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225話 幹部室での密談、6/22の転換点

コマチは忘れない。

ライラでありディアーナ王女と共にステラディア城を抜け出して、6/22の邪魔者の行動を止めようとした逃避行を。


コマチは忘れない。

まさか、既に行動は終わっていて、当たりをつけた「タイタニーの武器流出」が何者かによって遂行された後だった時の感情を。

自分は「次はどの手を打つべきか」と考えていたその思考は、ライラの言葉で吹き飛んだこと。


コマチは忘れない。

『また数か月後に会いましょう。それまでに、次の策を用意するわ』

と自分のもとから去ってしまったライラと、お付きの男女の後姿を。


突然のことに動揺して、追いかけられなかった自分の不甲斐なさを。




ここは月光国の幹部専用応接室。

その中でも、ここはコマチに与えられた部屋。


シンプルな内装に、作業机と壁には一面本棚。

部屋の主の勤勉さ、聡明さ、飾らない人柄を表している部屋の中。


なのだが、今現在その場所は真逆の人間によって占拠されていた。

コマチが部屋に入った途端、その光景に静かに青筋を立てるのも致し方ないほどに。



「コマチ~、苦くない茶をください。緑茶は俺の口には合いません」

「腹減ったんだけど、なんか食うもんないか?あたし朝からなんも食ってないんだ」

「何過剰にくつろいでるんですか」



事前に来るとわかっていた仲間、ジークとアテナがくつろいでいる。

アテナは立ったまま本棚の本を眺めていたが、ジークにいたってはソファに寝ころんで長い脚を投げ出して占領中。


あまりにも予想できていなかった様相に、コマチは戸惑う。

当然だ、彼女は今日同じ専属使用人の仲間に


コマチは部屋の前を通りかかった舎弟の一人に軽食をお願いすると、戸を閉めた。

当然のように緑茶以外の茶は用意していない。



「当たりが厳しいですね。偽物王女を逃がしたのに、ずいぶん堂々としている」

「その件はあたしもメリーもちゃんと怒ったろ。ジークだって納得してたじゃねぇか」

「別に許してはいないですし、タイタニーの武器流出があってからまた雲隠れされちゃ色々考えるでしょう?」

「あの方は武器流出を止められなかったことを嘆いていたとお伝えしましたよね?次なる行動を起こすため、自分と別れたとも」

「勝手に消えて、勝手にまた現れて、これからどうするって話を半端にしかしていないのにコマチが逃がしたのにふてぶてしい。逃がした直後に会ったときはひどく落ち込んでいたでしょう?慰めたのが誰だと?」

「あたしだろ。それよりジーク、そこいい加減どけよ。あたしが座れない」

「文句が多いですねぇ。師匠に譲る思考はないんですか」

「ねぇよ。どけ」



ジークがはいはいと言いながら座りなおし、空いた隣にどっかりアテナが座り込む。

だが、ジークが放った言葉はなくなりはしない。


覚えているからだ、彼女のあの時の悲痛と希望に満ちた顔を。

ライラを再度逃がしてしまったコマチを見つけ、その場では見逃したのはこの二人なのだから。


『なんでこんなとこいるんだよコマチ』

『それに、今森に向かって消えてった赤銅髪……あなたまさか、やりました?』


ステラディアの守衛がライラ逃亡を認識した翌日の6/22。

コマチがライラと彼女の仲間を連れて逃亡したことを、メリー、アテナ、ジークは知る由もなかった。


タイタニーの武器倉庫のある港。

武器が世界中に流出したという情報を入手したヴァルカンティアスパイ班は、すぐに現地へ向かった。


そこにあったのは、タイタニー……現オールシー船団の作業員の阿鼻叫喚。


『おれたちは仕事しただけだ!』

『女が行き先変更って言ったんだよ!うそじゃねぇ!!』

『リーダーが判断下した!責任なんか知らねえ!』

『違う……そんなこと言ってない。お、覚えてないんだ。女に話しかけられたときから、その日の夜までなんも覚えてねぇんだよ信じてくれ!』


何を言っているのかわからない作業員を放置し、周囲を見て回ったら仲間のコマチがへたり込んでいるのを見かけたアテナとジークは驚いたなんてものではなかった。

しかも、去っていく人影はどう見てもライラのもの。


そしてコマチが正直に告白したことで、専属使用人4人はまたかつての主を見失ったと知った。



「でもよかったですねぇ。ルシアン王がひどく残念がっただけで許してくれて。それにしても、あの方も偽物王女好きすぎませんか?あなた達にしろエラにしろ、なんなんですか」

「ジーク、あなたエラにも会ったのですか」

「オールシー船団に勤めていますからね彼女は。事情聴取済みです、おまけにあの偽物王女が武器流出を防ごうとしてたことも聞きましたよ」

「そういうの知ってんのに、なんでまだお前はあいつを『偽物王女』って呼ぶんだよ。いいだろ前みたいにディアーナ様で」

「ちゃんと彼女が『偽物王女』って知らない人の前ではディアーナ様って呼びますよ。ディオメシアだけじゃなく、国際問題になりますし」



ライラがディアーナ王女に成り代わっていたと知るのは、メリー、アテナ、コマチ、ジーク。

あとはスラム特別保護区のディセル(シー先生)とジャックと、本物のディアーナ王女の蘇生に関与しているスラムの民たち。


ライラがあまりにも見事に偽物王女を務めてしまったせいで、ライラが偽物だったとバレるほうがリスクが高いのだ。

おかげで内密に事を運ばなくてはいけなくなったし、ルシアン王には『ディルクレウス王にバレるとまずいからここにいた事実は口外するな』とメリーがきつく注意した。



「あーあ。どこかの誰かさんが私情で逃がさなければもっと話を聞けたでしょうに」

「その件ですが、だいたいの未来事象はディアーナ様から言付かっています。その上で、自分の解釈と情報を含め今後の見通しは立っているんです」

「だってよ。ジーク残念だったな~、コマチは仕事できるんだよ」

「アテナ、あなた余裕ですねぇ。逃げられたというのに、また俺達を裏切って消えたというのに」



その時、扉がノックされて月光国の男が入ってきた。

コマチが入室前に頼んでいた、アテナのための軽食を届けに来たのだ。


皿の上には、米を三角に握った食べ物……オムスビが6つ鎮座していた。


少し殺伐とした空気だったが、食べ物を見た直後アテナはおおっ!と明るい声を上げる。

アテナは昔から、おいしそうなものに弱いのだ。

特に、信頼できて強い仲間がいるこの場所は、油断して飯を食べてもいいのだから。



「別に、心配してねーよ。だって、あいつちゃんとあたしらに『助けて』って言ったしな」



そう言うと、ガブッと豪快にかぶりつく。

月光国の主食はコメ。

そして七年間で何度も月光国に足を運んでいたアテナは、すっかりオムスビが好きになっていた。



「うめぇ~!やっぱコメが一番うまいのは月光国だな」

「コマチ、俺の茶はないんですか」

「何であると思ったんです?」



コマチが覚悟していた仲間からの糾弾。

それは、なかった。

だが、事態は良くはなっていない。


これから先の未来を正確に、詳細に知る者は、限られているのだから。

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