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219話 自分が後悔しない選択を

本当に、よく似ていらっしゃる。

スラムの洞窟で見た眠る女性、本物だといわれたディアーナ王女と。

顔立ちは瓜二つ、背格好も同じくらい。少し目の前のディアーナ様のほうが肉付きがいいだろうか。


そして何より、赤銅色の髪。

恩人であるアンナ王妃と同じ髪。

ここまで似ているというのに、この方は王族ではないという。


幼き頃からディオメシアの未来を知り、滅亡を起こさないようにと多方面に布石を打ち、国民に親しまれ、現在も望まれているのはこの方なのに。


(いっそ、本物なんて蘇らなければこの方は本物の王女になれるのではないか?)


国民を騙し、王宮内の人間を全員騙し、政務を行ってきた方。

であれば、彼女は『ディアーナ様』だ。

誰が何といおうと。本当の名前がライラという、似ても似つかぬものであっても。


手を握り返すと、そこには暖かな体温がある。

自分の力を借りたいと懇願する、使命に満ちた人間の意志の強いまなざしがある!

こんなに名誉なことはない。

敬愛する方に、望まれている以上のものはない!



「わかりました。すべてはディアーナ様の御心のままに」

「ありがとうコマチ!だけれど、どうやって逃げ出しましょうか。ドアは3重で鍵付き、窓は鉄格子がはまっているし、ドアの外には兵士が立っているのよ」

「問題ありません。アテナやジークのバカのようにはいきませんが、月光国には月光国のやり方があります」

「コマチって息をするようにジークを罵倒するわよね」

「気のせいですディアーナ様」



懐から取り出すのは薬の瓶を3つ。

それぞれ種類が違うもので、普段から護身用として持ち歩いているものの一つだ。

中身はすべて粘度の高い液体、言うまでもなく危険物。


鉄格子の窓に触れる。

どうやら一般に流通している鉄格子らしい。

主に使われているのが鉄と見た。


鉄格子から外を見れば、この部屋の隣、またその隣にも出窓がある構造になっている。

それに、ここは地上から3階の高さ。

万が一落ちても、ディアーナ様を庇って自分は受け身をとれるだろう。


勝算は、ある。



「ディアーナ様、王宮に居たころにジークから受けた訓練は覚えておいでですか。特に不安定な場所を走る訓練と、受け身をとる訓練を」

「今でも自信があるし、あの頃よりうまいつもりよ」

「お仲間の所在地はわかりますか?」

「同じ階にいると思うわ。メリーがそう言っていたもの」

「では、20秒後に鉄格子を壊します。ご準備を」

「20秒後!?そんなに急に」

「ディアーナ様、今が何月何日かご存じですか」

「わ、わからないわ。時計も暦表もこの部屋にはなかったから」



無理もない。

ずっと変わらない風景と暦表も時計もない空間では、感覚が狂うばかり。

この環境を用意したメリーには何の落ち度もない。

部屋をディアーナ様が過ごしやすいように整えただけで、上出来だ。

暦表も時計も高価なもの。すぐに用意できるはずないのだから。



「『6月21日』です。しかももう日は落ちたので、邪魔者が動き出すだろう時間は近い」

「そんな…!すぐに出発しましょう。わたくしはいつでも出られるわ」

「お荷物等はよろしいですか」

「いつでも身一つで動けるようにしているのよ。この七年間でね」

「それは、頼もしいです」



そのような環境にあなた様がいなければならなかった現実が、とても残念でなりませんが。


行動は迅速に。

今ならルシアン王の外出で少々バタついているだろうステラディア城内。

静かになってしまう前に、行動を起こすのは今すぐが最適。


手元の3つの瓶の蓋を、一斉に開ける。

ディアーナ様を窓から離れさせ、すぐに瓶の中身すべてを一つに合わせた。

たちどころに泡を吹きだす液体。

ジュワッという音と共に発生するのは、鼻に刺すような痛みを伴う刺激臭。


そのまま格子の網目に添わせるよう、ゆっくりと混合液を鉄格子にかけていく。

瞬時に鉄は黒ずみ、錆びていく。

反応が終わった部分に触れれば、いとも簡単に鉄格子は腐食して砕けた。



「くっ!この匂い、何なのコマチ」

「月光国謹製の特別溶解液です。窓から隣の出窓へ飛び移ってお仲間を救出、その後ステラディアを脱出しましょう」

「早いのよ展開が!」

「では参ります」



ディアーナ様の手を引き、窓枠に足をかける。


風の心地よい、穏やかな夜がそこにはあった。

自然豊かなステラディアの夜は、緑の香りと美しい星が輝いている。

まるで何にも縛られない、すがすがしい空気。


(ステラディアから自分は賊扱いされそうですね。ディアーナ様を逃がしてしまったのだから)


今日、はっきりわかってしまった。

アンナ王妃の娘であるディアーナ王女に仕えたかったのではない。

この方自身の力になりたいと。


この方の、自分にとってのディアーナ様の障害はすべて取り除かなければ。

例え、それが味方であるメリーの用意した安全な檻の中から出すことだとしても。

全ては、この方の生きた先を見るために。



「ディアーナ様、自分の手を離しませんよう」

「離さないわよ、当然じゃない」

「……はい。恐悦至極にございます」



自分は夜の中、自らの光となる方の手を握り、不安定な中を歩きだした。

この選択を、後悔する日は来ないだろう。

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