255話 私が望んだ秘密は肩透かし
「で、それでそれで!?続きが気になりますわ」
「もう、もうやめましょう?話疲れてしまったわ」
「あら、わたくしはまだまだ聞き足りませんもの。それから、お父様から逃れてどこへ?」
あれから何分?ううんそれどころじゃない。
一時間は喋ってる気がする。
主に私だけ。
ひたすら楽し気に相槌打ってるだけのあんたより疲れてるに決まってんだろうが!
何で誰も戻ってこないの?
もはや人払いされえてるって考えたほうがいいよねこれ。
ほぼ洗いざらい、成り代わってた王女生活のことを聞きたがるんだもん。
私が今のスラム情勢とか聞こうとしても
『それよりもあなたのお話のほうがいいわ!こちらもとっておきの情報を渡すんですもの。もっと話してちょうだい』
わがまま王女が!!
おかげでちっとも聞き出せない。
直球で聞いて『ライラがスラムを探ってましたわ』なんてガーネティアからシー先生に告げ口されたらまずいし!!
深いため息だって出る。
でもそれを察さないガーネティアは、おかまいなし。
原作ディアーナ王女より性格がいいなと思ってたけど、認識を改めなきゃ。
根底にあるのは、一人っ子かまってちゃんだ。間違いない。
「もう、いいかしら。ずっと話していると疲れるの」
「あら。では数分休んだらまたお話してくださる?」
「わたくし、体調がよくないの。なのに、まだ話させるつもり?いい加減、休ませてちょうだい」
「あっ……ごめんなさい。わたくし、すっかり忘れていたわ……あなたのお話が、とても面白くて」
「王宮では教わらなかったの?スラムでも病人は静かに寝かせろっていうわよ」
「わたくし、お話はまだまだってシー先生に言われたの。十年空いてしまったんですもの、大目に見てちょうだい」
それを自分で言っちゃおしまいでしょうよ……。
自覚があるだけいいか。
原作のディアーナ王女は、テンプレな悪役令嬢。
物語を引っ掻き回すためだけの、ただの装置。
ほぼ重要な役目なんかなかった。
でも、その本人が目の前にいるのは妙な心地がして、しょうがない。
スラムの人達と接して、世界を知って、原作よりも温厚になったのは間違いない。
だけどそれは、運命が変わった彼女で、もはや知らない人。
ガーネティアのこれからの運命を知っていても、滅亡の工程を知ってても、絶対に油断なんかできない。
彼女は私と違って本物のディアーナ王女なんだから。
「早く教えてくださらない?わたくし、たくさん喋ったわ。今更『まだ足りない』は通じないわ」
「……やっぱり、今度になさらない?あなたは戦うその日までスラムにいるんでしょう?焦らなくても」
「あなたの情報で作戦が変わるかもしれないのよ?わたくし、気が長いほうではないの」
やけに言いにくそうにするガーネティアは「でも」「やっぱり」「秘密だもの」って言い逃れをしだした。
でも、それ見逃してあげるほど優しくなんかないから。
思惑とかは話してないけど、私が偽物王女してた期間の活動はバレたらまずいものだってある。
裏カジノに少人数で踏み込んだのだって、一歩間違えれば説教どころかギリギリ犯罪だし。
黙って睨むように見つめていると、降参したのかちょっと拗ねてガーネティアは口を開いた。
ご丁寧に、私のすぐそばまで来て耳元でこそこそ話で。
「……なのよ」
「声が小さいわ」
「だからっ!ジャックは……なのよ」
「ディアーナ王女ともあろう人間がちゃんと話すこともできないの?品位が知れるわね」
「っ……!だから!!ジャックはあなたが好きだって言ったの!!」
キャンキャンした声が私の耳元で炸裂する。
すんっごい鼓膜に来たんだけど!?
こそこそ話どこいったの結構声でかくない!?
それに何言ってんだジャックが私のことを好きって……好きだって?
「は?」
「もう十年以上よ!?なのに、あなたってジャックに甘い言葉の一つもかけないんですもの」
「十年?そんなの、わたくしが成り代わる前じゃ」
「そうよ!今じゃスラムのみんなが知ってるわ。わたくしだって、蘇る枕元で何度も『本当にライラにそっくりだ、会いたい』って聞いたもの」
マジに言ってるのか?
思わず天井見ちゃった。
う~わどうしよう……別にジャックが恋してることなんか原作に支障ゼロだけど。
転生者の私にってのがいけない気がする。
だって、本来この世界に存在するはずないんだぞ?
ステラディアのルシアン然り、原作では存在してない『ディアーナ王女のそっくりさん』が人間関係に組み込まれてるのがダメでしょ。
仲間とかはいいよ?でも恋愛だとかは話が別だ。
私は誰とも結ばれる気はないし、処刑エンドを回避出来ればこれ以上はない。
さっさと他国に亡命して穏やかに天寿を全うしたい。
「……とりあえず、わかったわ。それで?」
「一途よね。革命軍の先頭に立つのも、あなたのためなんですって」
「そう……それで?」
「だから、あなたがうらやましいってことよ!」
「それで?」
「もう!それでってあなたは冷たいわね。すごい秘密でしょう?ジャックは隠しているけれど、ちっともあなた気づかないんだもの。ちょっとくらい手助けしたいのよ」
「まさか、それだけ?秘密は」
ガーネティアは素直に頷くんだもん……怒鳴るのをこらえるのに必死になるしかない。
あんなに引っ張って、私にあれだけ話させて、まさかの恋バナがとっておきの情報!?
しかもスラムのみんなは知ってるって?
そんなの、何の戦力にもならない……。
話すんじゃなかった。
どうするのよ、予定じゃ滅亡大戦が起こる12月までスラム滞在予定なのに!?
これからたくさん接するだろうに、気まずすぎるでしょ!!
「頭が痛い……」
「あら、熱が上がってきたのね」
「あなたのせいよ」
「濡らした布、必要かしら」
「いらないわ」
これから私は、スラムにやってくる自分の仲間全員と合流することになるだろう。
『軍勢』として、スラムの革命軍と戦いの準備しないといけないのに。
人間の恋慕って面倒。
国の滅亡を防いで、処刑エンドを変えるって言ってんのに煩わしいのが味方にもいるとか。
先が思いやられる。
もう全部投げ出したくて、私は目を閉じた。




