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257話 ディオメシア王宮の繋がれた二人

レオンがディアーナ王女捕縛の宣言をしてから二週間後。


ディオメシア王宮内の一室。


長方形の晩餐机の上には、何皿も料理が並んでいた。

肉料理が2種、魚料理は3種。

野菜は彩りよく、スープも温かで、あと柔らかそうなパン。

すべて、一人の男の前だけにある。


机についているのは二人の男。

無感動にすべての皿から一口ずつ手をつけ、美しい所作で淡々と口に運ぶレオン。

机に脚をかけて、「お前行儀悪いな」と言い捨てるミクサ。


レオンの前に大量に料理があるのに、ミクサの前には何もない。


ミクサが王宮に人質として捕らわれてから約2週間。

ディルクレウスからミクサが逃げ出さないよう監視を言いつけられたレオンは、ずっと憮然とした顔でミクサをそばに置いていた。



「一食にこんな量いらねえだろ。お前、全部食え」

「貴様は残飯をすべて食すのだから、俺が残した分だけ喜ぶのが筋だろう」

「誰が好きで残飯処理するかよ。お前が残す食べ物が見てられねえだけだ」

「ほら、食え。俺はもういらん」

「自分で大量に用意しろって言っておいて、半分以上残すか?どんな教育をされたら食べ物を無駄にできるんだよ」

「なんだ、俺はこのまま捨てても一向にかまわないぞ」



ミクサは舌打ちをすると、レオンの前にあった大量の食べ残しを胃に収めていった。

その様子を影から見ているディオメシアのメイドはハラハラしているが、ミクサは「しっしっ」とジェスチャーして下がらせる。


はじめはレオンと同量の食事がミクサにも用意されていたのだが、あまりの廃棄量に驚いたミクサが「ワシの分はいらない。コイツが残した分でいい」と自ら頼んだのだ。


晩餐室にレオンとミクサ以外の人間はいなくなった。

王宮のトップであるディルクレウス王は、この机につくことはない。

この場だけでなく、レオンは王族かのように傲慢に振舞っている。


ミクサにとってディオメシア王宮は、誰が主なのかわからないほどに歪んでいた。



「お食事中申し訳ございません!レオン様宛に親書が届いております!」



ミクサが美味な残飯をお行儀よく頬張っていると、一人の兵士が駆け寄ってきてレオンに跪く。

よくあることだった。

命令権の頂点はディルクレウス王だが、その右腕のポジションに収まっているレオンは側近と言ってもいい地位にいる。

自然と、王に伝達するものを事前に見ることができるのも彼であった。



「おい、貴様早く食え。執務室に戻るぞ」

「あ?ヤダね、まだ食い終わってない。ここで受け取れ、どうせ離れられないんだからよ」

「俺に逆らうのか?」

「文句ならこれつけたディルクレウスに言えよ。ワシのせいじゃない」



右腕を上げたミクサの手首には、鈍色の鉄枷と鎖が伸びている。

その鎖の先は、レオンの左足首の枷に繋がっていた。


二人を繋ぐ鎖は5メートル以上はあるだろう長いもの。

『絶対に逃がすな』と釘を刺したディルクレウスによって下賜されたそれに、レオンは何百回目かの舌打ちをした。


ミクサがケラケラ笑うのをそのままに、レオンが兵から親書を受け取り即座に中を見る。

その差出人に目を止めた彼は、鼻で笑った。


嘲笑うようなその表情に「飯がまずくなる」と呟いたミクサの声が聞こえたのだろう。

急に機嫌が良くなったレオンが、揚々と話し始めたのだ。



「俺は気分がいいんだ。これは誰からの親書だったと思う?」

「どーでもいいな。反発側のワシに話すってことは、どうせ碌な情報じゃない」

「そう言うな、これでも貴様の能力は買っている。貴様はモグラだが、多くのゴミ(民)を管理した手腕は素晴らしい」

「民をゴミ扱いするか。器が知れるな」



ミクサの声などさほど聞こえてはいない。

レオンにとって、重要な「人間」などもうこの世にいないのだから。


レオンは親書をミクサの眼前に突き出した。

ご丁寧に差出人の名前を指差しながら。



「『ステラディア王、ルシアン』……俺からソルディアを奪ったやつだよ。コイツの、コイツのせいで俺はソルディアに帰れないんだ。それなのに、毎月送ってくる。律儀だろう?」

「お前がディアーナ王女サマの結婚相手に選ばれたから、2国も背負うことになるなんてかわいそうな王様だな」

「それなら命じられた時点で断ればいい!!……それで、なんて言ってきたと思う?傑作だ。愉快でならない」



いきなり笑ったり怒ったりするレオンに、ミクサは無感動だった。

舌鼓を打つ彼は、情緒不安定な人間など裏カジノ時代に見飽きるほど見ている。


そんな反応を返されているのに、レオンにはもはや見えていない。

それほどまでに、ルシアンからの親書が嬉しいのか。



「聞いて驚くがいい。要は『ボクにできることはないか?』だ……何様だ?あのノロマ!」

「へー。お前みたいな器の小さい男によく言ってきたな、人間ができてやがる」

「俺はディオメシアを動かす男だ。どうせ今の情勢でディオメシアの味方をした実績が欲しいだけ……お見通しなんだよ!!」

「でもお前のこと気にかけたのは本当だろ。ディルクレウスじゃなくてお前宛ての親書なら」

「絶対に得なんかさせるか。あいつが壊れるまで、俺を見下したのを泣いて謝ったのを踏みつけてやりたい……!」

「あ、聞いてねぇや」

「楽しみだ、たのしみだなぁ……!そんなに言うなら飼い殺してやる……」



ステラディアとの交流が、今後重要になってくるのはミクサでもわかる。

私情に駆られたことを宣うレオンを無視して、デザートのソースまで拭い食べると椅子を立つ。


ミクサはこの王宮内で生きることが役目。

すべては、自分の民を守るために。

さほど年の変わらない二人だが、置かれた状況は正反対と言える。


それでも、この二人はこう生きるしかないのだ。

二人の運命の手綱は、ディルクレウス王に握られたまま動けないのだから。



「はぁ……腹いっぱいだ。おい、いつまで続くんだよそれ」

「まずは油断させるべきか?そうだな、兵の数は多ければ多いほどいい。ディルクレウスには……後がバレるとまずい、報告はするか」

「執務室戻りたいって言ってたじゃねぇか」



ミクサはまた椅子に座り、机に足をかける。

彼にできることは現状ない。

可能なことは、レオンの狂気が解けるまで昼寝をして待つことだけだった。

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