表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

235/311

234話 避難する人々

突如、ディオメシアに人が溢れた。


壁の中、家々の間、暖炉、床、誰もいないはずの廃屋の中。

人が、ぞろぞろと飛び出してくる。

それは、まるで魔法のような光景だった。



「走れ!後がつかえてるぞ!」

「先頭の構成員はみんなを先導して北方面へ!トモエの領地までみんな止まるな!」

「他国兵に気をつけろ!全員避難できるまでどんな方法でもいい!守り抜け!」

「こっちだ!トロくさいガキは抱えていけ!」

「もたもたすんな!!」

「他の道はどうなってる」

「他国に繋がる道は全部ダメだ。ディオメシア内の通路だけで全員逃がすぞ」

「トモエのとこ行くやつ、こっちだー!!予定通りうごけー!」



まだ民衆がそこそこ残っている町、ほとんど非難した町、田舎、王宮近くの町。

ディオメシアの約30か所に作られた、月光国民がいなければ通れない『魔法の道』全てから、人間が地上に避難してきたのだ。


屈強な男たちを筆頭に、手に武器を持つ人間。

その後ろを非戦闘員の月光国民と、月光国に避難していたディオメシア人が全力疾走で飛び出してくる。


ただの民家の外壁に大きな穴が空き、そこから明らかに百人以上の人間が出てくるのだ。

そんなもの、月光国の『魔法』を知らない民衆は当然腰を抜かす。



「トモエの領地こっち!」

「子供は大人と手繋げ!月光国のやつはディオメシアのやつらから離れず移動!」

「俺たちは敵じゃねえ!安心してくれー!ただ避難させたいだけなんだー!」

「騒がせてすまねえなー!」



いきなりの月光国の崩壊だったが、驚くほど順調に避難が進んでいく。

避難民以外は混乱を持ってその様子を静かに見つめていた。


だが、場所によってはそれがうまくいかない箇所もある。

ディオメシア国民が地下から来た者達に牙をむいた。


その一つ、王宮近くの物流拠点が多く集まる地。

何とか国王軍が守っていたその町で、それは起こる。



「また、また侵略か!?」

「殺さないで!来ないで!!」

「う、うわあぁぁぁ!!!」

「銃!誰か持ってないか!!」

「持ってるわけないだろ!?」



他国の兵士たちに攻撃された記憶は、まだ新しい場所。

見慣れない者たちは、優しい顔をして人間を殺していくのだと知っている住民たちは、各々手近な斧や鎌、中にはフライパン片手に月光国の構成員に襲い掛かる。


錯乱している無辜の民は、ただただ自分の身を守るため、刃を突き立てようとした。


このままでは、血が流れる。

だが、それはとある声によって停止したのだ。


怒声の中で、女の声が「せーの」と告げた、一秒後。



「みんなとまってーーー!!!」



たった一言。

だが、大きくて、平和の中にあるはずの声で、この場に不釣り合いなもの。

攻撃しようとしていた民衆が、そちらに注意を向ける。


そこには、走る地下から来た人々。

そのなかの、多くの子供たちがあらん限りの大声を揃えていた。



「みんなもう一回!次はもっと大声で!せーの!!」

「みんなとまってーーーー!!!」



顔立ちの違う月光国の子供、ディオメシアの子供。

それぞれが離れないよう大人と手を繋ぎ、息を切らせながら声をあげている。

先頭を走る金髪の女性……メリーの声に合わせて、元気で明るい子供たちが走り去る。


民衆は唖然としていた。

子供たちは、パニックになった人間たちを鎮めるように大声を出したかと思えば、そのまま消えていったのだから。


その瞬間を、月光国の構成員は見逃さない。

ミクサのもとで戦闘訓練を積んできた彼らは、武器を民衆から取り上げて遠くに放る。



「頼む、怖がらないでくれ」

「今、月光国が壊れちまったんだ。全員の避難が終わるまで、おとなしくしててくれ」

「迷惑はかけねえ、ちゃんと避難できるように訓練してっから」



各地での起こりかけた暴動も、住民への説明も、すべて瞬時に済ませて人々は移動する。

月光国とディオメシアの橋渡しとして、ディアーナ(ライラ)に貴族位を与えられたトモエのもとへ。


トモエとシズは次から次に来る避難民を受け入れていた。

2人だけではもちろん手が足りないので、彼の領民の村人や、その村人と仲がいい近隣の村々まで手伝いに来ている。


それでも、トモエとシズは大忙しだった。



「今来た奴らは牛舎へ!寒いのは我慢してくれよ~!焚火は積んである薪で勝手にやれ!」

「ねぇトモエの兄ちゃん、怪我した人は屋敷の中入れるよ。あと自力で動けない人も」

「シズ、ありがとな。……なぁ、ミクサの兄貴見たか?」

「見てない。シズ、領地はいるみんなの顔確認した。まだ来てないよ」

「だよな、専属使用人の人たちは?まだ月光国の中にいたって聞いてるし、何か知ってるんじゃ」

「さっきメリーさんとアテナさんは入ってきた。ジークさんは行方不明ってアテナさんが言ってた。メリーさんは子供たち集めて落ち着かせてる、アテナさんはまた避難手伝いに出ていった」

「コマチの姐さんは?」

「見てない……」



トモエとシズが話している間も、次から次に避難民は押し寄せる。

仕方なしに、知り合いを探すことをやめた二人は別れてそれぞれの仕事をこなす。


そうでなければ、トモエの領地を選んで逃げてきた民は救えないからだ。



同じ頃、王宮の前に数百人規模の人間が現れた。


民衆は言わずもがな、月光国に身を寄せていた戦えぬ者達。

この場にいるのは、月光国民よりもディオメシア国民のほうが割合として多い。


それは仕方がない。

彼らは、王宮へ保護を求めてきたのだから。


彼らを率いているのは、黒髪に少し白髪が混じった長髪三つ編みの男。

真っ赤な外套に裏カジノ時代のボスの証である鮮やかな龍の意匠を背負った、長身がひときわ目を引く。


彼は笑顔で門番に声をかけた。



「どーも。『月光国』ボスのミクサだ……中、入れてくれよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ