたいのに。

戦いに協力してくれるなんか、これ以上ないはずなのに。



「ディアーナですか。待っていましたよ」



シー先生の家、ドアもないただ布がかかっただけの入り口をくぐればすぐに声がした。

間違いなく、シー先生の声。

中には他に誰もいなくて、私と先生だけ。

別に、わかってたことだけど居心地は良くない。


私がスラムに来てから一か月の間に、何度もあったことなのにずっと慣れないな。



「おばちゃんに、スープ貰ったわ。いただきましょう」

「ありがたいですね、どうもいつも食事を忘れてしまうので」

「知ってるわ」



先生が適当な袋から木の匙と器を取り出して私に渡す。

さすがに食べ物に使う食器類は洗いなさいよ、若干汚れてるんだけど。

スラムで衛生観念なんかあってないようなもんだから、別にいいんだけどさ。


スープを一口食べる。

やっぱりほぼ無味無臭で、出汁も何もない。

草の味と、かたい小麦粉の塊で顎を鍛えられてる。


慣れたもんだけど、おいしい!とは言えない。

愛情がすごくこもってるのはわかるけど。



「ディアーナ、最近アテナさんが見えませんがどうかしましたか?」

「ヴァルカンティアの宰相夫妻へ手紙を出したのよ。『どうか動かないで』ってね」

「悪手ですね。王族をなくすにはいくらでも仲間が欲しいんですが」

「それはあなたの望みでしょう?わたくしは自分が死ぬ未来を変えられればどうでもいいもの。これ以上考える要素を増やしたくないわ」

「あなたは偽物だというのに、本物のようにいつまでも振舞いますね。よくヴァルカンティアにバレないものだ」

「すべてが自分の思い通りだとでも?ヴァルカンティアの宰相夫妻はわたくしが交渉した相手よ。あなたに指図される筋合いはないわ」



シー先生のため息が、妙に大きく聞こえた。

その声も「わからずやですね」とかの副音声が聞こえてきそうでムカつく。


私が実は、この世界の原作者なんだとは彼に言ってないけどさ。

同じ未来を知ってる仲間ってツラして、見た目通りの17歳の子供って思ってるのが見え透いてるんだよ。


こっちは精神年齢で言うとがっつりおばちゃんに足突っ込んでるんだぞ?


あ~スープがマズイ。



「そうだ、相談をしていいですかね。ディアーナ」

「……ライラと呼ばないように望んだのはわたくしだけれど、シー先生に呼ばれると嫌な予感しかしないわね」

「慣れてくださいね、あなたは『ディアーナ王女』なのだから……単なる未来の話がしたいだけですよ」



一か月の間、未来を知ってる私達の間で何度もあった話し合い。

それを今日もするだけ。

たまたまか、必然か、二人きりの状況でしかできない話を。


誰かが血を流す未来を、傲慢に決定させるだけだ。

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