194話 私だって疲れた。原作者だからって人間だ
時はさかのぼり、数日前……
衝撃の再会を果たす前。
私はエラたちを見送って、自分たちも早く拠点に帰ろうとしていた。
けど……
現実、ソルディアで私は宿の寝床に寝転んでいた。
ベッドの上にダイブする私をおねえさんが「こら!はしたない!」って叱るけど今は聞かないフリ。
「は~、やっぱり寝具はいいなぁ。野宿だと体中痛くって」
「ライラちゃん、まだ若いのに体痛いの?それじゃあ先が思いやられるなぁ」
「うっ!今日はオールシー船団との交渉が終わったんだから、大目に見てくれない?おねえさん」
「たしかに、頑張ったもんね。ゆっくり休めばいいよ」
おねえさんと私は2人部屋で寝転びながら今日の疲れを癒していた。
ディアーナ時代から変わらない私の癖。
いい寝具にダイブすると一気に疲れが吹っ飛ぶのは、割と共感されると思う。
それに、さっきまでいきなりのディアーナ王女ムーブをしていたから、疲れた。
もはや染付いていた仕草と口調だったから、成り代わったばっかりの当時より楽だけど。
今後、突発でディアーナ時代の知り合いに会うかもなんだよな……
(まだ私が「ディアーナ王女」でいないと困る。特に専属使用人のみんなはどんな動きをするか完全に予測不可能なんだから)
欲を言えば、拠点の自分の部屋の寝床でぐっすり眠りたい。
なのだけれど、それは叶わなかった。
エラとオールシー船団の船長を見送って、私たちも帰ろうとしたんだけど……
『ライラちゃんすまない。馬車が今日は全部出払ったらしい、今日ソルディアを出るのは難しいな』
『本当に?父さん、馬車はたくさんあるからすぐに帰れるってさっき言ってたよね』
『初めてだよこんなことは。海路で行こうにも、いきなり波が出てるらしくて船には乗せられないって断られた』
『おじさん、それ本当?ソルディアは貿易の要所なのに、交通手段が全部ダメになるとかある?』
『さぁ……なんでも、ルシアン王からの要請らしくてね』
『なぁにまた戦争関係?ソルディアとステラディアはまだ安全って聞いてたのに』
夕暮れの中、ソルディアを出国しようとした私たちを待ち受けていたのは交通網の全滅。
ここまでは馬車できたから、帰りもそうしようとしてたのに。
結局、予定になかったソルディアの宿屋で一泊することになった。
悲しきかな、交通が全滅したら現地でなんとか一夜を過ごすのは現代日本でも、小説の世界でも同じだ。
ちょっと古くて壁も汚れが目立つけど、寝具はふかふかだし隙間風もない。
ソルディアは貿易で人が多く入る。
前までは商売以外来るな!って閉鎖スタンスだったけど、ルシアンが統治するようになってからかなり寛容になったみたい。
宿屋が結構あって、突発の宿泊でもOKだったんだからいい国!
(なかなか他じゃこうはいかないよ。最悪森の中で虫に悩まされて寝ることになるし)
懐かしいなあ、転生前のこと。
イベント帰りに悪天候で飛行機が飛ばなかった日。
どうしようって焦って、空港の隅の床で一夜を過ごしたっけ。
この世界に転生して17年くらい経つけど、まさか同じような経験をするとはね。
ベッドが柔らかくて、疲れた体に染みる。
ふわぁとあくびをすると、瞼は勝手に下りてきた。
「ライラちゃん、眠い?」
「うん、久しぶりにゆっくり眠れそうだから……」
「最近野宿ばっかりだったもんね」
ここ3ヶ月くらい、計画を最終段階に移すための長旅だった。
もうすぐ私が作った原作の終わりが近い。
時系列だと、ディオメシアの崩壊まであと半年くらい。
最近属国の反乱と侵略がひどいし、このままじゃハッピー生存計画も無理だ。
だから、シー先生とあくまで『そこそこ』の提携をして原作を変えようとしてるんだけど……
(ディアーナの逃亡なんてストーリー破綻が起きてるんだから、どうなるかなんてわからない)
だめだめ。
疲れすぎて頭回んないや。
「ごはんはどうする?あたしと父さん食べに行くけど」
「私は寝る……今日は疲れちゃった」
「わかった。じゃあ何かお土産に買ってくるね、ゆっくりしてな」
「いってらっしゃ~い」
頼れる姉御なおねえさんに軽く手を振った直後、私の意識はぼんやりしていく。
原作において重要な軍事ポジションのオールシー船団を引き込むために、それはもう頭を使ったんだ。
(これでオールシー船団が私たちにだけ武器を卸して独占できれば、戦争の被害は軽く済むはず)
オールシー船団が世界に武器を輸出したことで、人間同士が傷つけあう戦争が激化する。
その結果、死ななくていい命をたくさん散らせた。
そうさせたのが誰かって?
原作者の私だよ、つくづく恨みとか闇しか詰め込んでなかったなあの時は。
人が死ねば死ぬほど劇的だよねって殺しまくったから、今となっては書いてた私をぶん殴りたい気分だ。
「これで対話で全部解決できれば……むにゃむにゃ」
一人きりになった部屋、ふかふかの寝具、脳疲労。
緊張がなくなったのもあって、私はすんなり眠りに落ちた。
目が覚めたとき、まさかの事態になっているとは思わずに。




