248話 あたしの腕で落ちる首、あと寒い夜
空気がピリついてやがる。
ディセルを始点にガーネティア、ディアーナ、メリー、あたし、コマチにジークで円になるこの状態。
ガーネティア以外から睨みも殺気も疑いも、とにかくぐちゃぐちゃな考えがあたしらから感じるはずだ。
なのに、ずっと薄く笑ってやがるんだこのオヤジ。
不気味すぎる。
宰相殿でも、もう少し顔面動くぞ。
「まず、何からお話すればいいですか?いいですよ、これから同じ戦いを生き抜くだろう同志ですからね」
「はい。どうしてそんなに無謀でバカで、今時豚しかやらないような正面突破にこだわるんですか?俺としても命がもったいないと言いますか」
「ジーク、黙ってください。あなたが話すとあまりに冗長ですから」
「コマチがそれを言ってはおしまいでは?この頭でっかち」
お、今コマチの何かが切れる予感がしたぞ。
やめろよ、今かなり重要な話始まるってのに。
いや、やめられないか……
こいつら、どっちも「舐めたら殺す」って心持ちだし。
「……あなたのほうが頭が高いようなので、少々長さを詰めましょうか」
「身長がコマチより高いので仕方ありませんね。あぁ俺より小さいコマチのかわいらしいこと」
「あなたの無駄な身長を見せつけられたところで邪魔でしかありません。思慮深さをすべて身長の発達に振り分けてしまうとは何とも残念な男」
「お前ら黙っとけよ……メリー、コマチのほう止めてくれ」
「アテナ、ジークさん止められる?」
「頸動脈一瞬止めれば落ちるだろ」
こんな時でも絶好調にケンカしやがる。
なんで二人とも頭いいくせに、キレるのも似てんだよ。
同族嫌悪ってやつか。
おかしいな、専属になったばっかの時はあたしが止められてた方なのに、今は逆か?
ふいにディセルが「ああそうだ」って言いだした。
なんだ、お前も何かあるのか!?
「ガーネティア。ジャックを呼んできてもらえますか?もう夜は暗いですから、巡回している革命軍の誰かと一緒に行ってください」
「え?でもわたくし」
「ちょっと遠くの岩場まで訓練に行っているはずですから。ね?」
こんなの、鈍いあたしでもわかる。
あからさまに、ガーネティアを外したいんだ。
ジャックを呼ぶならもっと早くに呼んでおけばいいのに、今更すぎる。
わざわざ、こんな時に出ていけっていうのは「あなたに都合の悪い話しますよ」って言ってるようなもんだろ。
でも、ガーネティアは素直に従う。
あたしらを、ディアーナを見てから「すぐに呼んできます」って駆け足で出ていく。
足音からして、一直線に走って行ってる。
……素直だなほんと。
いいとこのお嬢様って感じだ。
ディアーナがもし同じことされたら、出ていくふりして盗み聞きしてるぞ。
図太いし、抜け目ないし、ビビりだし。
そんでガーネティアが出ていってすぐ、ディセルは何事もなかったようにしゃべりだした。
「そうですね、理由は一つですよ。『この戦いの引き金を産んだ王族への嫌悪を高めるため』とでも言いましょうか」
「ちょっと待ってちょうだいシー先生。この状態で話さないでくださる?」
「あ、静かになるまで待ってた方がいいですか?あなたの専属使用人は常時騒がしいので、ある程度無視していいかと考えていまして」
「問題ない、話続けてくれ。ちゃんと聞いてっから」
騒いだのはこっちだけどよ、マイペースに話進めんな。
よくこの状況で重要そうな話できたなディセルよぉ。
瞬時にジークの背後に回って、首に腕を巻き付ける。
首の太い血管を狙ってうまく締め上げれば、ジークはがくんと力が抜けた。
やけに抵抗もなくジークが落ちるもんだからビビる。
いつもはもっと「力じゃなくて技術で締めないと」ってピンピンしてるくせに。
コマチもメリーに背中をさすられて、落ち着いてるな。
ジークは気絶してるけど、コマチが話聞けてるならいいか。
ったく、なんでこんな一瞬で疲れてんだよあたし。
「じゃあ、続きですね。誤解しないでほしいんですけど、私は別に大量殺人をさせたいわけではない。ただディオメシアの民全員に血を見てほしいだけなんです」
「意味が全く分からないわね。違いが見えてこないもの」
「では、少々昔話に付き合っていただけますか?」
「まだまだ質問はたっぷりあるのだけれど。わざわざ本物の王女を退席させてまで、何を話す気かしら」
「私の人生と、思想と、未来の展望について。大方、あなた方が聞きたいのは私がなぜ未来を知りながら無謀な動きをしているのかでしょう」
その言葉を受けて、ディアーナがあたしたちを見る。
わかってるよ、他に質問ないかって言いたいんだろ。
ねぇよ。
そもそも、あたしは細かく考えるのに向いてない。
メリーも、頭いいコマチも、首振ってるならそれが答えだ。
「……あまり長い時間はとらないでちょうだい」
「もちろんです。ジャックにも、ガーネティアにも、この話は聞かせられませんから」
暗い室内で、どこ見てるんだかわからないディセルの目が沈んでいく。
誰も気が付かないだろうけど、あたしには見えた。
もう外は真っ暗だ。
どっかから拾って来たんだろうランタンに、油皿と紐で作ってる小さな炎だけがこの部屋の光源。
拭きっ晒しの家も、寒さも変わってないはずなのに背中がぞくっとした。




