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222話 6/22より数か月後の世界 ~終章後編 物語と現実の終わり編~

季節は巡る。


6/22を超え、暑い季節を超え、肌寒い空気がディオメシアを包み込む秋。


世界の状況は、悪化の一途をたどっていた。



ディオメシア国内。


かつて様々な店が軒を連ね、食料品や工芸品、日用品を売っていた市場には人通りがほとんどない。

賑わいを作っていた国民ではなく、片手に銃身の長いライフルを携えた男が何かを探すように悠々と歩き回る。

物々しい男たちはディオメシア軍のものでない軍服に身を包み、無感動な目できょろきょろと陳列されたままの果物などを勝手に懐に入れていく始末。


ここは七年ほど前、ディアーナ王女がやってきた街の一つ。

活気に満ち溢れ、ディアーナ王女に向かって手を振り声をかけていた民の姿はどこにも見えない。

石造りの家の中に人の気配はあるものの、皆が息を殺して生活していた。


その家の中の一つ。

家のあちこちに傷があり、微かに血痕の跳ねた後の目立つ貧しい室内で二人の少年が窓の外を見ていた。

10代半ばの少年が幼い弟を抑えるように抱きしめ、何かを警戒していた。


「兄ちゃん、おなかすいたよ」

「シッ!声出すなよ。今日はこの辺によそ者軍が来てるって話だ」

「またなの?ぼく、怖い……ママ、パパどこ…」

「泣くな!もういないんだ、ちゃんとわかってくれよ」

「ふっ、ううっ……兄ちゃんが怖いぃ~!」

「バカ!そんな声出したら」



ドン!ドン!!


瞬時に兄は弟の口に自らの手を押し付けた。

だが、そんなことをしなくても弟は自分の唇を噛みしめている。


戸を叩く何者かが、自分たちを無感動に殺せるやつらだとわかっているから。



「お~い、子供の声が聞こえたぞぉ?いるんだろディオメシア人!!」

「ここって前にやっつけた家じゃねぇか?子どもなんかいたっけか」

「どうでもいいだろ。俺達の国をずっと子分みたいにした国の人間なんか」

「それもそうだな。じゃ、蹴破ろう」



外で交わされる命を消すやり取り。

あまりに軽くて、自分たちにはどうにもならない恨みを向けられて、だがしかしこの家に武器と呼べるものは何もない。


もうおしまいだ。

兄弟は最期を覚悟した………



「おい、ここで何してやがる」

「女?…お前一人か?ディオメシア人じゃ、ないな?」

「どこの部隊だ。見たことない軍服着てるが、新しく属国衆の同盟に加わったのか」

「オレは気が短いんだよ、面倒だからさっさとこの国から出てけ。あんまりこの街汚したくねーんだ、3秒以内で頼む」

「なんだ女、殺されたいか?おい、コイツ拠点に連れていこうぜ」

「おい、こいつ女にしては声が低い…」



この家にやって来た属国軍たちの男の声に交じって、それとは違う何者かの声。

兄弟は、状況が呑み込めずにただ家の中で固まることしかできなかった。


だが、次の瞬間耳を疑う音が扉の外で炸裂する。



「さっきから聞いてりゃ誰が女だ!」



バキッ!ガンっ!!

ザッザッ、グシャっ

暴力的で、体が鈍く破壊される音がしていた。

銃弾でもなく、金属の当たる音もせず、拳が体にめり込む打撃だけが場を支配する。


何が行われているか、兄弟は知らない。

扉に敵が吐いた血が飛び散っていようが、口の中を狙って拳を入れるように痛めつけようが。



「オレは!男だ世間知らずの害獣が!!オレの存在知らないくせにこの街で好き勝手してんじゃねぇぞ!」

「コイツ素手っ、撃て!撃てよ!」

「やめっ、ごほっ!にげ、にげろ!!」

「オレに敵うかよバカが!!ミクサの兄貴の一番舎弟だぞこっちはよぉ!」



兄弟は目を輝かせた。

今外で野蛮な音を上げている低い声の主を知っているからだ。


バタバタと敵が逃げていく足音の後、兄弟のいる家の戸が3回ノックされる。

もう兄弟の緊張は解けていて、へたり込む兄と対照的に弟は駆けだすと扉を開けた。



「トモエ!兄ちゃんトモエだよ!助けてくれたんだ!」

「トモエ様だろ!?ったく、オレこの辺の領主になってから何年も経つんだぞ」

「ねぇねぇ、シズさんは?あと、怖い人たちもう来ない?」

「なんでオレは呼び捨てなのにシズはさん付け?……あいつは月光国からの増援を引きつれて来てる。もうすぐこの辺に来る」



抱き着いてくる子供を受け止める姿。

それは、ポケットが多くつけられた黒基調の服、月光国を象徴する月の意匠の刺繍が付いたもの。

黒髪が美しい、美人と呼ぶに差し支えない中性的な男。


それは、かつてライラが成り代わっていたディアーナ王女に貴族位を与えられたトモエだった。

ここは、数年の月日が経ってトモエの領地になった街だったのだ。



「さ、兄ちゃんと広場に行け。黒髪の月光国のやつがいるから、そいつから離れずに地下に避難しろよ」

「月光国に連れてってくれるの!?ずっとダメって言ってたのに!やった、地下の国!」

「もう戦いが激しくなってきやがったし、仕方なくだ!ミクサの兄貴に感謝しろよ」

「うん!兄ちゃん広場に行こ!」



元気になった弟は、家の中にいる兄の手を引いてさっさと駆け出していく。

話は聞こえていたのだろう、さっきまで弟を守っていた兄は、走る最中に後ろを振り返り会釈をした。


それをトモエは手を振って見送った。

そして振り向くと、そこにいた人物に笑いかける。


トモエと同じ服に身を包み、長い黒髪をお団子にまとめた目元のキツイ美人がそこにいた。

トモエの胸くらいに頭がかかる小柄な女性。

現れるなり、彼女はため息をつく。



「トモエの兄ちゃん、また勝手に動いたね。あ、手に血ついてる」

「シズ、ごめんな探しに来てくれたのか。ごめん、すぐ兄貴たちのところ行くから」

「無事だったからいいよ。でも、どうして手怪我してるの?拳銃持ってたならそれで応戦すればいいのに」

「あの兄弟の両親は銃で死んでるんだよ、発砲音聞かせられねぇよ」

「もう、トモエの兄ちゃんそれだから舐められてるんだよ」

「なんで!?オレまずいことしたかよ」

「シズはわかってるから、トモエの兄ちゃんはそのままでいいよ」



シズはいたずらっぽく笑うと、先を歩いていく。

腑に落ちないトモエも、その後に続いていく。


そして二人は、石造りの壁に体を埋めた。

月光国の人間だけが使うことのできる、月光国へと続く魔法の道へ入るために。


ここは多くの属国を抱える大国ディオメシア。

今は多くの国から殺意を向けられる、欠けだらけの国ディオメシア。


寒さの気配がし始めた季節の中で、国民は暴力に泣いていた。


それを引き起こす勢力、抑止する勢力、崩壊させる勢力、守る勢力。

この国を舞台に引き起こされる滅亡劇の役者は揃いつつあった。


謎の『軍勢』を除いて。

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