190話 四者四様の思考
洞窟の中は殺伐としていた。
照らす青い不思議な炎のせいか、それとも与えられた情報によってなのか。
アテナ、コマチ、ジークの顔色は悪いように映る。
笑い声はもちろん、息を吐くのすら忘れていた。
(こいつ何言ってんだ)
(嘘だ。アテナが彼女はディアーナ様ではないと判断したというのに)
(思ったよりシリアスな展開すぎて胃もたれしそうなんですけど、いつまで続くんです?)
三人の脳内には、様々な憶測が飛び交っている。
コイツは頭がおかしくなってるのか?
あたしは最近ディアーナに会ってるのに、騙されるかよ。
こんなに思わせぶりでダラダラ話されるとムカつくな……
あと5分で話し終わらなかったら手出ていいか?
ディセルは目の前の眠る女こそが本物のディアーナ王女だという。
だが確かに眠る女とディアーナ王女はあまりにも似ているらしい。
では自分たちの主であるあの方は、王女ではない?
信じられない。信じたくもない!
さっさと終わりませんかねぇ。
なんで一気に言わないで引きを作るんです?
あんまり時間かけると俺にも仕事ってものがありますし、暇じゃないんですよねぇ。
内容は全部暗記するとして、俺よりコマチのほうが予測は早いでしょうから俺から何かしなくてもいいですか?
……思考力すら個性が強すぎるのが彼ら専属使用人ズである。
一方ディセルも、手ごたえのある反応に、思わず黙りこくってしまっていた。
不用意な一言は、次の瞬間彼らが牙をむいてもおかしくないほどの衝撃を与えるからだ。
「自分たちの主を偽物というのか」と。
そうなってもおかしくないほどに、専属使用人たちは数年の濃密な時を過ごした自分たちの王女を信じている。
(まったく、たった3年ほどしか共にいなかったはずなのにここまで慕われるとは。愛が重いやら深いやら)
沈黙が場を埋め尽くしていた。
誰もが、次の一声を誰が発するかをためらう。
次に言葉を発したものが、この空間を制すると肌でわかる。
(おい、誰か喋れよ)
(まだ情報が少ない中で先陣は切りたくないです)
(この沈黙の意味とは?)
(彼らは深く思考しているのだろう。優秀な者たちだから……)
だが、次に飛び出たのはディアーナ王女の正体を暴くものでも、新たな情報を出そうとするものでも、ましてや危害を加えようと飛び掛かるものでもなかった。
「せん、せいっ!」
ザリザリと音を立てながら必死に立ち上がろうとするジャックが、声を振り絞った。
ジークに気絶させられていたというのに、ジャックはよろめきながらもディセルに向かって歩いていく。
その顔は、怒りに満ちていた。
ずっとシー先生と呼んで慕っていた彼からは、想像もつかないほどに。
ジャックはアテナ、コマチ、ジークにとっての重要参考人だ。
ここまで連れてきたのも、
「ジャック、いきなり起きないほうがいい。今は休みなさい」
「休めるか!何言った、今!」
「別に君が起こるようなことは」
「あいつが!命かけて守ってきた秘密だろ!なんで勝手に話した!」
ジャックの剣幕にディセルは狼狽えた。
その顔は、先ほどまでの知略とすべてを背負ったディセルではない。
スラムで民たちと生きてきた、頭がよくて優しいシー先生のもの。
ジャックはそれでも止まらない。
よく慕うシー先生が、ライラの許可なしにすべてを話しそうになったこと。
それは、彼の中で最大級の地雷。
「これは大切なことなんだ。ディアーナが完全に目を覚ましたら協力者が必要だろう?だからそのために」
「黙れ黙れ!あいつの十年無駄にすんのか!」
「違うよジャック。これは彼らを試そうと」
「だったらここにライラを呼べ!あいつの仲間に話すのに、本人がいないのおかしいだろ!」
「だけどそれだと私たちの計画が」
「知るかそんなもん!俺はあいつが、あいつのためにここまで来たんだ!あんたのためじゃない!」
ヒートアップしていくジャックの声が耳にキンキンと響く。
聴覚の鋭いアテナは、聞き苦しいとばかりに耳を塞いだ。
「アテナ、どうしました」
「耳にキンキン来やがる。音が痛ぇ」
「塞ぎましょう。何か必要なものは」
「いや、まだ大丈夫。悪いな、考え中に」
「問題ありません」
コマチそんなアテナを気にかけつつもコマチは何かを考えこむ。
七年で研ぎ澄まされたアテナの聴力と、コマチの頭脳。
二人は影響を受けながらも、言い争う男たちから目を離さない。
このままだとジャックがディセルを殴り飛ばしそうな空気感。
すでにディセルより背丈も体も大きくなったジャックは、胸倉をつかんで拳を握りしめていた。
「おい、声うるせぇ」
「勝手にしゃべるならあんたを殺す」
「それはいけないよジャック、殺人はいけないと」
「もう俺は殺人者だ!今更だろ」
「聞こえちゃいねぇ……」
耐えかねたアテナの声は全く男二人の耳に入らない。
それどころか、声はさらに大きくなっていく。
そして、ジャックは、ついに拳を振り上げた。




