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215話 私にスライドしたポジション

ディアーナに成り代わる前も、成り代わってからも、私は自分なりにどうにか生きてきた。

原作改変とそれに伴う未来の予測。

不遇な人や、苦しまなくてもいい国民のために政治にまで介入。

怖い交渉も、なじられる視察も、胃が痛くなりそうな主要人物との交流も、命かかってたこれまでの作戦も。


(ありえただろうIFルートも、いくつも潰してきた自覚はある)


全ては自分で書いたドロドロ小説の中で生きようと必死にもがいた結果ですけど!?

自分が好き勝手に書いた、救いないほどの小説世界に転生すると思う?

自分でも書いてる当時から「最悪な世界すぎる生存無理すぎ」って考えてたよ!


でも転生しちゃったんだから、自分が幸せに生きられるように奔走することの何が悪い!

アンナは救えなかったけど、その他は原作から結構乖離して幸せルートたどってたんだぞ!


……と、言ったところでどうにもなるわけもないから言わないけどさ?


だけど、これはさすがにどうしよう。

内心、とんでもなく焦ってる。


ルシアンは、今、私に求婚してる。

これは間違いなく、原作乖離だ。

しかも、このワードセンスがマズイ。


心を鬼にして、私は何とか言葉をひねり出す。



「ルシアン王。それは受けられません」

「どうしてですか?やはりボクでは不足でしょうか……やはり、ディオメシアには、レオンには、勝てないからですか?」



ここまで!!どうして同じことを言うのか!!

今、私の焦る理由をわかる人はいない。

これは確実。


なぜなら、このルシアンの求婚を受けるポジションだったのは、ディアーナ王女じゃないからだ。


原作では、七年前ディルクレウスの後妻として内定してたエラをめぐってレオンとルシアンは水面下で争いになる。

その結果、レオンはディルクレウスに取り入って、ディオメシアにに残ることを選ぶ。

ルシアンは兄弟国を守るため、ソルディアとステラディアを統治する王として王宮から出る。

結局、エラはディルクレウスと結婚して心が死んでいくわけだけど。


原作でのディアーナ王女?特に何もないよ。

悪役王女らしくエラをいびったり、贅沢三昧で物語をスパイシーにするために作ったキャラだからね。


(そりゃ、こうなる可能性を考えなかったわけじゃない。でも、この文言は不穏すぎる)


視線を走らせる。

誰か、特に愉快犯のジークがテキトーな言葉を吐いてくれないか期待したけど無理そうだ。

隠してるけど、アテナが自分で折ったジークの腕ぎっちぎちに握ってるの見えるもん!

「今喋ったらもっとやるぞ」て圧かけてる?かけてるよね!?



「ディアーナ王女?どうか、言ってください。どんな答えでも、ボクは受け止めますから」

「いや、そういうことではないのよ」

「では何か問題でも……」



問題しかない!!

まず私スラム出身孤児!偽物の王女です!

そんなのが一国の王と結婚してみろ、暴動しか起きない。

あと本物のディアーナ王女が生き返るフラグ立ってるってことは、私が偽物ってバレるのも時間の問題だ。


いや、それ以上に……


(原作ではこの返答をミスってステラディアがディオメシア滅亡させる勢力に加担したんだよな)


七年後、心を病みながらディオメシア王妃してたエラは偶然立ち寄ったステラディアでルシアンに思いを伝えられる。

さっき、私が受けたような言葉で。


そしてエラはこう返したんだ。

『わたしは、あなたとは生きられない。わたしの一生はとっくに、自分のものではないの』


ほんっと、他責な振り方してくれやがって原作のエラ!

素直に「ディルクレウスを放っておけない」「生まれた子を手放したくない」「レオンにも未練がある」とか本心言って振れよ!


おかげで『エラ嬢を救うために』って参戦しちゃったんだよないいやつだけど最後まで報われないんだぞルシアン!

そうさせたのは誰?はい私!!


(ったく、作戦会議の段階で考えることが多いのにいきなり求婚ぶっこむ!?)


頼む、誰かこの空気霧散させてくれー!!


その願いが通じたのか、一人の声が静かに発される。

大きい声ではない、ただ淡々と事実を言ってくれる声。


今日、彼女の発言に何度助けられただろう。



「すみません、とっくに5分は過ぎましたがいいんですかメリー」

「こ、コマチちゃん…!今いいところなのに」

「もしや、今すぐディアーナ様からのお返事を待ってらっしゃいますか?この方はディオメシアの次期女王になる方、政治も絡む婚姻を今決められるとでも?」



コマチが、正論パンチで空気を凍らせた。

別に、本物の王女じゃないけど。

王女として認識されている以上、確かにすぐ返事なんかできるわけないって問題もあったな。


メリーがあたふたしてるし、アテナはあちゃーって天井見てるし、ジークはニヤニヤしてる。

ルシアンは……あ、下向いちゃった。


ごめんよ、絶対緊張したよねほぼプロポーズだもん。

精神年齢的にはすごく年下だから、どうしても恋愛対象には見られないけど。


でも、今は返事をするわけにいかないんだ。

焦った返事は、いつか重大な問題を起こすから。



「ルシアン王、時間が迫っているのでしょう?わたくしはすぐに返事ができない身なの。どうか、時間をいただけないかしら」



彼が私の頬に添える手に触れる。

冷たくて、ちょっと震えてる。


だけど、ごめんなさい。

私が生き抜くために、いい返事は今できそうにないよ。


私が原作者なばっかりに、こんな世界を作ってしまったばっかりに、幸せに縁遠い存在にしてしまったルシアン。

ごめんなさい、ちゃんと償いとして原作を変えてみせるから。

だからどうか、下を向かないで。


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