218話 私の知らなかった秘密、生まれる規則性
思い出すのは、万全で臨んだのに回避できなかったアンナの死。
原作に関与しない人間を動かして、明確に原作改変をしようとした初めての経験。
ちゃんと手は打っていた。
それなのに、日付が変わる前に何者かに毒殺されるという原作にはない死に方をした。
その時私は改変創作あるあるにぶち当たったんだと思っていた。
『物語を決められたレールから外そうとすると、修正力を受ける』
物語が溢れかえった私の生きていた日本は、歴史を変えようとしたり、物語を改変しようとするSFがあった。
その中のネタの一つに、私が考えたような修正力が登場する。
だからぼんやり……そう、何となくでしか考えていなかった。
『本当に修正力はあるんだな』って。
それからの私の活動は、頭のどこかで修正力を意識せずにはいられないもの。
「コマチ、あなた何の確信があってそれを言うの」
「これはただの推測です。ディアーナ様がおっしゃった、予見できなかったものを参考に考えたときにどうしても規則性が見えたので」
「規則性?」
「はい。といっても、この考えが自分でも納得できていないので話半分に聞いてください」
コマチは、私が5人でいたときに使った紙とインクと羽ペンを使って文字を書く。
淡々と、無感動に。
紙の上には『アンナ王妃死亡』『エラの王宮入り』そしてもう一つ『ディアーナ王女のディオメシア追放』
そして、その二つの上に日付を書く。
12/22、6/22、12/24
それは、それらが起こった日付だった。
本物のディアーナ王女の誕生日、そしてライラとして生まれた私の誕生日、そしてクリスマスイブ。
何があるっていうの?
「ディアーナ様の中での異変を抜き出すと、それらはすべてこの日付に起こっています」
「そうね、それが何か?」
「それに、ここ七年でのディオメシア国内で発布された『対軍事法案』……ディオメシアが何者かの侵攻を受けた際に国民を動員する法律の段階的な発布日を合わせます」
そんなのあったのか。
いや、あったな。
ディオメシア滅亡の時、国民はほぼ全員兵士として動員された。
一気に全員徴兵は現実的じゃない。
少しずつ徴兵される年齢や職業を分けて集められるだろう、それはわかる。
でもその発布日に何の関係が……
12/23、6/24、12/26、6/25……
「あっ…これって」
「お気づきになりましたか。そう、どれも偏っているんです。すべて12/22と6/22以降、5日以内に事は起こっている。偶然とは思えません」
今のディオメシアはディルクレウス王の独裁政治のようなもの。
法律の発布は比較的すぐにできる時勢だったはず。
徴兵令も原作で作ったような…だけど、ここまできっちり半年離してやってない気がする。
結果として「後に起こるディオメシアを守るために国民が徐々に動員される」ことは変わらない。
だけど、この時期の偏りと原作より前倒しの出来事の発生。
間違いない、エラの時を思い出す。
「コマチ、あなたは未来を知っているものが意図的に邪魔してるって言ったわね。それとこの日付……もしかして、その何者かは12/22の周辺と6/22の周辺で『未来をわかっていてかき乱すような』行動をとっている?」
「それが一番可能性が高いかと。自分も、ディアーナ様が未来を知っているという話をされるまで思い至りませんでした」
「もしかして、もしかしてよ?その『何者か』って……」
コマチを見る。
だって、今まさに私と同じことを考えてる可能性があったから。
紙を見ながら、指を滑らせる。
予想通りなら、その人物こそ
「おそらく、スラムに君臨しているディセルかと。現状、ディアーナ様が自覚されているように未来を知っているだろう人物は彼しかいません」
「でも、おかしいわ。シー先生はどうしてそんな日付を指定して行動を起こすの?もっと適切な時期はあるはずなのに、わざわざその二日間にしなくてもいいじゃない」
「それが解せないのです。12/22が本物のディアーナ王女の誕生日だということはわかりますが、6/22は何の日でしょうか」
首をひねるコマチを前にして言葉が詰まる。
だって、これを言って何になる?ってどうしても思ってしまう。
喉が渇いた。
冷たい紅茶は渋いばっかりでおいしくない。
だけど、何もないよりマシだった。
あまりに、それを狙ってるんだとしたらすっごく悪趣味だから。
コマチが知らないのも無理ない。
だってスラムの、私のそばにいた大人しか知らないことだったから。
「誕生日、なの」
「ディアーナ様…?」
「わたくしの、わたくしがライラとしてこの世界に生を受けた誕生日が6/22。シー先生は、まさか成り代わった私と本物のディアーナの誕生日を狙ってた可能性があるわ」
それに気が付いてしまったら、もうここにはいられない。
だって、シー先生が次何をしてくるのか手に取るようにわかる。
時期的に、そろそろディオメシアを滅ぼそうとする勢力が激化する。
私が落ち着かせようとした戦況を、変えに来るに決まってる!
コマチの手を両手で握った。
卑怯なのはわかってる、でも、私は弱いから。
できないことが、転生者のくせに多いから。
だから、頼らなきゃいけない。
ここで、ステラディアに捕らわれたままじゃ後手に回る!
「お願いコマチ、わたくしをここから連れ出してちょうだい」
「ディアーナ様、一体何をおっしゃるんです。ここにいればディアーナ様は安全です、指示を出してくだされば自分達専属使用人が手となり足となり」
「それでは足りないのよ!」
今の私は、本来何の力からも持たない孤児だ。
たった三年の付き合いの、私が成り代わっていたことで騙してしまった専属使用人のみんなが今も私の力になる理由なんかない。
だから、交渉にもならない『お願い』だ。
情に付け込んだ、最悪なものだ。
「お願い。責任はすべてわたくしがとる、願いを叶えてちょうだい」




