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238話 踏み出した私の足

思い出すのは、自分で綴った物語。

この世界の、計画書。


もうライラとして転生して、17年は経つから所々おぼろげな記憶。

だけど、自分で書いたことは忘れやしない。

私は、月光国の運命をたった数行で終わらせた。


『裏カジノ(今の月光国)はディオメシアを陰から支えることに耐えられず、散り散りになった。その後の行方は知れない』


でも、私の物語の中の裏カジノは魔法の力でできた地下国家じゃない。

ディオメシア国内のマフィア勢力だった。

だから、なんで発生したのかはわからない盤石な裏カジノを見て「この世界では壊れないんだろうな」って勝手に思ってた。


だから、全くノーマークだったのに。


まさか、それが起こったの?

コマチがいるから、うまく王宮ともバランスをとれるだろうと思ってた。

だってディオメシアの経済を裏から掌握してるって話だったじゃない。


原作の時よりも良好だから、散り散りになってディオメシア崩壊につながるようなことは起きないって、考えてたのに。



「地下のすべてがなくなったって、まさかあの大空間が!?」

「そうだよ!それで月光国民と地下に避難してたディオメシア人全員を何とかしなきゃなんねぇ、乗せろ!!」

「無理よ!船のほうが沈むわ!」

「でももうすぐ敵が追いついちまう!」



こっちだって助けたいよ!でも今乗ってる船員に降りろって言えるわけない!

どんなに頑張っても、あと百人はあぶれることになる。

座り込んでいる避難民か、これからの計画に欠かせない戦力か……


どうする、イチかバチかで全員乗せる?

それとも避難民は他の船に、いや、今この付近に停泊してる船はどれも荷物をたっぷり載せてるはず。

交渉する時間もないかも?

なら、どうしよう……



「困ってるね、話は聞かせてもらったよ」

「大体の人数にもよるが、俺達が半分くらい降りたらあそこの人たち全員乗せられるんじゃないか?」

「いいぜライラ、じゃなくて。『ディアーナ様』私たちにお任せください」

「みんな…?」



突然私の背後から声がして、振り向くと船員が何人か立っていた。

みんな、私がディオメシアから何とか逃げて来た時からの仲間。

私が、偽物王女だけどディオメシアを何とかしたいって言ったらついてきてくれた人たち。


私が、原作を書いているときに存在すら出さなかったモブ。

おねえさん、おじさん、おにいさん、おばさん……

彼らがみんな、なにか覚悟してる顔をしてた。



「アンタら!みんな船に乗せな。ただしちゃんと全員イイコでいないと海に叩き落とすからね!」

「えっ、あの、ですが」

「ほら早く!こっちにも準備があるんだ、全員乗ったらすぐ出航してやるから」

「まって……待ちなさい!何を勝手にやっているの!?」

「心配すんなよ。攻撃が成功したら、先にみんなでスラム行ってるから」

「あんたはシー先生信じられないっていうけど、逃げてきた人間を見捨てる人じゃないさ!」



戸惑うコマチを、私を、ねじ伏せるみたいに早くしろって言う。

でも、でも。嫌な予感がする。


だって、みんなが今出そうとしてるのは火薬だ。

木箱にみっしり詰まった火薬、銃、弾薬、それに導火線をつないだ簡易爆弾。


それを、手際よく100人以上が装着している。

そして装着し終わった者から、船を降りていく。


そのとき、思い出した。

この港が、何の特徴もないここが何だったか。


出来事は覚えてるのに、どうして場所の立地と記憶がすぐ出てこなかったんだろう。

今は10月。

ディオメシア滅亡の戦いは12月。


10月のある出来事を境に、ディオメシアは他国勢力やスラムの革命軍に攻められる流れになる。


私は、こう書いたんだ。


『なんの変哲もない港に、大きな船が停泊した。そして、兵が上陸して攻撃を始めた』

『彼らはヴァルカンティアからの使者。悪王を打ち倒さんと、赤銅髪の大将の名のもとに、雄たけびを上げた』


私の乗る船は、大きい。

そして今、仲間が武装して下りている。

私の髪色は?赤銅色……


まさか、戦争を始める役割が私にスライドした?

私が、ヴァルカンティアの戦争介入の道を潰すように関係良好化に努めてたから。

ヴァルカンティアのアテナとジークも、一言もディオメシアに攻め入るようなことは言ってなかった。


(原作の修正力ってやつ!?)


気づいてももう遅い。

みんな手際が良すぎた。

私が「攻撃しないで!」って叫んだ時には、すでに錨が上がって船が動き出そうとしていた。


どうしようどうしよう!このままじゃ、原作通りに『戦争が始まって』しまう!!


船首から身を乗り出して、下を見る。

避難民は全員乗ってるのか、もう陸にはいない。


アテナとコマチは港に残って背中を向けてる。

わかってるんだ、この船がこれ以上乗れないことも、戦える自分たちが足止めするのがいいってことも。


船から降りた武装状態の私の仲間たちの前方50メートル先にいる。


そしてたった今、港の端に武装した他国連合軍が見えた。



「や、やめてーーー!!!」



ほんの判断、自分でもどうしてなのかなんかわからない。

だけど、私は一歩踏み出してしまった。


その途端感じるのは、いきなり地面がなくなった浮遊感。

手にしていた船首の柵を、体が乗り越えた事実。


そして、まっさかさまに空中へ。

私は、船から、落ちた。


内臓が持ち上がる気持ち悪さが、一瞬で脳を支配した。


やった、やっちゃった。

ミスった。

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