226話 オレの領地にトップが二人
ディオメシア国内、中心の王宮がある王都から馬車でだいたい一時間くらいの村。
オレの一番初めに与えられた領地で、酪農と畑ばっかりののどかな田舎。
自慢じゃないが、肉も野菜もうまい。
ここをディアーナ王女に与えられてから、七年。
いろいろあったけど、村のみんなにも協力してもらって、秘密に紫晶草を育てられてたってのに。
ちょうど花が咲いてるこの季節。
紫晶草畑は、紫の花畑。
シズが苦労して作って、一番好きって自慢してたとっておきの秘密の場所。
その中で会話してるディルクレウス王とミクサの兄貴の機嫌で、この畑焼き払われるんじゃないかってすげえ怖い。
「おい、この花はどの用途で栽培している」
「ははっ、ただの趣味ですよ陛下。ワシの好きな花でね、トモエがあなた様の娘に貴族位と領地をもらったから育てさせた」
「危険な薬を醸造できる毒花を好むとは、裏カジノはずいぶんと悪趣味だな」
「今は『月光国』ですよ。ワシらはとっくにディオメシアの経済は掌握済みですので、口は慎まれた方が」
「ディオメシアの地下に巣食わせてやっているのに頭が高いぞ、狂犬風情が」
「そんなに大きな態度をとるんだったら国民の声くらい聞けばどうなんですか王様。その狂犬の国がどんだけ避難救済してると思っていやがる」
「頼んでいないことをやって威張り散らすとは。やはりディアーナは頭がいい、お前ではなくあそこにいる男に貴族位を与えたのは正解だな」
やめてください王様。オレのほう向くんじゃねぇ!!
ミクサの兄貴も兄貴だ!王様に向かってそんな口利いたら、月光国どうなると思ってんすか!
突然襲われた町の救援してたら王様現れて『ボスを呼んで来い』って言われるし。
ちゃんと隠してたのに紫晶草畑見られて『ここで待つ』って居座られるし。
出ていけって言ったらすんごい殺気で睨まれるし!!
(兄貴のためなら命捨てるけど、さすがにここで散らす気はない!)
にしても、本当何しに来たんだ王様。
国のトップだろ。ディオメシアがあちこち襲われてるってのに、一人で辺鄙なとこまでよく来るな。
兄貴も最近忙しくさせてる元凶煽っていいのかよ……
というか、なんかキレすぎじゃないか?
「なぁ、コマチの姐さんは?いつも一緒だろ、兄貴一人だと機嫌悪いのに」
「王女様の仲間と打ち合わせって聞いたぞ」
「ボスは俺達だけ連れて来たんだ。コマチ幹部には言ってない」
「終わった……オレたちの仕事はここで王様と兄貴を殺し合わせないことかよ」
兄貴と一緒についてきた舎弟たちにコソコソ話しかければ事態は最悪ときた。
今日はシズもいねぇし、冷静に止められる奴いねぇぞ!?
(いざとなったら、もし王が兄貴を殺そうとしたら、オレが守る)
腰にナイフ、隠しポケットに毒薬。
銃も弾は入ってる。
殺すのに、不足なしだ。
「あぁ面倒だな、お前みたいな愚鈍な王相手に言葉遣い考える必要はねぇ」
「こちらは強要した覚えもないがな」
「で?なんでこの村まで来た。近衛兵も招集した国民兵も、お前の子飼いにしてるソルディアの王子もいない。不用心すぎる」
「この国は我の先祖が血と命を注ぎ込んで作った国。好きに動いて何が悪い」
「ワシらにここでズタズタにされて死んでも、しかたねぇって言ってんだ」
ミクサの兄貴が胸元から拳銃を取り出して王様に突きつける。
距離は数歩分開いてるけど、兄貴なら余裕で頭をぶち抜くだろう。
今は割と手に入りやすくなった拳銃だけど、兄貴はまだずっと貴重だったころから訓練してたんだ。
剣術の神技って呼ばれるディルクレウス王でも、これなら兄貴が強い!!
弾が剣に負けるわけねぇんだ!
「何を怒る。地下の狂犬にはディオメシアの事情は関係ないだろう」
「アンタの消えた娘のせいでな、こちとら尻拭いさせられてんだ」
「ではやはり調査は本当であったか。あやつの専属使用人の一人が、月光国にいるというのは」
「今その話してねぇんだ。黙って銃口向けられとけよ」
「確かコマチといったか。彼女は惜しい、引き抜ければ使い勝手がありそうな駒だった」
「だ、ま、れ。こっちは怒り貯まってんだ、お前を殺してワシがトップに立てばこの戦争も終わるだろうよ……一遍死んどいたらどうだ」
「羨ましいことだ。何も知らないということは実に幸せなのだな」
ダァン!!!
銃の発砲音で、木に留まってた野鳥が一斉に飛び立っていく。
煙臭いにおい、赤い血、兄貴の無表情。
ディルクレウス王の右腕が、ダランと伸びる。
まっすぐ厳つい顔で、兄貴を見つめて……右腕の指先の血が、紫晶草の花びらに落っこちた。
腕を、打ち抜いた。兄貴が。
(まずい!!!)
なんてこった、王族ケガさせちまった!!
どどどど、どうする!?
ディオメシアで王族傷つけたら最悪死罪だ!
謝ればいいのか?いやだめだ!兄貴は間違ったことしてねぇ!
でもこのままじゃ兄貴が死罪!?
「どどどど……あ、オレがとどめ刺せば死罪になるのはオレっすかね!?」
「誰かトモエのバカ押さえろ。誰もワシらの邪魔すんな」
「はい、ボス!」
「そんなぁ!!」
オレはあっという間に兄貴と一緒に来た舎弟に抑えられた。
オレのほうがこいつらより強くて、舎弟としての歴が長くてもボス…ミクサの兄貴の命令は絶対。
くそっ、こんなに近くにいるのに兄貴の役に立てないなんて…!
「ははっ、何だ王様。表情ちっとも動かないじゃないか、感情を戦場に置いてきたのか?」
「この程度、慣れた。痛くもかゆくもない」
「そうかよ。じゃ、次は頭……ほら、早く言えよ。何が目的でここに来たんだ」
「理解に苦しむ。ただ毒花の花畑を見に来ただけだ」
「月光国のトップ呼び出してそれはねぇだろ」
命の危険だってのに、ディルクレウス王は涼しい顔だ。
いいのか?兄貴は本当に撃つぞ?
兄貴は銃持った時は冗談言わねえんだ!
王様はどこか遠くを見て、んで下を向いた。
足元にも、紫色の花しかねぇのに。
「昔、この毒花を好んだ女がいた。それだけだ」




