214話 私が大切な二人が、幸せになるのなら
ルシアン王が、入ってきちゃった。
しかも、私が何か言う前にディアーナ様のお側に行っちゃうし!
もう!ちゃんとお話が終わったらお呼びしますねって言ったのに、ルシアン王ってたまにせっかち。
まだ大事な話は終わってないし、内容聞かれてないよね?
「る、ルシアン王!ダメじゃないですか、まだお話の途中なのに」
「メリーさん。ボクはディアーナ様がこの城に入ってから何日も待っていたんです、どうしても、ちょっとでもだめですか?」
ちょっと拗ねたみたいに抗議するルシアン王。
きっと私たちを優先してくれたけど、待ちきれなくなって来ちゃったんだ。
ディアーナ様を保護するのにたくさん力を貸していただいたから、一番にお会いになりますか?って言ったら『専属使用人の君たちが先に会うべきだから』って身を引いてたのに。
結局待てなくて入ってきちゃうんだから。
もう少し待ってくれたら話全部終わって、お茶でも入れなおしてお呼びするつもりだったんだけど。
「もう少しだけ待っていただけませんか?今重要な話の最中で」
「でもすっかり夜だ。メリーさんは、今夜ボクと外交のために出立するんですよね?もう時間が危ういですよ」
「えっ!?そんな、まだ時間はあったはず……」
「懐中時計を見るといい。今時期は太陽が長く出ているから、時間を忘れがちになりますよ」
秘書官に選ばれたときに授与された、懐中時計を開く。
どうしよう、今夜は遠方の国に行く予定だったのに、あと10分で出発しなきゃいけない!
「あわわ……!急がなきゃ!ルシアン王、行きますよ!」
「ボクはディアーナ様とお話しているから、先に行っていいですよメリーさん」
「ダメです!離れがたくなるに決まってるんですから!」
ルシアン王の腕を掴んでこの部屋を出ようと引っ張るけど、なんとしてもここにいると言いたげに踏ん張られる。
もう!大人げないっ!
もう20代の中盤なのに、まるで子供みたいな顔で「嫌です」と言いたげなルシアン王。
私より2歳は年上なのに、まるで弟みたい。
こういうところが国のお年寄りにウケてるんだけれど、王様としてはもっとキチンとしてほしい。
王様相手に強引にしたら不敬っていうのはわかってるけど、そんなことじゃ秘書官は務まらない!
『ディアーナ様に接するように、ボクにも接してください』
『でも、私はいきなり転がり込んできた身ですし、私はディアーナ様の専属だったとはいえただの使用人だったのにダメですよ』
『じゃあ、ボクの秘書官になれるように努力してもらえませんか?そのための勉学は用意できますから、あなたに側で支えてほしいんです』
『どうしてそこまで……』
『ディアーナ様が、羨ましかったんです。専属使用人の方々ととっても気心知れた関係に見えた。だから、ボクも欲しいんです。そんな、遠慮のない人が』
私がコマチちゃんの説得でステラディアの王子だった彼に雇われた後のこと。
それは、ずっと変わらないルシアン王のお願いだったから。
みんな自分より年上だったルシアン王。
唯一年が近くて、遠慮なく接してくれるレオン王子はもうディオメシアの人になってしまった。
だから、私はこの人に遠慮なく口も手も出すんだ。
「確かに離れがたくなるかもしれませんが、もしかするとそんなことはないかも」
「絶対なりますから!ほら行きますよ!」
「待ってください。一言だけ、ちょっとだけディアーナ様に言わせてください」
「ルシアン王のちょっとはちょっとじゃないじゃないですか!前そう言って一時間以上土いじりしてたの覚えてます!?」
「じゃ、じゃあ1分でいいですから!すぐ、ね?お願いしますメリーさん」
それなら、いいかと力を緩める。
次の瞬間、ルシアン王は、ディアーナ様の手を取って指先に口づけした。
ディアーナ様は私が用意した高価な服を着てくださらないから、粗末な服に身を包んでいる。
そして、ルシアン王は王様らしい豪華な服に外套まで纏ってる。
本来の秘書官だったら、それをやめさせるべきなんだろうな。
でも、私はルシアン王が王宮に居たときからディアーナ様を好きって知ってる。
『尊敬してただけです』っていうけど、それだけじゃないことなんか当時から分かってた。
実現しなかったし、政略結婚みたいなものだから簡単に決めちゃいけないのはわかってる。
だけど、きっと。
ルシアン王とディアーナ様が結婚してたら幸せになってたんじゃないかな。
このディアーナ様は、本物の王女様じゃないけれど。
「ディアーナ様。あなたにずっとお会いしたかった」
「る、ルシアン王」
「七年で、さらに美しくなられた。ボクは、あの頃言えなかったことがあるんです」
優しく、ルシアン王がディアーナ様の手を包み込む。
大事に大事に。
さすがに誰も喋らなかった。
ジークさんなんかさっきまでディアーナ様に噛みついてたのに、目をそらして黙ってる。
それだけ、絵になる光景だった。
「ボクは、あなたの隣に立てる男になったでしょうか?」
「その言葉、どうしてわたくしに」
「あなたに誇れる、あなたを守れる、あなたに頼られる王になりたかった」
ルシアン王はディアーナ様の頬に手を伸ばす。
まるで、恋人に向ける視線。
私は特別な相手もいないし、経験もあんまりない。
それでも、目が愛しいって伝えてるのはわかる。
「今、あなたに求婚したら……受けてくださいますか?」
ルシアン王は、求婚してるディアーナ様が偽物だって知らない。
だけど、それをこの場の誰も指摘しなかった。




