224話 ワシの不幸は、今じゃない
「ボス、○○国がまたディオメシアの情報はないかって言ってきてます」
「ボス、また交渉先に物資のやり取り断られました。ひどいんですよ、どうせお前ら悪の国ディオメシアの手先だろって」
「ボス!また町が一つ襲われました。動けるやつ連れて様子見に行きます!」
2~3ヶ月でこんなに仕事が増えるとは思わなかった。
ディオメシアの地下に月光国がある以上、ある程度経済・物流で影響があったのは当たり前。
だけどよ、こんなに国民殺されてるのに、ちゃんと守らないってのはどういう了見だよディルクレウス王サマよぉ!
コマちゃんが不在でも、ワシの判断がないと回らないことが多い。
ったく、ボスってのは面倒ごとばっかりか!
「チッ、ディオメシアの情報は知らねえで通せ!交渉先は仕方ねえ、物資は食いもん関係はまだ持つから別のとこ探せ。動けるやつは銃持ってけよ!だけど殺すな、心象悪くなる」
「はい!ボス!!」
ワシがボスになってから、こんなに忙しいことはなかった。
どれだけ恨み買ってるんだあの王様。
敵対してる国なんか数えりゃキリがないし、かなり広い月光国でも受け入れられる人数に限りがある。
でも、ワシは約束したんだコマちゃんと。
『コマちゃんの力になるから、どうかワシの側で月光国を作ってくれ』
だから、コマちゃんの望み通り……いや、あの王女サマならそう望むだろうって考えるコマちゃんの願望を叶えてやる。
惚れた弱み?いくらでも言えばいい。
最高にいい女の「ディオメシアを助けたい」願いくらい叶えられなくて、何がボスだってんだ。
「落ち着きやしねぇ……あ~、コマちゃん早く戻ってこないかな」
一人でボス専用応接室にいると、余計なことばっかり考える。
頭悪いワシらしくもない。
目を閉じると、先代のボスの顔が浮かぶ。
ここが、あの人のよくいた場所だからか。
恰幅が良くて、ほとんど外国に行ってて幹部に丸投げしてたオッサン。
ワシとコマちゃんを小さい時から知ってる、倫理観終わってたあいつを。
『今に不幸を呼ぶぞ!お前、ここまで幹部に取り立ててやったというのに裏切りおって!』
『安心しろよ。あんたがご存じの通り、ワシはコマちゃんと並び立てる逸材なんだから』
『くだらない。コマチにそこまで執着するなど、碌なボスにならないぞ』
『言ってろ。ワシはそれでも裏カジノって日陰者だったこの国を、光の中の月光国にしてやる』
七年前にコマちゃんが戻って来てくれた日、ワシは嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
あの王女サマがディオメシアを追い出された結果のことだとしても、彼女がそばにいるならいいと思えた。
だから、コマちゃんが戻ることとか、ワシが多くの舎弟から支持を得て勝手に『月光国』を成立させたことに怒ってた当時のボスを消した。
「不幸、っていうのはまさに今か?」
口に出してみたけれど、それは無意味だった。
だって、本当に不幸なら、ワシはもっと心が冷たいはずだ。
今が一番、温かくて充実してて、生きている気がする。
誰かを仕事で殴り殺すより、生き伸びるために誰かを騙た時より、幸せだったコマちゃんとの幼少期より。
今が一番、熱い。
例え、耳にワシにしか聞こえてない軋みがあったとしても。
ピシピシ、ギシッ、ゴゴゴ。
誰に「何の音だ」って聞いても、みんな聞こえないっていうその音。
立ち上がって、適当な壁に耳を当てれば、その音はさらに大きくなる。
月光国は、不思議な力で地下に存在してる。
どう作ってるのかわからないほど広くて、他国近くまで続くトンネルの道があって、多くの月光国民が暮らせる構造はアリの巣みたいだ。
適当に拳銃を構え、壁に向かって撃つ。
ガン!!
って派手な音がして、穴が開く。
すぐにじわじわ虫が這う見てぇに壁が塞がるけどな。
「だよな。やっぱり、月光国は『生きている』んだよな」
月光国の壁も部屋も、いくら壊れてもなんでかすぐに修復する。
それは『魔法』だ。それを何の疑いもなく受け入れていた。
だが、ここに来て理解した。
「嫌な予感がするな」
コマちゃんがなんだか覚悟決まった顔で帰ってきた日から、ずっとだ。
武器が世界にバラまかれるし、コマちゃんはやってきた他の専属使用人たちになんか言われた見てぇだし、そのくせワシに何も言ってくれない。
『専属使用人の自分たちの秘密なので』
どうせ、コマちゃんがワシのものになってくれないことも分かってた。
いつか、ディアーナ王女サマが戻ってきたらまた消えるってことも分かってた。
でも、ワシが約束を守っている間は、そばにいるってことも予想できてた。
彼女は、義理堅い。
それをわかってて約束もちかけるワシは、悪い男だな。
その時、扉を叩く音が聞こえた。
入室許可を出すと、舎弟の一人が入ってきた。
確か、月光国の門番だ。
「ボス、すみません。お時間いいですか」
「なんだ。今は何も予定なかっただろ」
「あの、いきなりのお客様です。コマチさんはやめた方がいい感じの」
「あぁ?誰だ」
ワシと目も合わせない。
でも、何か言いたいですって感じにチラチラ見やがる。
やめろよ、ワシ別に怒らないって……ムカついてるときは一発入れるけどさ。
「……うです」
「聞こえない、デカい声で言わないと喉穴開けるぞ」
「っ…!ディルクレウス王!です!!」
「は?」
「さっき町の救援に行った奴らからの伝言です!『ボスと話がしたい。紫晶草の地で待つ』って」
「本人がか?なんでそんなこと」
「わかりません!!ですが、人質や脅迫もないとのこと!!」
舎弟は声張り上げて、聞き間違いできないくらいのとんでもない言葉を言いやがった。
嘘だろ、何してんだよこの国の中心だぞ?
そんな奴が、ワシを呼び出してる。
紫晶草の地というと、トモエの領地だ。
去年安定生産ができるようになった紫晶草の畑。
アブナイ薬もつくれる草だから反発もあると思って隠してた場所。
それ以上に、ワシの舎弟の領地であって、王様には不利な土地だろ。
(何のために、そんなことは考えても無駄だ)
「わかった。今すぐ行く、動けるやつ10人くらいにも声かけとけ」
大物が、わざわざワシに何の話がある。
でも、これはチャンスだ。
この状況を、少しでも打破できるきっかけになるかもしれない。
「ただの話し合いで終わるといいけどな」




