195話 私の過去の夢、私の夢みたいな現実
「ディアーナ様、ディアーナ様っ!」
聞き覚えのある声が、する。
懐かしい、優しい女の人の声。
ふかふかのベッドで、いつもおはようと言ってくれた声だ。
(あれ、ここ王宮……?)
じゃあ早く起きなくちゃ。
今日は何通親書を書くんだっけ、いくつの視察をこなすんだっけ、訓練もしなきゃ。
子供にやらせる仕事じゃないよほんと。
私の中身が成人女性じゃなかったらとっくに放り出してるって。
(メリーの朝ごはん食べて、アテナに身支度手伝ってもらって、コマチに書類分けしてもらって、ジークに訓練つけてもらって……)
待てよ。おかしくない?
私、今どこにいるって?
私の最近のルーティーンは「起床→おねえさんと朝食づくり→食べたらおじさんと協力者のみんなにあいさつ→洗濯」でしょうよ。
王宮じゃなくて七年お世話になってるちょいボロなお家でしょ?
それに、今はソルディアの安い宿に寝てるはずでしょ?
(わかったぞ、これは夢だ)
そうかそうか。
久しぶりにふかふかの布団で寝たから王女時代を思い出したんだな納得。
なら久しぶりのメリーの声がするのも当然だ。
エラとの交渉前に、アテナとメリーとエラに出くわした時は全身全霊をもって逃げたから記憶に残ったんだね?
声も聞いてたから、夢が都合よく王宮時代の夢を見せてくれたんだ。
(嬉しい。本当はみんなに会いたかったから)
私が王宮で生きていくために、自分を守ってくれるように選んだ「原作に関わらないだろう人間」で構成した専属使用人。
はじめはどんな理由だって良かった。
メリー、アテナ、コマチには盗みを追及して買収したようなもの。
ジークにいたっては偽物なのに王女であり孫っていう立場でヴァルカンティアから奪った。
やり口は悪役令嬢みたいなものだったのに。
3年。
それだけの時間でこんなにもそばにいて当たり前の仲間になっていたから。
だから、七年前にみんなを切り離した。
私と関わるともう碌なことにならないから、遠ざけるように過ごしてきた。
でも、みんなを忘れることなんてない。
4人とも、原作世界ではモブキャラだった。
間違いなく、名前すら出していない。
私の記憶に刻まれた、愛しい人たち。
(夢の中でくらい、喋ってもいいよね)
目を閉じたまま私は、声をあげた。
寝てるから声が出にくい。
でも夢の中で思い通りにできる明晰夢だ。
「みんなに、あいたい……」
ここであったことは現実じゃない。
この声はみんなに届かない。
だからこそ出た言葉だった。
返事は求めてない。
求めていいわけない。
なのに。
私の耳に信じられない返答が聞こえた。
「はい!会いましょうディアーナ様っ!!」
元気がよくて、かわいらしくて、実は一番怒らせちゃいけないメリーの声。
それが、ハッキリと私に返事をした。
私の記憶にあるような声なのに、それは間違いなく私の声に返事をしてる。
これは過去の回想でしょ?
こんなこと口に出したのなんか初めてなのに返事?
「……へ?」
「ステラディア近衛兵さん!丁重にお願いします!ステラディアの城まで!」
「はい!メリー様!!」
メリーの声に従うように、野太い男数人の声が圧になって襲う。
眠気は一瞬にしてなくなった。
重かった瞼がバチッと開けば、目の前には蠟燭の灯りに照らされたメリーの嬉しそうな顔。
そして何より、私のベッドを取り囲む男たち!!
あんまり広くない、ベッド二つ置いたらパンパンの宿の部屋がむさ苦しくなっていた。
私の枕元にいるメリー以外、わずかな通路にも荷物を置けるだけの隙間を埋めるような床も、何ならドアを開けてる部分にも男がいる。
4人の男と一人のメリー、ついでにベッドの上の私。
(誰だこの状況!!)
メリーはあの頃のメイド服でもない。
質のよさそうなパステルカラーのドレススカートに、金色の髪をポニーテールにしていて仕事ができる感じ。
それに、男たちは鎧を着てる重装備。
もしかしなくても、今のメリーだ。
ルシアンの右腕として活躍してる、女傑。
嫌な予感がするぞ??
これは逃げられないのでは。
(いや、でも逃げなきゃ!このまま捕まったら絶対みんなに再会パターンだし!)
ベッドから起き上がろうとしたけど、それもできない。
力が入らない、というよりもはや手足も一直線で動かない!
ふわふわのものが全身を纏わりついていて、ようやくその時に自分の体を見た。
なんと、いつの間にか毛布に簀巻きにされた上から縄でぐるぐると拘束されていたからである!!
芋虫状態のままベッドに寝かされ、それを優しいニコニコ笑顔で見下ろすメリー……
(こわっ!どんなホラーだよ!)
今日ほど、平穏を絵にかいていたようなはずのメリーの笑顔に冷や汗をかいたことはない。
私、どうなるんだ!?




