237話 大船の上で私は再開する
大海原を、大きな船に乗って移動する。
なんて経験、転生前でもしたことなかった。
なのに、転生してディオメシアを追われてからは割とよくある風景になった。
初めはシー先生の人脈、だんだんと自分でコミュニティーを広げて、オールシー船団の船長とも知り合いになったんだもん。
そんな人脈、国から国を越えて大陸から大陸への移動しなきゃ得られなかったし。
私、この世界に順応したんだなぁ。
転生前が陰キャコミュ障ドロドロ小説書いてたインドア人間だったとは誰も気づくまい。
キラキラの海面、潮風、揺れる地面。
乗った当初はしょっちゅう船酔いして吐いてたけど、今は落ち着いていられる。
日差しが温かくてあくびをすると、通りかかった仲間に見られた。
急いでなんでもなかった風を装ったけど、そんなのお見通しらしい。
「ライラ~眠いなら仮眠とれよ。もうすぐディオメシアの貿易港に着くぞ」
「仮眠は結構よ。それに、今わたくしを本名で呼ばないでくださる?わたくしは今『ディオメシア王女のディアーナ』なのだから」
「はいはい、そうだった。にしても、聞き慣れないな。高飛車お嬢様言葉」
「数年来の付き合いのあなたたちはそうでしょうけど、王宮に居たころはこれで3年くらい偽物王女やっていたのよ。もうすぐ時が来るのだから、ちゃんとディアーナ王女にならないと」
「本当はガサツでテキトーなド庶民なのに」
「誰が聞いているかわからないのだから、口を慎みなさい」
「わかったよ。『お姫さん』」
「『ディアーナ様』よ」
「はいはい。じゃー荷下ろししてくるわ」
男は軽く手を振って船を降りていった。
この船の中では、みんなが私の正体を知ってる。
だけど、私は私の目的のために今から『ディアーナ王女』になり切っていた。
この船には、私が七年間で仲間にした人たちが乗ってる。
だいたい全体の2割くらいだけど、今回は作戦当日に向けての視察みたいなもの。
私の正体がディアーナ王女じゃないのにここまで来て一緒に戦おうとしてくれてる人たち。
もうシー先生の言いなりじゃない、自分で判断してここに仲間を連れて来た。
だけど、やっぱり罪悪感が勝つなぁ。
(みんな、私に何を望んでるんだろう)
だって、これから始まるのは戦争だ。
怪我もするし、死人も出るだろう。
私がそういう原作を書いてたんだから、無血で戦争が終わるなんてことは考えにくい。
なのに、こうして後に続いてくれる人たちに、私は何ができるんだろう。
それにメリー、アテナ、コマチ、ジーク。
みんな、私の正体を知らないまま専属使用人になってくれた。
そして、私の正体を知ってなお専属使用人でいてくれる。
でも、わかってる。
それにすべて甘えちゃ、原作の流れは変わりやしないこと。
もうすぐディオメシアが滅ぶ大きな戦いがある。
そのために、私が集めた仲間たちと一緒に戦うんだ。
……なんだか、やっぱり眠いかも。
近頃頭使うと眠くなるんだよな~、老いなの?
精神年齢はほぼおばさんだけど、身体年齢は17歳なのに!
「はぁ……やっぱ寝てこよ…」
ぼーっとしていると、陸のほうから話し声が聞こえた。
船の外に身を乗り出してみたけど、ちょうど影になってて人間が見えない。
話し声からして、さっき私に話しかけてきた男が応対してるみたい。
あの人、この船をオールシー船団から秘密裏に借りてるってわかってんのかな。
でも、話し相手の声聞き覚えがある気がする。
気になるな、誰だろう。
着ているワンピースをたくし上げて、状況がよく見えるだろう船首へ。
そして下を見れば、まさかのアテナとコマチがいる!
(え?待って待って、なんで二人がここに居るの!?)
この港って何か原作上大事だったっけ?
いやいや、中堅くらいの大きさの、なんてことない港だったよな。
何かあった気はしないでもないんだけど……
まさか私が船に乗るだろうことはお見通しで全部の船を探し回ってる!?
そんなことない、とは言えないのが怖い……
自覚あるもん。
みんなの期待裏切るというか、自分勝手にコマチ置いてどっか行ったこともさ……
ジークとアテナだけならワンチャン説教ダメージは軽くて済む。
でもコマチとメリーはダメだ、あの二人の説教は心に来る…!
このまま知らんぷりして、船室の中入りたい。
だけど、それが後々バレたら絶対面倒なことになる!!
ええい、ままよ!!
ちょっと裾を整えて、潮風で乱れた髪を撫でつけて。
体裁だけでもディアーナ王女的威厳を醸し出す。
そして、慣れた高飛車をかました。
「何の騒ぎかしら?」
「ライ…ディアーナ様!この女たちが船に乗せろっていうんですよ」
ちょっとライラって呼びかけたでしょ!
さっきディアーナ様だって教えたばっかりなのにまったく。
でもここで突っ込んだら負けというか、悔しいから言わないけど。
下を向いたら、アテナとコマチと目が合った。
だよね、さすがに驚くよなあ。
何か月か前にさっさと逃げた主人だし。
「ディアーナ様……!」
「おいディアーナ!話聞いてたか?この船にあそこにいる人間乗せてくれ」
「聞いていたわよ。それにしても、久しぶりに会ったというのに今回は驚かないのねアテナ」
「お前は生きてると思ってたから。ってそれどころじゃねぇんだ!早く乗せろ、このままじゃみんな殺される」
穏やかじゃないな。
アテナとコマチさっきあそこと指さしたところを見れば、数百人が座り込んでいた。
あの人数を、乗せろと??
厳しいにもほどがある!
今だって仲間が二百人近く乗ってるんだ、なのにその4倍くらいはいそうだよ!?
沈むぞ、船。
「難しいわね。人数が多すぎるもの」
「じゃ、じゃあ乗せられるだけでいい!頼むよ」
「いったい何があったの?あなたたちがどうしてそんなに焦っているのかもわからないのだけれど」
思い返しても、この時期って戦争とか侵略での人死には爆発的じゃなかったと思う。
もちろん、いろんなバタフライエフェクトで変わってることはあるだろうけど。
こんなに大人数が大移動する事っていったい何が……
「ディアーナ様、ご存じないんですか?あなた様の中に、なかったと?」
「コマチ?」
コマチの目が、震えてる。
信じられないようなものを見る目をしてる。
私は、何か見落としてる?
「月光国が、崩壊しました。地下のすべてが、なくなった」
「は……?」
頭が真っ白になる。
やってしまったんだ。
私は、どこかで変な慢心をしてた。
まさか、そのせいで事態に大きな揺らぎができているとも知らずに。




