253話 倒れる私と紅茶に溺れる夢
まずどうするべき?
情報はあればあるだけ欲しい。
でもこの状況で話してくれないよね。
だって雰囲気が「みんなの賢人、スラムのシー先生」だもん。
さっきまでの「目的達成のためなら何でもやります、ディセル」じゃないし。
早くしなきゃなのに。
ちらっとシー先生が地面に書いた図を見る。
ディオメシア派と、反ディオメシア派。
それとその端に書いてある『12月』の文字。
先生は、知ってるんだ。
ディオメシアが滅ぶ戦いが、12月に起きること。
(シー先生で言うところの一周目と、私の原作知識に矛盾点はなさそうだよね)
原作の流れ的に12月中旬あたりに全面的な戦いが勃発する。
全勢力がディオメシアの王宮付近で激突して、たくさんの血が流れる最終決戦。
ここに至るまでに小競り合いはたびたび起こるけど、どれも決定的な国家滅亡にはならない。
この12月の戦いで、王宮に居た王族が引きずり出されて、それで死ねばこのディオメシアは終わる。
でも、私はそれを止めるためにここまで頑張ってきたんだ。
シー先生にめちゃくちゃにされるわけには……!
立ち上がろうとしたその時、視界がぐんにゃり回る。
ぐぅらぐぅらと頭が回って、膝が、抜けた。
(まずい、倒れる)
「ディアーナ様っ!うっ…ぐっ」
「め、りー」
「はい、メリーがちゃんと支えますっ」
立ち上がりかけの不安定な体で前のめりになったとき、メリーに体を支えられた。
助かった、咄嗟に手も出せなかったから受け身も取れなかったはず。
でも、腕プルプルしてるよ。
申し訳ないなぁ、人一人分の体重支えてるもんね。
何とか立ちなおそうとするけど、めまいがひどくてそれどころじゃない。
そしたら、アテナが近寄ってきてふわっと横抱きにされる。
まさかのお姫様抱っこだ……アテナって案外気遣いできるようになったよね……。
「ディアーナお前、熱あるな?」
「寒くて、頭が痛い……」
「おい、まだ話しなきゃか?こいつ寝かせたいんだが」
「あ、アテナ。まって、まちなさい。まだ、シー先生に聞きたい、ことが」
「この状態でまともに話聞けるかよ。コマチ、薬何か持ってねぇ?」
「熱を引かせるものであれば。ですが安静が先決ですね」
「あの、ディアーナ様をゆっくりさせられる場所が欲しいんです。どこか、ありませんか?」
連携とれてるぅ。
三人とも仕事ができるウーマンだ。
煽り倒すジークが気絶させられてるだけでこんなに静かだとは。
安心して倒れられる……っていかんいかん、そうじゃない。
聞き出さなきゃ。
滅亡までに時間がないのに。
でも、無理そう……。
目もぼーっとしてきたし、本格的に体調崩すわこれ。
「それは心配ですね。では、このまま私の家にいてください」
「いえ、男性がいる中ではディアーナ様も落ち着けません。わがままなのはわかっていますが、他にありませんか」
「ライラは小さいころから俺らと一緒だったんだぞ?大丈夫だ」
「ジャックさん、幼馴染だという考えは危険です。もうディアーナ様は『女性』なんですよ」
コマチが応戦してくれてるのがありがたい。
確かに、このままシー先生の家なんか休まらないよ。
「あの、わたくしの家はいかがかしら?あまり広くはないけれど」
「ガーネティア様の、お家に?」
「ええ。狭くなってしまうけれど、女性の方々もは入れるわ」
「いいんですかガーネティア」
「いいのよシー先生。だって、革命軍に協力するのならスラムにしばらくはいるでしょう?わたくしも、話し相手が欲しかったの」
ガーネティアの、上品な声が聞こえる。
でも、もう無理。
私の意識は、ここで途切れた。
・
・
・
夢の中で、私は王宮にいた。
かつて5人で、何度もお茶をした大きな机。
私は、自分以外誰もいない部屋で一人紅茶を一口……
飲もうとしたら。
『熱いでしょう?冷ましてあげるわ』
その言葉と共に、背後から手が伸びた。
ティーカップサイズだった紅茶に、顔全体を叩き込まれる。
息が、できない。
いきが、吸えない!!
焦って、なんとか背後を見た。
そこには、私にそっくりな顔の、同じ服を着た……!
「っぁぁぁぁあ!!」
自分にある腹筋総動員で飛び起きた。
その瞬間、息ができるようになる。
べちゃっという音と共に、びしゃびしゃに濡れた布が落ちた。
「大丈夫?うなされていたわよ」
私を覗き込む同じ顔に、心臓止まりそうになった。
あ、ああ。ガーネティアか……。
夢の中の顔と、全く同じだったよ。
現実になったかと思った。
「息が、できなくて。夢見が悪かっただけよ」
「そうなの?それは大変だったわね」
「それで、あなたの手にあるそれは何かしら」
「布よ?あなたの顔が熱かったから、水で濡らした布をのせていたの」
「聞くけれど、それを絞ってのせてくれたのよね?」
「しぼる……?」
ガーネティアのきょとん顔で全部察したわ。
びしょびしょの布はそう言うことね。
顔全体にこれが乗ってたら息できなくて当然か。
「布はちゃんと絞ってのせてちょうだい。あと、顔全体にのせなくていいわ」
「知らなかったわ。そういうものなのね」
「あなた、蘇生の間ずっと面倒見てもらったんじゃないの?」
「でも、看病の仕方なんて教わってないもの」
「わたくしの専属達に聞けばいいでしょう」
「皆さん出払っているもの」
そうか、ちょっとシー先生の家とは作りが違うこの家は、本当にガーネティアの家か。
なんでメリーもアテナもコマチもジークもいないの?
みんなが警戒なくそばにいないのって、なんか変。
「探しに行くわ」
「みんなすぐ戻るって言ってたわ。だから、ここにいてちょうだい」
「でも」
「わたくし、あなたと二人きりでお話したかったの」
私の腕を掴むガーネティアの握力が強い。
あと眼力も。
こんなところで、本物王女と偽物王女の対話イベントとかマジでやるの?
原作には絶対に起きてないイレギュラー、やんなきゃダメ?
でもこのまま待ってっても、気まずいしなぁ……。
「お話してくれたら、いい情報をお教えしますわ」
「……いい情報、ってなにかしら」
「あなたには秘密にしてくれって言われた『情報』よ。ジャックに関してのね」
ガーネティアは人差し指を口元にあててにっこり笑った。
絵になる美人だよ。
私もなぜか同じ顔だけどさ。
でも、それを言われたら聞かないわけにいかない。
「わかったわよ……じゃあ、お話しましょう」
うまくいけば、ガーネティアからも情報が引き出せるってことだ。
誘導して、たくさんしゃべらせてやる!




