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211話 原作者の予言が当たる日

同日同時刻。

巨大船団会社であるタイタニーの本拠地のある国。

そこに停泊している大きな船の中では涙を流す男がいた。

誰であろう、オールシー船団船長である。


そんな彼のそばで背中を撫でるのは、操舵長と呼ばれた豪気な女性。

別に隠しているわけではないのだが、船長と操舵長は夫婦である。

船長を慰めているその部屋に、ノックの音が響いた。



「船長、操舵長。エラ……じゃなくて、ライラです。今いいですか?」



扉を少し開けて、おずおずと顔を出したのはエラ。

今はライラとして生きている彼女が、ちょっと申し訳なさそうに二人を呼んでいた。



「ライラかい?悪いけど今船長は話せる状態じゃないんだよ」

「それはわかるんですけど、さっきタイタニーの人が急ぎで来たんです。『早急に伝えてください』って」



オールシー船団はディアーナ王女……主人公からの予言を受け、即座にこのタイタニーの本拠地に足を踏み入れた。

そこにいたのは、タイタニーのボスである老人が危篤という現実だった。


『なぜここに!?ボスの病状は誰にも漏らしていないはずなのに』

『だが、オールシー船団はボスが気に入っていた連中だろう。一目あわせてやってもいいんじゃないか』

『運が良かったな、ボスが会いたいそうだ。失礼がないようにしろ』


タイタニーの幹部たちがトントン拍子に船長を案内し、まさかのさっさと世界の貿易や軍事を左右するタイタニーのボスの病床に招かれてしまった。


普通であれば対面するのもアポイントメントが必須な重要人物は、オールシー船団の船長を見て嬉しそうに笑った。

顔には誰が見ても分かるほどに生気がなく、死相すら浮かんでいる。


『なんと嬉しいことか。ワシが死ぬ前にお前だけが、競合の中でお前だけは来てくれた』

『師匠。まさか、死ぬなんて言わないでください。今あなたが死んだら、情勢は混乱します!武器を独占して、戦いをこの世界からなくすんだって言ってたじゃないですか』

『それなのだがな、お前にすべて譲ろう。オールシー船団、実にいい商売敵に成長した!船長のお前は、ワシの跡を継いでボスになるのだ』

『はい!?待ってください話が早すぎます、そんなつもりはない!』

『決定だ!!おい、通達しろ。ワシが死んだら、タイタニーとオールシー船団は合併!新しいボスはこいつだ。くれぐれも、ワシの意志を穢してくれるな』


あれよあれよなど生ぬるい。

船長の意志など聞かないままに死にそうなタイタニーのボスは勝手にそれを決め、その流れを止めることなど船長にはできなかった。


そして今。

船長が何を言おうとタイタニーのボスの決定は絶対なのである。



「無理だぁ……タイタニーはオールシー船団の5倍以上の規模があるんだぞ…あっ、また腹が」

「はいはい、ほら薬だよ!ったくあんたは昔っから追い詰められるとすぐに泣く!あのタイタニーの爺からの指名だ。それだけ評価してくれてるってことだろう?」

「あの爺さん、昔からああいうところあるんだ。もしかして、一番最初に見舞ったばっかりにこんなことに!?」

「でも、行くって言ったのは船長じゃないですか。ディアーナ様の予言を信じたんでしょう?」

「まさか予想以上の事態になるとは思わないだろう!?タイタニーの幹部の人達も、とっくにボス扱いしてくる!」



ヒィィィと泣きながらお腹を痛めている船長に、操舵長はため息をついた。

この船長、商売や人との関わりも実にうまい。

その上、今回のように運にも恵まれている。タイタニーのボスとはその運で商売のノウハウを学ぶことが許された師弟関係だ。


だがしかし、実に心根は小心者なのである。

慎重、無理しない、戦いも嫌い、敵を作りたくないから一番にもなりたくない。

商人として「世界一の船団を」という夢はもちろんあるが、それを目の前に出されてこの反応である。


そんな彼を「しぶとく生き残る天才」とタイタニーのボスは評価した。

『いつかお前を頂点に立たせてみたい』とも言っていたのだが、それが実現するとは船長はつゆほども思っていなかった。



「やっぱりもう一回お目通りを願う!俺がボスなんて無理だ!」

「あの、そのことなんですけど船長いいですか?」

「なんだライラ!」

「さっき、タイタニーの人がこれとこの手紙を持ってきました。『必ず船長だけが見ろ。見たら手紙は燃やせ』って……わたし、この形式よくわからないんですけど『渡せばわかる』の一点張りで」



エラが手にしていたのは金の懐中時計と真っ黒な封筒だった。

懐中時計の蓋部分には波や貝が彫られ、赤に緑、青に白と小さな宝石が埋め込まれた高級品。

一点ものだろうこの時計一つで3人が乗っているオールシー船団の大きな船を買うのは訳ないほどに高価な品。


それを見た船長は「ヒッ」と小さく声を上げた。

さらに黒い封筒。

手にした船長の顔色は真っ白になっている。



「こここ、この時計は、タイタニーの」

「あの爺さん、よくこの時計を自慢してたねぇ。で、その封筒は何だい?」

「ら、ライラ。蝋燭と火をもらえるか…この手紙は炙り出しなんだ」



エラは急いで火を用意した。

震える手で封筒の中にあった紙をあぶっていく船長。


紙に文字が現れた瞬間、船長は手を滑らせた。

紙はあぶるを通り越して燃えていく。



「船長!?何してるんですか!!」

「間に合わなかった……そんな、本当に一週間しか経ってないのに。予言が、当たってしまった」



信じらえないといった様子の船長は、涙を流した。


そう、この日は森の中で密談を交わした日から一週間後。

予言の日。

タイタニーが、形を変える日。



「ボスが、師匠が死んだ。すぐに、本拠地に来いと」

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