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220話 数時間前の倉庫で、小さく戦の火が点いた

「おーい!今日の開錠まだだぞー!」

「とっくに昼回ってんだ!さっさと倉庫開けてくれよ」

「もしかしてボスが死んだから今日の仕事は休みになったのかな」

「バカ野郎!ボスが死んだからってタイタニ―が止まったら世界中に大迷惑だろうが。休みなんかあり得ねえ」

「ハハッ。この13番倉庫はほぼ売り物じゃねえんだから、止まったって支障ないだろ」

「新しいボスから何か聞いてないか?おい!リーダーどこ行った」

「そうだリーダー!鍵もあいつが持ってるだろ、誰か呼んで来い!」

「リーダーが遅れるなんて、何があったんだ?」



海に面している大きなレンガ造りの倉庫の前に、数十人の男たちが集まっている。

全員屈強な男たちで、皆『タイタニ―』と刺繍されている同じバンダナを巻いていた。


ここはタイタニ―社第13番倉庫。

海に面しているこのレンガ造りの建物内は、少々危険な物品が収められている重要な倉庫。

ナイフや火薬、銃火器に砲弾、その他にも月光国謹製の薬品や、ヴァルカンティア特産の異常な強度を誇る布といった製品がぎっしり詰まっている。


扱っているものがものなので、休憩の度に鍵がかけられて見張り番もついている厳重さ。

よって、昼休憩を終えた男たちは仕事再開のために鍵が開けられるのを今か今かと待っているのだ。


時刻は12時すぎ。

いつもならとっくに作業再開している時間だというのに、鍵を持つリーダーが現われやしない。

男たちをまとめるリーダーは、実に几帳面で規律正しい。

事態の異常さを、皆が感じ取っていた。



「今日って何だったかな」

「確か、本格的に新しいボスの命令で仕事始まるんだよな」

「じゃあ、その指示受けてんのか?」

「遅いねぇ。先が思いやられるぜ」

「13倉庫で働いてると暇でしょうがねえ。もっとやりがいのある仕事振ってくれねぇかな」

「買い手はたくさんいるってのに、前のボスは売り惜しんでたしな。もっと仕事して稼がせてくれる新ボスに期待してるぜ?」

「おい、そんなこと言うなよ。武器が売れるってことは、どっかで争いが起きるってことだぞ」

「心配し過ぎだぜ?もしあったとしても、俺らには関係ないって」



男たちは、勝手気ままに話し出す。

長らく、この13番倉庫は暇で有名な倉庫だったのだ。

ここに配属されるのは左遷とまで言われていた。


そんなだらけてきた空気の中、息を切らせて一人の男が走ってくる。

集まった男たちに負けず劣らず、膨らんだ筋肉に焼けた肌の大男。

一枚の紙を持って現れた彼を、皆が「リーダー!」と迎えた。



「遅かったな。どうしたんだそんな慌てて」

「おい、お前ら重要な仕事入ったぞ。忙しくなるから徹夜は覚悟しろ」

「あ?いきなり来てどうした」

「これ!新しいボスから直々の仕事だよ、しかも最大級のヤマだ!」



リーダーが掲げた紙には、ハッキリとボス……新しく就任したオールシー船団船長のサインがあった。

通常幹部等を通して伝達される仕事が、まさかの組織トップから直々に言い渡される。


この状況を理解した男たちは湧いた。

ボスから直々の命令、ということはこの仕事を全うできれば出世だ。



「何の仕事だ?早く取り掛かろうぜ!」

「おう!仕事は『13番倉庫の物をすべて移動させる』ってもんだ」

「いきなりだな!?どんだけ量あると思ってんだ」

「しかも、極秘に済ませろってお達しだ。どーも怪しいが、やるしかあるめえ」

「で?どこに持っていけばいいんだ」

「目的地はソルディア近くの」

「それは変更になった」



突然、異質な声が割り込んできた。

男だらけのこの場所にあって、するはずのない高い声。

紛れもなく、女の声だった。


そして音もなく、リーダーの後ろにボロ布で全身を覆った人間が現れる。

ふわりと海風でなびくボロ布の中は見えない。

顔も口元しか見ることができないが、声といい、喉仏の見えないするりとした喉といい、何より雰囲気的に女だということは誰もがわかっていた。



「ボスから変更を言付かった。ソルディアではなく、ディオメシアとその属国に分配するよう移動させろとのこと」

「おい、お嬢さんが入ってきていい場所じゃないぞ。ここは危ないし、何よりお前さんは誰だ」

「質問は受け付けない。これは新ボスからの命令」

「ちょっと待て、それは聞いてな……」



近くに立っていたリーダーが、ボロ布の女の前に正面から立つ。

いきなりやってきた見知らぬ女、しかも輸送場所の変更という重要事項の伝達をするなど不審でしかない。


だが、リーダーは女と目を合わせた瞬間黙ってしまった。

男たちが見ているのは、リーダーの背中だけ。

誰も、女と目を合わせた彼の顔を見ていなかった。



「『私の言うことは正しい』」

「……はい」

「『私の言うことに従え』」

「……はい」

「ソルディアではなく、別の港に武器を輸送する事。返事は?」

「……はい、わかりました」



小さな声だった。

他の人間には聞こえていない会話。

ボロ布の女に従順になったリーダーの顔は、とても虚ろだった。

自分より背丈も体格も小さな女性相手に、無条件でリーダーは頷いたのだ。

それがどんなにおかしなことだとわかっていたとしても。


くるりと男たちのほうを向いたリーダーの顔は、さっきまでの虚ろな表情ではない。

活力に満ちた、男たちのよく知るリーダーであった。



「みんな!どうやら輸送地を間違えてたみたいだ!この人の言うようにしてくれ~!」

「ええっ!?本当ですか」

「ごめんな!じゃあ早く取り掛かろう!」

「リーダー、おかしくないか?あんな奴の言うこと信じるのか」

「あの人は正しいことを伝えてくれただけだ。さ、やろうか!」



リーダーの一声で、少々疑問を抱きながら男たちは作業を始めた。

武器を一つ一つ、丁寧に木箱に入れる。

間違いがないように、慎重に運ぶ。

輸送手段は船。何人もの人員が、世界に武器を輸送した。


戦争を起こさないように、オールシー船団船長とライラの間で結ばれた武器譲渡の契約は失敗。

ある一人の人間によって改変され、戦争をしたい国たちは武力を持ったのだ。


6/21のことだった。

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