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221話 事は起こった。私は暗躍する。スラムから、未来へ

情報というものの重要性を、本当の意味で知ったのはいつか。

間違いなく、1周目の記憶を謎の女に植え付けられた時だった。


もちろん、はじめから未来を受け入れられるわけもなかった。

だから、未来を知ったうえで最悪な事態を回避できないかと行動を変えたりもした。


だが、起こる事実は大きく一周目と変わらない結果になってしまった。

王宮とは似つかぬ粗末なあばら家で、粗末な服に身を包んで。

スラムの賢人として、私はここで最善を尽くすしかなくなった。


そして今。

私のもとに転がるように入ってきたジャックの姿を見て、予想が立っている。

そして思ってしまう。

『未来は変えられないのか?』という可能性を。



「シー先生!聞いてくれ、町で噂になってるんだ。武器がタイタニーの倉庫から世界中に広がったって!まずいよ、このままだと本当に戦争が始まっちまう!」

「やはり『そう』なりましたか」

「まさか、先生こうなるって知ってたのか」

「はい。ですがライラも動いてくれていたので、確実に起こる予想はしていませんでしたよ」



七年前、聡いあの子をうまくこちら側につけることができたのはほとんど奇跡だった。

子供らしくないほどに賢すぎる彼女を、私の指示通りに七年間も動かせたのは信頼だろうか?


いいや、私が未来をどのように知ったのか、自らも未来を知っていることを開示しないで得たものを信頼と呼んでいいものかどうか。

だが、別段それに罪悪感はない。

どうせ、ライラも私に言っていないことはあるはずだ。

未来を知った経緯、だとか。


それぞれを利用しつつ、望む結果を手繰り寄せるだけの協力関係。

これも私の『王家を潰す』という目的のため。



「先生はいつもそうだ、王家の祝福については教えてくれたのに、その他は教えてくれない」

「あなたが考えるべきではないことですよ」

「俺はもう大人だ!自分の不始末ももうできる。俺は、まだ先生の中でガキなのか」

「いいえ。充分大きくなった、そうでなければ革命軍のリーダーなど任せません」

「じゃあ教えろよ。あんた、ライラと何しようとしてる」



ジャックは、大きくなった。

もう私に縋りついて泣く子供ではない。

私より背丈も体格も大きく、実に凛々しい青年になった。


一周目と同じ、周囲の人間を鼓舞して突き進んでいくカリスマ性のある大人だ。

彼は、この先の戦争で多くの人員を率いてディオメシアの滅亡を達成した立役者の一人となる。

それはきっと変わらないだろう。


(彼の振る舞いで、未来はどれくらい変わるだろうか)


話すべきか。黙すべきか。

この先の未来を彼が知って悲観されては困る。

だが、ここで彼の不信を買って戦争時にこちらの指示を無視されるともっと困る。



「わかったよ。では簡単に話そうか」

「簡単にかよ」

「君はライラがこのスラムを出た後のことはよく知っているだろう?だから、君が知らないだろう事柄の整理だけだ」



いつも子供たちに字を教える時使う木の棒で地面に図を書いていく。

スラムで紙は貴重だ。床は地面なのはいいな、何度かいても消せる。


『魔法(王家の祝福・月光国の地下都市・スラムの不可侵青洞窟)』

『ライラの成り代わり』


ジャックは訳が分からないだろう。

この二つが、一周目の未来と比較した時に『二周目にしか存在しない事柄』だということを。



「まず前提として、私とライラにはこの先の未来が見えている。そして、お互いに利用しあっているのが現状だ」

「な、なんだよそんな重要なこと……俺には一言も」

「簡潔にいえば、この二つはこれから起こる最悪な未来に関係していると思しきものだよ」



彼の話に答えていたら何時間あっても足りない。

それに、全貌を話すわけではないのだから大まかでいい。


私だってどうしてこの魔法が生まれたのか、ライラの成り代わりはどうして『見逃されている』のか説明ができないのだから。



「まず、ディオメシアは3つの魔法がある。そしてそのおかげでこの国は潰えることなく繫栄してきた」

「なんで?」

「そしてライラの成り代わりによって、一周目では解決できなかった様々な政治問題を解決した。だが、それによってディルクレウス王に追われることとなった」

「先生、俺の話聞く気ないだろ」

「人の話をすべて聞いてから質問をしなさいジャック。こちらはわかりやすく話しているんだから」



サッと地面の文字を手で消す。

続いて地面に記すのは、ここから先の作戦であり未来。

ジャックに働いてもらう、重要な戦いについて。


『革命軍』『属州軍』そして『軍勢』

少し離したところに『ディオメシア軍』


今おそらくこうなると仮定している未来。



「では未来の話をしよう。これから起こる戦いについて」

「お、うん……戦いって、本当に起こるのか」

「起きる。そして、君は大群を率いてディオメシア軍にぶつかる」

「お、俺が!?」

「属州軍は正直大きな勢力ではないので無視していいよ」



一周目ではソルディア、ステラディア、そしてヴァルカンティアが烏合の衆ながらもディオメシアを滅ぼそうとしていた。

だが、ライラが思いのほか王女としてうまく立ち回りすぎてそれは実現しないだろう。


そのための『軍勢』だ。


この軍勢力が使われないよう、戦いを起こさないために武器の確保を進めていた。

だが、一周目と形は違えどタイタニーの持つ大量の武器は世界中に流れた。

きっと私も遭ったことのある『謎の女』の仕業だろう。

時期的にも、間違っていない。


そろそろライラも気づくはずだ。

何者かが、こちらが緻密に立てた計画を一瞬で台無しにしていることに。



「ここから、武器を多く持った属国軍がディオメシアにちょっかいを出す。私達は、来るべき時まではこれまで通り国民を守ればいい」

「説明端折りすぎだ先生。俺わかんないところいっぱいで」

「私もだ。奇遇だね」

「絶対嘘だ」

「大人とはそういうものだよ。ともかく、私が軍師として出す指示に従っていればいい。大丈夫、しっかり話すべき時には話すさ」

「まだ説明してないことばっかりだ!どうして先生は王の兄なのに止められねえ!?俺達は死んだディアーナ王女を洞窟に隠して守った!?それに『軍勢』ってなんだ!?スラムのみんなも知らないっていうし、知らないことばっかりで」



かなり駆け足な説明になってしまったし、多くの情報を詰め込んだのだから疑問はもっともだ。

でも、ジャックはライラのように多くの物事を抱えられる子ではない。

現に、すべてを私から聞けると思っている時点でまだ『甘い』。

彼自身に関係のあることだけでいいだろう。


余計に多くの情報を与えて、こちらの制御が聞かない状態になるのはもっと思わしくない。

状況を好転させる『混沌』であればいいが、悪化させる『暴走』は必要ない。


ため息が出てしまう。

なぜなに?と聞いてくる姿は、私に教えを乞う幼子と変わらないのだから。



「君が今知らなくていいことだ。知ろうとするな、時が来るまで」



未来は変えたいが、既定と外れた行動をされると困る。

これは未来に手をかけたものの葛藤。



(私の人生二周分と、ライラのこれまでの人生をかけた。どこまで目的に手が届くだろうか)



ジャックはいつの間にかいなくなっていた。

だが、それもどうでもいい。


決戦の時は近い。

一周目とは間違いなく違う戦になるだろう。


どんなに血が流れようが、ジャックを操ろうが、ライラと敵対するだろうが構わない。

すべては、王族を潰すために。


それが、ここまで私が生きた理由なのだから。

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