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227話 ワシとディオメシアの王

ワシは照準を外さない。

腕を狙ったのは予告だ、お前の右腕が使えねぇなら剣も振れないだろ。


だってのに、なんでこの男は……女の話なんかしやがる。



「うまい命乞いだな。王様の女の話なんぞ、興味はそそられねえが」

「月光国は薬物に明るいと聞く。この毒花を、どうする気だ」

「教えるか。趣味だって言ったよな」

「この花はそのまま食うと幻覚や幻聴、意識混濁を引き起こす。そして、苦くて甘くて不味い」

「王様が薬物にも明るいとは恐れ入る。で、だからどうした。ワシらを罰するか?」

「そうして欲しくば罰してやるが、そうしなくとも戦いが広がればここも火の海になる。その前に、来てみたかっただけだ」



この植物は、野生のものを見つけるのも難しい。山奥が原産だからだ。

ワシらの先代からアブナイ薬のために、失敗重ねながら育てて来たもの。


だけど、ワシらはこの毒花を治療に役立てられる薬として別の加工方法を編み出してる。

ムカつくジークから受け取った、ヴァルカンティア特製薬の改良品。

そんな重要な原材料の花畑を火の海にするってのは、笑ってはいられねぇ。


ああ、くそっ!

なんでワシ、ちゃんと喋ろうとしてんだ。

女だってどうでもいい、このバカ王を始末したい……いや、そういうわけでもないな。


久しぶりな感覚だ。

話したかねぇのに、聞き入っちまう、話しちまう。

ディアーナ王女サマの時と、おんなじだ。



「……女ってのは、お前の嫁か?とっくに死んだ、ヴァルカンティアのじゃじゃ馬姫」

「あいつは姫ではない。宰相夫妻の一人娘だ」

「政略結婚に使える立場なら十分姫だ……ワシはな、アンナ王妃が嫌いなんだよ。ワシらの民をごっそりディオメシアに持っていきやがった」

「アンナの話を出すということは、やはりヴァルカンティアの製法を使って薬をつくるのか。あいつは『痛みを消せる薬がヴァルカンティアにはある』と自慢していた」

「じゃあ何だ。お前が腕撃たれて痛くねえのもそれか」

「これは『呪いの蓄積』だ。気にするな」

「笑わせに来てんのか?」



その時、さすがのワシも目を疑った。

あり得ないもんだった。

別に、ワシはおかしなことを言ったつもりもない。


なのに、王様が、ディルクレウスが、フッと……少しだけ笑ったんだ。

一瞬目が緩んで、口も上がって。


なんだ、こいつは。

笑うのか、笑う生き物だったのか。



「お前、本当に何しに来た」

「何度も言っている。花を見に来ただけだ」

「じゃあなんでワシを呼び出した。ここはワシの舎弟の領地、お前の国でもワシの力のほうが強いぜ」

「お前はディアーナと話したのだろう。そして、負けたのではないか」

「あいつ『には』負けてねえ」



ワシが負けたのはコマちゃんの心意気。

王女サマに、じゃない。王女サマの専属使用人たちにいろいろ譲ってやっただけだ!


詳しくは言わねえ。ワシのメンツに関わる。

あれはウチにも利益があるから仕方なく、本当に仕方なく『月光国』として旗揚げしただけだ。


負けては、ねぇ。



「それがどうした」

「ディアーナが陥落させた者の顔を見に来ただけだ。銃を下ろせ」

「信じられるかよ。どうせ、地下にいたワシらが勝手にディオメシアに上がって義賊気取ってんのが邪魔なんだろ」

「生憎、そんなことに気を使っていられるほど王は暇ではない」

「お前、言葉の一つ一つがムカつくな」

「昔からの癖だ。『話し方を考えろ』と何度言われたが直らない」



わがまま末っ子お坊ちゃんか?

いや、確かこいつは年の離れた兄姉ばっかの末っ子だったか…

いい大人が何してんだよ。


あと、暇じゃねぇならこんなとこ来んな。



「では、我は戻る。ああ、花を数本いただいていくが構わないな」

「月光国の大事な資源だぞ」

「ただの『趣味』と我は聞いた。ここの存在は目をつむる、せいぜい守りぬいてみせろ」



そして、ディオメシア国民をあんまり救えてない王様は、宣言通り10本くらい紫晶草引き抜いて去って行った。


本当に、それだけで去って行った。

こちらへの脅しも、協定の持ちかけも、物資の横流しを望むこともなく。

ただ花見て、ワシと喋って、花持って帰った。


ずっとあいつが見えなくなるまで、頭に標準合わせてたのがバカらしくなった。

銃を下ろせば、その瞬間背後に気配がして振り向く。


今度は、武器なんか出さないでいい。


ただ、馬鹿正直なワシの舎弟が飛びついてくるだけだ。


「兄貴ィ!!無事でしたか!?怪我してませんか!?」

「トモエお前、全部見てただろ。怪我してるように見えんのか?殴るぞ」

「申し訳ございませんでしたぁ!!」

「ボス申し訳ございません!俺たちが押さえてもトモエのやつ抜け出しちまいました」

「かまわねぇよ。用事は終わった」



銃をしまう。

あの悪王の命が頂けなかったのは残念だが、ワシが殺せば戦争の火の粉が月光国に向かいかねない。


今日はあれでよかっただろ。

悪王の人柄を知るなんて、いつかどこかに売れるかもしれない情報だ。

ワシは最高にいらねぇが。


(それにしても、あいつはここが火の海になると言った)


ということは、あいつはこの争いに負けると思っているのか?

確かに敵は多い。それでも、多くの国を武力でねじ伏せてきたあの王が随分と弱気だな。



「なぁトモエ、ここの花はいつまで咲く。確か、野生とは時期がズレてるって言ったな」

「えっと、シズが12月ギリギリまでって言ってました」

「12月ギリギリ、な」



紫晶草は、本来寒い時期には咲かない。

一年中栽培できるように、ここの花畑は調整されてる。


それにしても、コマちゃんが集中的に調べてた日付に近いな。

12月の末ごろと、6月の末ごろ。


いや、まさかな……

ただの偶然だろ。



「兄貴?どうかしましたか」

「いや、何でもない。戻るぞ、まだ避難民の誘導終わってねぇだろ」



紫色の花畑を後にする。

ディオメシアは依然好きじゃねぇ。

だけど、舎弟が、先人が作った結果くらいは守ってやったっていい。


ここが火の海にならないように、面倒な荷物背負ってやるさ。

ワシの大事な人が、そうして欲しいって望んでるんだから。

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