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245話 私のディアーナ王女と違うディアーナ王女

目が覚めたとき、本当に最悪オブ最悪すぎて二度寝決め込もうかと思った。


私が覚えてる記憶は、ミクサが刺されたって聞いて、なんとかシー先生の家まで支えながら歩いて……そこまで。


アテナの運び方で気持ち悪かったし、イレギュラーなミクサの報告で精神持ってかれた。

もともと元気100%じゃなかったけど、まさか気を失うなんて。


寒くて、体が痛くて。

丸まってたら、ふわっと温かいものがかけられた気がして。


心地よくて目を開けたら……自分がいた。


冗談抜きで、私。

赤銅色の髪も、灰色の目も、顔立ちも、しかも髪の長さまでバッチリ同じ。


鏡?いやいや現代レベルで映る鏡なんかこの世界にない。

ドッペルゲンガー!?いやいやないない……



「目が、覚めましたか?シー先生、ライ……じゃなくて、ディアーナが起きたわ」

「それはよかったです。いきなり倒れ込むから、心配しましたよ。ほら、近所のご婦人がスープを分けてくれましたから食べなさい」

「ディアーナ様!よかった、具合悪くないですか?」

「ゲロ吐いてそのまま倒れんなよなお前」

「ディアーナ様、自分は、自分のせいで、申し訳ございません……!」



私をライラって呼びかけて、ディアーナって言いなおすドッペルゲンガー。

この状況なのに、落ち着いた様子で座ってるシー先生。


それに、アテナはわかるとして。

なんでここにいるメリー、なんでいきなり土下座してるのコマチ。


スラムの床なんてほぼ地面なんだから、ずっと寝てたら体がバキバキ。

絶対風邪ひいてるってわかるくらい寒気がする。

喉が痛くて、何度か咳をしたら、すぐにメリーが駆け寄ってくれた。



「ディアーナ様、風邪ひいてますよね。これ、スープ飲みましょう?はい、口開けてください」

「待ちなさい。もう食べさせられる年齢じゃないのよわたくし」

「看病される人の特権ですよ!ほら、あ~ん」



メリーはこういうとき、絶対に曲げてくれない。

王宮に居たころも、何度嫌だって言ったのにこうして食べさせられたことか。


アテナとコマチは見慣れてたから無反応だけど、シー先生ニヤニヤしないで!


木の匙を口に添えられて、湯気の立つスープをくっと飲む。

うん……言いようのない無味無臭、いやちょっと苦しょっぱい汁。

木の椀を見れば、野菜っぽい葉っぱが浮かんで、穀物を粉にして煮た団子みたいなものが入ってる。


これ、昔私がスラムでよく食べてたやつだ。

すいとんもどきって心の中で呼んでた、少しの材料でもお腹いっぱいになるもの。

もちもちっていうより、もぎゅもぎゅのお団子が懐かしいな……その、おいしくもないけど印象に残るほうで。


私がなんとも言えない顔で咀嚼しているのを、ドッペルゲンガーが機嫌よさそうに見てる。

同じ顔で、そんなに穏やかな顔をされると居心地が悪い。



「おいしい?これを作ってくれたおばあさんが、ライラちゃんが好きだったからって言っていたのよ」

「……そうね、懐かしい味だわ」

「あなた、愛されていたのね。もう十年も前にスラムを出たのに、ここの住人みんなあなたのことをよく覚えていたわ。誰一人、あなたを悪く言わない。ここは、心の優しい民の『国』ね」

「あなた、誰なの。わたくしと同じ顔で、同じ声で、髪の長さまで揃えて何のつもり」

「あら、察しがついているのではなくって?わたくしは一度も忘れたことはないもの。……射抜かれた日から、あなたはわたくしの片割れでしょう?」



いや、わかってたよ。

こんなに私に、ライラに似てる人はただ一人ディアーナしか浮かばない。


でも、信じられない。

ディアーナは、私が作った悪役令嬢、わがまま王女。

ただ物語に苦難を与えるためだけの、幼い悪意を持ちづづけてた女。


それが、こんなに人格者っぽい発言する!?

しかも遠回しに知性感じさせる言い返し方する!?

物語の中での知識じゃなくて、ライラとして転生してから自分のそっくりさんなんか一人しか知らないし。



「……ディアーナ王女、なの?」

「ええ。驚くかしら、十年経ってもわたくしたちは瓜二つなのよ。辿ってきた道は、まるで違うというのに不思議ね」

「だって人格が全然違うわ」

「そうだねライラ。やっぱり、君も『前の彼女』を知っているからそこに引っ掛かるだろう」



私の混乱に、シー先生が乱入してきた。

全部知ってますみたいな顔をして、当然みたいに『前の彼女』なんて言葉を言うの?


そうだ、この人は信用ならないんだ。

方法は知らないけど、未来を知ってるとしか思えないし、七年私にそれを言わなかった。


それ、コマチは何となくわかっててくれると思ってたんだけど……

今更だけど、なんでこんなに馴染んでるのみんな!?



「し、シー先生……あなた前の彼女って」

「君は、もう私がこの先の未来を知ってると察しているね?最近連絡が取れなかったのは困ったけれど、スラムに逃げ込み、私を頼ってくれたからよしとします」

「別に、頼りたくて頼ったんじゃ」

「でも、君は私の力が必要だろう?『軍勢』を率いてきたのだから」



シー先生は、頭がいいんだ。

コマチと同等か、それ以上。

とてもとても悔しいことに、私はこの人に翻弄されてるんだろう。


原作者のくせに、全部を知ってるくせに、登場人物の一人にここまで思い通りにさせられる。


鳥肌が立つ。

風邪のせい?寒いせい?それとも、全部この人の思い通りになりそうで怖いから?


震える私を、メリーが毛布を整えて背中をさすってくれる。

アテナもコマチも、警戒は解いてない。

私には味方がいる、大丈夫、だいじょうぶだから……



「どーうもこんばんは。呼ばれていませんがやってきましたよ、歓迎してくれますか?」



頭がいっぱいになったその時、その場にいないはずの声が響く。

みんなが、シー先生の家の入口を見た。


足音一つなくそこに立つ男に、アテナ「何日もどこ行ってやがった!」とナイフが飛ぶ。

それを笑顔で掴み、人を食ったような笑顔で「荒っぽくて怖いですねぇ」と言うのはジーク。


私を見ても、前に会ったときみたいな嫌悪がなくて「体調崩されてます?おやおやみんな貧弱……おっと口がすべった」と毒満載だ。



「で、俺にも説明してくれますか?これまでのことと、これからのことと……ディセル、お前の目的を」

「その前に自分たちにとんでもない酒を盛って勝手に消えたことを謝るべきでは?」

「コマチは細かいことを気にしますねぇ。美しい顔が台無しですよ」

「気色が悪い」

「おや暴言が直接的だ」



ケラケラ笑うジークは、なんだか言いようもない違和感がある。

でも、助かった。


私が聞きたいこと、聞かなきゃいけないこと。

そして未来に起こる戦いのことも、すべてここでシー先生と聞き合わせないといけないから。


私が、死なないためにも。

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