249話 無力な私の告白を聞いてください
私の人生は、ある女に出会って変わってしまった。
不思議な力としか言いようのないもので、先の未来……私は「一周目」と呼んでいますが……を見た日から、それに抗おうとしたのです。
ですが、不思議なもので。
私が何をしても変わらないことが多くあった。
……いや、正確には『変わるはずなのに余計な要素が足されたせいで変わらなかった』が正しい。
ご存じの「王家の祝福」。
不死の呪いです。
属国を増やすため、戦いに駆り出された兄たちをまず救おうとしました。
死んでは蘇生、死んでは蘇生を繰り返された人間はどうなると思いますか?
『ディセル、殺してくれ。たのむ、もう生きたくない』
『体が、自分のものではないんだ。だって、俺は、あのとき内臓ぶちまけたのに!!』
『やだ、連れていかないで……地下に、いきたくない、いきたくない、生きたくない……』
戦いを止めようとしました。
先王に直談判して兄たちを戦わせないでくれと訴えました。
未来を知ったのだから、先回りして戦いに行かせないように細工をいくつもしました。
それでも、ほとんど無駄になりました。
どんなに止めようと、父の、先王の権力に勝てることはないからです。
そして、何度も蘇生された兄たちの叫びは、やがて自分にも降りかかった。
青年になった私も、父上の命令で戦いに投入され、生と死を行き来したのです。
あれは筆舌に尽くしがたい。
何度も蘇生を繰り返すと、体に無理が起こるのでしょうね。
私自身も心身ともに削れていくのがわかりましたよ。
ですが、それは仕方ないのです。
どうにもならないことですから。
不可思議な力をいくら考えても、原因がわからない以上何もできない。
一周目にはなかった現実に、打ちのめされました。
私の後悔は、汚点は、その先にある。
『ディルクレウス、お前ももう15だ。戦地へ向かってもらうぞ』
『本当ですか父上!ようやく、ようやくお役に立てるんですね!』
『ああそうだ。お前には、ステラディアに向かってもらう……そうだな、大群で行かずともよい。少人数で、信頼のおける者達と向かえ』
『戦うのでは、ないのですか?』
『そうだ。いわば……様子見だ』
ディルクレウスの、初陣を止められなかったこと。
それが、私をここまで駆り立てる理由です。
あの子は、先王の指示通りステラディアに向かいました。
武装はしていなかった、そう指示したと先王が後に言っていましたから。
そして無抵抗のまま、警備をしていたステラディアの兵に攻撃された。
信頼できる仲間も、自分も、容赦なくただ蹂躙された。
後にこの出来事が引き金でディオメシアとソルディア・ステラディアは対立して戦争になります。
お察しの通り、こんなものは先王が仕組んだ茶番。
我が子の命を使い捨てにして、敵国を攻める大義名分をつくるためだけの。
それを、私は止められなかった。
起こると知っていたのに、自分の心身衰弱にかまけて弟を死なせてしまったんです。
ディルクレウスが死んで、地下教会で蘇生されていると知ったときはすぐ向かいました。
そして、悟ったんです。
祭壇の上で、むくりと体を起き上がらせた弟が。
まだあどけない笑顔で私の名を呼んで、懐いていた彼が、消えてしまったことを。
『ディルクレウス。すまない、わたしは、父上を止められなかった……!』
『ディセルの兄上。兄上だけです、心配してくれたのは』
『何を言う!兄上たちも、姉上たちも皆お前のことを心配して』
『もう、わかった。……駒だ、王の、駒でしかない』
『ディルクレウス……?』
『安心してくださいディセル兄上。あなただけは、無事に逃がしましょう。兄上様姉上様は……逃げられるなら逃げればいい』
会話が成立していなかった。
そのときの、弟の不気味な無表情は忘れません。
今なお、その顔は変わらずにいるのですから。
それから、ディルクレウスは戦いに投入されました。
今度は殺し合いの戦争のただ中に。
私たち兄たちが尻込みする中、勇敢に、無謀に、英雄的に立ち回り殺しまわり、兵からの信頼を得るまでに時間はかからなかったんです。
どんな言葉も、小細工も、通用しませんでした。
未来を、ディルクレウスが帝位についた先のディオメシアの滅亡という一周目と同じ現実。
変えようと足止めしても、裏から手を回しても、ディルクレウスの覇道を止めることは叶わなかった。
そしてついに、王宮内で静かなクーデターを起こしたディルクレウスは先王から王位を奪い取りました。
武力と、英雄的な働きに魅せられた臣下。
国民からの信頼。
それに加えて、正統な後継者候補であった兄弟たちの信任。
『我は、ディオメシアの王なり。先王の威光はここに潰えた、今この時より我に従え』
そう宣言したディルクレウスが最初にした仕事は、先王の暗殺でした。
もともと国民からの信頼もそこまでなかったのですが、実の父です。
その計画を聞いた時は、さすがにやめろと兄姉も私も止めました。
……彼に、現王に聞く耳はありませんでしたが。
王家の祝福は『王と王の子のみ』が対象。
先王は、あっけなく死にました。
蘇ることもありませんでした。
ただ一つ良心的だったのは、衆人環視の中ではなく王宮内で暗殺したことでしょうか。
国民のほうをあまり向かなかった先王です。
『将来有望な末の王子に後を託し、邪魔にならぬようにと自害なさった』
詳細が語られない先王の死は嘘と妄想で飾られた。
噂を、しばらくして耳にしたときは笑いそうになりましたよ。
不死の呪いがかかった我が子たちを何度も使い潰した、ろくでもない男。
その真実を、民は知ることなんてない。
さて。
……ここまで、私の知る未来と大きく変わらずに進行してしまったのです。
そして、このあとも。
運命というものがあるのなら、それはディルクレウス贔屓としか言いようがない。
どんなに私が動いても、ディルクレウスのそばに居ようとも、事は起こりましたから。
自分以外の王族を排除しようという、意味不明の凶行が。




