246話 貧しい家で未来の殺し合いの話をしよう
何とか身を起こしたライラと、彼女に話しかけるガーネティア。
同じ顔の、同じ色の、瓜二つの人間を見比べたジークは乾いた笑い声を上げた。
「で、本物と偽物をちゃんと言い分けたと。頭がいいですね」
「はい。私、ディアーナ様とガーネティア様は違う人だってわかってるから、だから、ジークさんもディアーナ様にもう怒らないでほしくて」
「メリー、俺は起こっていませんよ?」
「嘘つけ。ずっと腑に落ちない顔してたのお前だろ」
「おや、俺の顔が見えないと?アテナにはこの笑顔が見えないんですかね」
「本心を語らない胡散臭い顔にしか自分は見えませんが」
「お願いだから無駄な争いはやめてちょうだい。頭に響くから」
「ディアーナ様。こちらの薬をどうぞ、月光国の風邪薬です」
「変わり身早すぎだろコマチ」
専属使用人4人とライラの騒がしいやり取りに、本物のディアーナ王女であるガーネティアはあははと笑う。
自然と5人の目もそちらに向かう。
ガーネティアは笑い声は大きく、開いた口を隠す仕草は上品なちぐはぐさを見せる。
「あなた達は、本当に仲がいいのね。羨ましいわ」
「うるさいの間違いではなくって?本物の王女であったあなたの周りには、こんな騒がしい人材はいないから新鮮なだけよ」
「そうかしら?わたくしはもう十年はスラムの方々に面倒を見られて生きていたのよ。静かな王宮時代より、今のほうがずっと生きやすいもの」
「はいはい。ライラ、ガーネティア。皆さんもこちらを見てくれますか?説明しますよ」
ライラがガーネティアと話していた時、割り込むようにパンパンと手を叩いたのはディセル。
みんなが何かと喋ったりして、騒いだり喧嘩が勃発しそうな中、彼は黙々と地面に何かを書きつけていた。
木の棒で書かれたその地面に、6人が集まる。
そこには、『親ディオメシア派』『反ディオメシア派』の大きな二つの丸。
そして親ディオメシアの円の中には『国王軍』『他国連合軍』
反ディオメシアの円には『スラム革命軍(市民も参加)』『軍勢』
4つの勢力が別れている様子と、その横にある『12月』の文字。
「まず、この円が一か月後の勢力図です」
「シー先生、未来の出来事をそんなに簡単に言うなんて」
「いいんだよガーネティア。ここにいる人間は私がこの先の未来を知っているとわかっています。逆に、話さないと話が進まない」
ディセルは何てことないようにとんでもない前提で話を進めた。
これからの話で大切なのは「現状」よりも「未来」だとここにいる全員がわかっている。
他国連合軍が話を盛って、大規模な攻撃に移るだろうこと。
ディオメシア側が、ディアーナ王女に襲われたと言葉を真に受けたのかはわからないが、ディアーナ王女捕縛の宣言が出された現在。
これからの動きを知るために、未来の情報は必須だった。
「あの、よくわかってないんですけど……コマチちゃんもなんですが、どうしてディオメシアからの宣言を重く受け止めているんですか?」
「メリー、今そこじゃないだろ……」
「でもアテナ。王宮がしたのは『ディアーナ様の捕縛』でしょ?別に戦争になるって決まったわけじゃ」
「起きますよ、戦争は。それも必要とあれば他国連合軍がこれまで出した死傷者数を上回る規模で」
ジークが冷徹な声でにメリーに返す。
メリーが無能なのではない。
穏やかな日常を作り上げることに特化したメリーには、思い至らなかった発想なだけ。
「『何としてもディアーナ王女を』と宣言にあったように、本当の意味でなんとしてもやるのがディオメシアなんですよ。歴史が証明している……ディセル元王子なら、よくご存じですよねぇ?」
「……そうですね。ディオメシアの王族は万年戦ばかりで、欲しいものはどんな手段を使っても手に入れてきた。特に、それが顕著なのはディルクレウスです」
「おかげで最初はそこそこの小競り合いで終わる戦いが、ヴァルカンティア側の死傷者多数で終わったのが先の大戦ですし。事実上の『参戦表明』なんですよ、この宣言は。今更娘が恋しいとか?ご自分の行動も省みれないとは王が聞いて呆れますねぇ」
ジークの言葉に、ガーネティアの顔が少し曇る。
無理もない。
彼女にとってディルクレウス王は実の父。
悪王、愚王、狂気の王、戦乱の剣と呼ばれる男が、自分を王宮に戻すためになんでもすると表明しているのだ。
実のところ、きっとディルクレウス王が危惧して手中に収めたいのはライラ……自分の想定を大きく超えて王女を遂行した偽物王女だろうが。
「ディアーナ様、こちらご記憶に齟齬はございますか?自分としては、他国連合軍が親ディオメシア派であることに違和感があるのですが」
「そうね……確か、ディオメシア軍だけでは人員が足りなかったのよ。市民から徴兵しても足りないから、他国連合軍を有り金全部使って買収していたわ」
「ええ、ライラの言う通りです。そのあたりの記憶に齟齬がなくて助かりました」
「でも、この『軍勢』は何かしら。わたくしの記憶だとヴァルカンティア軍とソルディア・ステラディア連合軍が来るはずなのだけれど……まさか、違うわよね」
ライラは、厳しい目をディセルに向ける。
体調が悪くても、頭に靄がががるような体調でも、寒気に襲われていてもその瞳は静かに男を射抜く。
その瞳を見て息をのんだのは、ガーネティア……本物のディアーナ王女だった。
同じ顔が見せる表情は、正反対。
その様子を目にしたディセルは、なぜか穏やかに口を緩めた。
そしてライラの祈るような気持ちは、違ってくれという望みは無残に打ち砕かれる。
「ご明察の通りです。あなたですよライラ」
「いつから、構想していたの」
「いつからでしょうね?」
ディセルという男は、悪魔のように未来を見通すもう一人の男は、ここにいるライラ、メリー、アテナ、コマチ、ジークの一人一人を見て言った。
逃がさないように、言い聞かせるように。
「『軍勢』は私の助言で集まった、あなたの力で集まった、あなたの力で動かす軍勢です。あなたが壊した勢力の代わりに、あなた達が戦うんですよ」




